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大学院生 永沼 美弥子さんらの研究成果が、ACS Bioconjugate Chemistryに掲載

2023.11.16
  • TOPICS
  • 学生の活躍
  • 研究
  • 理学部

デコイ核酸型PROTACの構造最適化に成功

生命医科学研究科 創薬有機化学研究室 博士後期課程3年の永沼美弥子さんらの研究グループは、デコイ核酸型PROTACの構造最適化に成功に成功し、研究成果がACS Bioconjugate Chemistryに掲載されました。
論文著者
生命医科学研究科 博士後期課程3年
創薬有機化学研究室

永沼 美弥子ながぬま みやこさん

指導教員:
大学院生命医科学研究科
創薬有機化学研究室 出水 庸介 大学院客員教授
論文タイトル 
「Structural optimization of decoy oligonucleotide-based PROTAC that degrades the estrogen receptor」
エストロゲン受容体を標的としたデコイ核酸型PROTACの構造最適化

掲載雑誌
ACS Bioconjugate Chemistry
DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.3c00332
永沼さんがデザインしたアイキャッチ画像がカバーアートとして選ばれました
研究内容
—今回の研究内容について永沼さんに解説していただきました。
PROTACは、ユビキチンリガーゼリガンドと標的タンパク質リガンドを適切なリンカー*1を介して連結したキメラ分子*2です。PROTACは、生体内のタンパク質分解機構であるユビキチン-プロテアソームシステムを利用することで、標的タンパク質をプロテアソーム*3によって強制的に分解誘導することができることから、既存の医薬品では治療が困難な疾病に対する革新的な創薬戦略の一つとして期待されています。これまでは主に低分子化合物を標的タンパク質リガンドとして利用したPROTAC開発が主流になっていましたが、一方で、最適なリガンドが存在しない転写因子*4などの一部のタンパク質への適応が困難であることから、近年、オリゴ核酸を標的リガンドに用いたPROTACが開発されています。DNA結合領域をもとに設計したデコイ核酸型PROTACは、分子設計が容易であり、転写因子分解誘導剤としての有用性が期待されています。私達はこれまでに、エストロゲン受容体α(ERα)を転写因子のモデルとしたデコイ核酸型PROTACとして、LCL-ER(dec)の開発に成功しています。しかしながら、標的リガンドに用いるデコイ核酸は、天然のDNA配列であり、生体内の酵素による分解が懸念されます。そこで本研究では、LCL-ER(dec)の化学的安定性の向上を目指したPROTACを開発しました。

リードPROTACであるLCL-ER(dec)のデコイ核酸部分に対して、2種類の核酸修飾*5を行ったPROTACを設計・合成し、各種活性評価を行いました。エクソヌクレアーゼに対する酵素耐性を評価した結果、いずれのPROTACも天然配列のPROTACと比較し、酵素耐性を獲得していることが示唆されました。さらに、ERα分解活性を評価した結果、LCL-ER(dec)-H46(T4ループ構造)は選択的にERαを分解し、その活性は長時間持続することが明らかとなりました。本研究で、構造安定化を狙ったT4ループ構造の導入は、デコイ型PROTACの修飾として有用であることが示唆されました。
図 本研究で開発したPROTACの分子設計
永沼 美弥子さんのコメント
本研究は、近年注目されている創薬手法であるタンパク質分解誘導剤「PROTAC」にオリゴ核酸を利用した核酸型PROTACの創製研究です。自身で見出した核酸型PROTACに対する構造修飾を行うことで、より安定した分子を見出すことができました。博士課程の研究の厳しさに、時に落ち込むこともありましたが、すべてのデータを自身で取得し論文としてまとめることができ、達成感を感じています。今回の論文においても、Supplementary Journal Coverに採択して頂きとても光栄です。
また、本研究の遂行にあたり、日頃からご指導頂いている出水先生をはじめとした国立医薬品食品衛生研究所有機化学部の皆様、共同研究としてお世話になりました国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部の大岡先生の他、ご支援頂いた皆様に深く感謝申し上げます。

指導教員 出水 庸介 大学院客員教授のコメント
永沼さん、論文アクセプトおめでとうございます!
今回の研究では、昨年に発表したデコイ核酸PROTACを化学修飾し、その特性解析を行った成果を報告しました。同じコンセプトで複数の研究グループがほぼ同時期に論文を発表している中でも、永沼さんは強い信念を持ち、丁寧かつコンスタントにデータを積み上げ、論文の執筆やリバイス対応もほぼ一人で行いました。さらに、今回の研究でも自身がデザインしたアイキャッチ画像がカバーアートとして選ばれたことは素晴らしいですね。
永沼さんは博士1年から創薬有機化学研究室に所属し、共に研究を進めてきましたが、博士学生特有の将来へ不安も抱えつつも、研究に真摯に取り組む姿勢は後輩学生にも(私にも)良い刺激を与えていると思います。この3年間での急速な成長は驚くべきものであり、社会でも大いに活躍できる人物になることを確信しています。
残り期間はわずかですが、このまま卒業まで突き進んでいきましょう!

用語説明
*1 リンカー:アルキル鎖、ポリエチレングリコール(PEG)、アミド構造等から構成され、2つ以上の薬剤を結合するために使用する。
*2 キメラ分子:主に1分子の中に2つ以上の異なるリガンド構造を有する分子。PROTACは、E3リガーゼリガンドと標的タンパク質リガンドをリンカーで結合させた構造を持つ。
*3 プロテアソーム:細胞質や核内の不要なタンパク質を分解する約2.5MDaの巨大な酵素複合体。ポリユビキチン鎖により標識されたタンパク質を選択的に分解することで様々な生命現象を制御する。
*4 転写因子:DNAに配列特異的に結合するタンパク質で、プロモーターやエンハンサーといった転写制御領域に結合し、RNAポリメラーゼによる遺伝子の転写を活性化あるいは不活性化する。
*5 核酸修飾:(本研究で用いた修飾)オリゴヌクレオチドのホスホジエステル結合のリン酸基の酸素原子を硫黄原子で置換する化学修飾方法であるホスホロチオエート化。二本鎖核酸の末端を数塩基の核酸でループ構造にしたヘアピン化。
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