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第三言語としての”文化”~映画、アート、ときどき歌舞伎~

2023.08.01
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歌舞伎俳優 片岡亀蔵さん 特別講演会

6月21日に、歌舞伎俳優の片岡亀蔵さんを金沢八景キャンパスにお招きして「第三言語としての”文化” 〜映画、アート、ときどき歌舞伎〜」をテーマに共通教養主催の特別講演会を開催しました。

亀蔵さんは六月博多座大歌舞伎(福岡市)の千秋楽を19日に終えられたばかりでしたが、本法人の小山内いづ美理事長と亀蔵さんとの10年来の親交がきっかけでこの講演会が実現しました。

小山内理事長は、今から10年くらい前に横浜市の東京事務所長として、主に国内でのプロモーション活動をしていました。さらに、海外へ情報発信し信頼を得るためには、自らが日本の伝統文化を知ることが大切だとアドバイスを受けて、そのときに紹介されたのが亀蔵さんだったそうです。
 「亀蔵さんは、日ごろから時間を作って美術館、博物館に足を運び、美しい造形をみたり、スポーツ観戦をしたり、新しい情報を取り入れることで、自ら観劇のテーマを探求されています。また教養に富んだ記事や情報を、ブログでも発信されています。この講演をきっかけに、日本の伝統文化に触れ、興味を持つことで、多文化共生を理解し、真の国際人として国内外で活躍できる人材に育ってほしいと思っています」と小山内理事長からYCU生への期待を込めたメッセージとともに亀蔵さんの紹介がありました。
会場の参加者全員で、屋号の「松島屋」という掛け声でお呼びすると、亀蔵さんは紋付袴という正装で颯爽とご登場されました。

着物でのご登場ということで、会場で着物を着たことがある生徒に手を挙げてもらうと、浴衣なら経験がある、という学生がちらほら。亀蔵さんから、「浴衣は、花火大会やお祭りに着ていくのはよいけれど、いわゆるルームウェア。今日着ているのは夏に正式な場で着る、絽(ろ)の紋付袴です」と、本日の講座に臨む真剣な姿勢を示しつつ、お召し物をご紹介くださいました。

「閉じこもらずに、体感することが大切、そして発信しよう!」

 講座冒頭では早速本日の講座の要点をご紹介くださいました。
コロナ禍で家にいるのに慣れてしまった人も多い中で、亀蔵さんは60歳をこえてもなお、時間があればすぐに出掛けて人に会って、何事も五感を使って楽しみ「体感」することを大切にされていると言います。それは、誰かが書いたものや誰かが撮った写真、人の評価や評判に左右されず、自分で行って、みて、触って「体感」すること、そして自分の言葉で発信することを大事にされているからです。
歌舞伎は日本の伝統芸能であり、長く愛されてきたライブエンターテイメント。「体感」という言葉がぴったり合うと亀蔵さんは言います。「言語が違う人とみても同じ感動を味わえる映画やアートのように、歌舞伎も難しそうと思わず、肩の力を抜いてみてほしい。それでも挑戦するのに勇気がいるのであれば、最近は『風の谷のナウシカ』や『ファイナルファンタジー』といった皆さんにとっても馴染みのある題材が新作歌舞伎になっているので、まずはそれをきっかけに歌舞伎を『体感』して、そこから古典の歌舞伎もみたいと思ってもらえたら嬉しい」と語りました。
講演会は、共通教養長の本多尚先生と、副共通教養長の陳礼美先生がファシリテーターとなり、亀蔵さんと6名の学生による質問を通じた対談形式で進められました。

対談に参加した学生の自己紹介では「まだ歌舞伎をみたことはないけれど、テレビドラマに出演している歌舞伎役者の声の出し方や所作に心惹かれた、歌舞伎の楽しみ方を知りたい」、「留学したことをきっかけに日本のことを知らないことが分かったので、日本の伝統文化について学びを深める機会にしたい」と、この特別講演会に参加した想いを話してくれました。
本多先生からは参加者への事前アンケートの回答内容も紹介されました。本日のテーマである日本の伝統文化、映画、アートに対するイメージの質問では、難しそう、理解できるか自信がないという回答がありました。ここでも亀蔵さんからは、イメージで決めつけずにまず足を運び、自分自身の目でみて耳で聴くことを大切にしてほしい、とお話しいただきました。
 また、本日は亀蔵さんによる扇子のデモンストレーションが予定されていたため、扇子の用途についてのアンケートの回答が紹介されました。扇子には、茶道や日本舞踊といった日本の伝統文化に付随するイメージのほかに、見立てる、境界線、隠すといった回答もありました。
これはまさに落語や歌舞伎などの伝統芸能での扇子の使い方です。亀蔵さんは扇子の煽ぎ方ひとつで、女性らしさを表現できたり、男性でも大名や田舎者など役の演じ分けができることを実演してくださいました。お化粧や衣裳に頼らず、扇子ひとつで女性らしい艶やかな演技を披露すると、会場からは感嘆の声があがりました。

「第3言語としての“文化”を『体感』しよう」

最後に対談の中のひとこまを紹介します。

学生「海外講演での言葉の壁はありますか」
亀蔵さん「海外ではイヤホンガイドを主催者が用意することがあるけれど、お客様はストーリーがわかってくると外すことが多いです。やっぱり生の音、生の台詞やお囃子が聞きたくなるもので、たとえ言葉の壁があっても『体感』に勝るものはないのだと思います。一語一句を細かく理解することより、表情や身体の動き、雰囲気で内容をつかめる。それが第3言語としての“文化”なのでしょう」

さらに、歌舞伎俳優でありながら映画やアートにも造詣の深い亀蔵さんに、「一番好きな映画はなんですか」という映画好きを困らせる質問も。
亀蔵さんに影響を与えたのは、何とも言えない空気感がお好きという「ゴッドファーザー(映画)」となんと、ゾンビ映画だそうです。ゾンビは人ではないので表現が自由にできるところがお好きなポイント。ゾンビ映画に対する知識や愛は、2009年に上演された宮藤官九郎作・演出の新作歌舞伎『大江戸りびんぐでっど』の場で活かされました。歌舞伎にゾンビが登場する本作は前代未聞の新作として当時大変話題になりましたが、その際に亀蔵さんは宮藤官九郎さんからゾンビ映画好きを見込まれて「ゾンビ隊長」に任命され、ゾンビ役で出演した数多くの歌舞伎俳優にゾンビらしい動きを指導されました。ジャンルを問わない好奇心や探求心が、思わぬところで道を拓いた印象的なエピソードです。

講座の終わりにはYCU生に向けて「効率化が重視される社会の中で、ゆとりをもって豊かに体感するための無駄な時間を大事にして、映画やアート、そして日本の伝統文化を自ら『体感』し自分の言葉で伝えられる、第3言語としての文化を身に付けた大人になってください」というメッセージをいただきました。
亀蔵さん、ありがとうございました! 
今回の特別講演会には、127名の学生、教職員が参加しました。
YCUの共通教養では自ら主体的に課題を発見して解決する力を育て、広い視野と知識から自らの専門性を切り拓く教育プログラムを展開しています。 
歌舞伎の舞台公演を撮影しスクリーンで上映する「シネマ歌舞伎」は全国の映画館で観ることができます。最新情報はこちらよりご確認ください。
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