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大学院生 村上 優貴さんが筆頭著者の論文が Digital Discoveryに掲載

2023.08.24
  • TOPICS
  • 学生の活躍
  • 研究
  • 理学部

国立医薬品食品衛生研究所との共同研究により、抗菌ペプチド設計AIの開発に成功

 生命医科学研究科 生命情報科学研究室の村上 優貴さん(博士前期課程2年)らの研究グループは、多様なペプチドを加味した抗菌ペプチドを設計できるAIを開発し、実験的な検証により新規抗菌ペプチドの効率的な設計に成功しました。その論文が、Royal Society of Chemistry(英国王立化学会)が出版している「Digital Discovery」誌に掲載されました。
論文著者
大学院生命医科学研究科 博士前期課程2年
生命情報科学研究室

村上 優貴むらかみ ゆうきさん

指導教員:
大学院生命医科学研究科
生命情報科学研究室 寺山 慧 准教授

論文タイトル
Design of antimicrobial peptides containing non-proteinogenic amino acids using multi-objective Bayesian optimisation
多目的ベイズ最適化による非天然アミノ酸を含む抗菌ペプチド設計


掲載雑誌
Digital Discovery

—今回の研究内容について村上さんに解説していただきました。
近年、次世代の抗菌薬として細胞膜に直接作用する抗菌ペプチド*1が注目を集めています。抗菌ペプチドの設計においては、複数の菌に対する抗菌活性とヒト細胞への低毒性の両立が求められます。また、代謝安定性向上等の観点から非天然アミノ酸*2や架橋構造*3を考慮した抗菌ペプチドが有望であると期待されています。しかし、このような抗菌ペプチド設計の多くは、研究者の勘や経験に基づいており、より効率的な設計戦略を目指して、機械学習等を用いたデータ駆動型の抗菌ペプチド設計手法が盛んになりつつあります。ただ、重要な要素である非天然アミノ酸や架橋構造を取り扱い、複数項目を同時に最適化する手法はこれまでありませんでした。
そこで本研究では、非天然アミノ酸や架橋構造を考慮しつつ、多目的ベイズ最適化*4を用いて複数項目を同時最適化する抗菌ペプチド設計AI(MODAN*5)を開発しました(図1)。実験的な検証により、本手法は非天然アミノ酸を含み、複数項目で良好な値を示す抗菌ペプチドを設計できることが示されました(図2)。本研究により、抗菌ペプチド設計AI開発の更なる発展に貢献することが期待され、MODANが抗菌ペプチド設計をサポートする手法となる可能性が示唆されました。MODANはgithub(https://github.com/ycu-iil/MODAN)上で公開しており、誰でも自由に利用可能です。

*1 抗菌ペプチド:アミノ酸から構成される抗菌作用を有するペプチド
*2 非天然アミノ酸:ヒトのタンパク質を構成する20種のアミノ酸(天然アミノ酸)以外のアミノ酸
*3 架橋構造:同一のペプチド上に存在する離れたアミノ酸同士を繋いだ構造
*4ベイズ最適化:予測モデルの構築(更新)、検証するべき条件の選択、実験的検証のサイクルを繰り返すことで、効率的に最適解を見つける手法
*5 MODAN:Multi-Objective Bayesian framework consisting for the Design of Antimicrobial peptides that could consider various Non-proteinogenic amino acids containing α,α-disubstituted NPAAs, and side-chain staplingの略称
 
図1:本研究の概要
図2:本研究で設計・評価された抗菌ペプチドの例。DH5α(大腸菌)及び黄色ブドウ球菌に対して、初期配列(Initial)よりも活性が高く、溶血性も少ないペプチドの設計と合成に成功した。配列中のU(Aib)及びO(オルニチン)は非天然アミノ酸であり非天然アミノ酸を含んだ抗菌ペプチドであることがわかる。ヘリカルホイール図を用いてアミノ酸の相対配置を可視化した(図下):Initial peptideのアミノ酸, ダイヤ型:置換したアミノ酸, 青:正電荷性の天然アミノ酸, 橙:疎水性の非天然アミノ酸, 緑:正電荷性の非天然アミノ酸
村上さんのコメント
この度は、本研究の成果を論文として掲載することができ、大変嬉しく思います。本研究を進める上で、プログラミングコードの作成、ペプチドの合成・評価、論文執筆など多くの困難に直面しましたが、その一つ一つに粘り強く取り組むことで、今回の論文化が実現しました。本研究の発表に際して、寺山先生をはじめ、創薬有機化学研究室(国立医薬品食品衛生研究所)の出水庸介先生、生命情報科学研究室及び創薬有機化学研究室の皆さんに深く感謝申し上げます。今後も創薬分野の発展に貢献出来るよう研究に邁進して参ります。

指導教員:寺山 慧 准教授のコメント
村上さん、論文掲載おめでとうございます!本研究は、村上さんが本研究室に進学してからわずか一年足らずの間に、ベイズ最適化に基づく設計手法の開発、実験の計画、ペプチドの合成、論文の執筆まで自らの手で行ったもので大変素晴らしい成果です。ドライのAI手法開発からウェットの有機合成・抗菌評価まで一人で行える人材は非常に貴重です。今後もその能力と好奇心を発揮して、さらに研究を発展させてくれるものと期待しています。また、本研究は本学の連携大学院客員教授でもある出水庸介先生(国立医薬品食品衛生研究所)と創薬有機化学研究室の皆様の全面的なサポートなしでは全くなし得ませんでした。この場を借りて深く感謝申し上げます。
 
掲載論文
DOI:10.1039/D3DD00090G 
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