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COVID関連研究(循環器・腎臓・高血圧内科学)

2022.10.06
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COVID関連研究(循環器・腎臓・高血圧内科学)

 

new! 2022.5.18

Impact of renin-angiotensin-aldosterone system inhibitors on COVID-19

降圧薬レニン-アンジオテンシン系阻害薬の新型コロナウイルス感染症における役割


センター病院 心臓血管センター   松澤 泰志 講師
循環器・腎臓・高血圧内科学 田村功一主任 教授 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの当初から、レニン-アンジオテンシン系阻害薬がCOVDI-19に対して有益に働くのか、有害なのか、影響はないのかに関して議論されてきました。アンジオテンシン変換酵素(ACE)は2種類(ACE1、ACE2)あり、ACE1は昇圧物質のアンジオテンシンII(Ang II)を生成して高血圧、臓器障害をもたらしますが、ACE阻害薬が有効です。一方、ACE2はアンジオテンシンIIを分解(不活化)して降圧作用、臓器保護作用を有し、ACE阻害薬では阻害されません。新型コロナウイルスは、ACE2を受容体として細胞に侵入するため、新型コロナウイル感染症とレニン-アンジオテンシン系との関連が注目されています。ACE2はウイルスとともに細胞内に取り込まれ、細胞膜上のACE2発現は低下します。ACE2は膜タンパクでありアンジオテンシンII(Ang II)の不活化作用を有しますが、新型コロナウイルス感染はACE2発現を低下させ、Ang II増加・活性増強を起こすとされます。Ang II活性増強は炎症性サイトカインストームを引き起こし、肺障害の最重症型である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)へと進展を促すことが示唆されています。レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)はAng II系を抑制する薬剤であり、新型コロナウイルス感染症での炎症性サイトカインストームからの重症化を抑制する可能性が指摘されています。ACE阻害薬とAngII type-1受容体拮抗薬(ARB)はAng IIによるレニン-アンジオテンシン系活性化を抑制し、ACE2発現を増加させます。これらの作用によりCOVID-19における炎症性サイトカインストームを抑制する可能性があります。いくつかの研究によってこの仮説が検証されてきましたが、未だCOVID-19におけるレニン-アンジオテンシン系阻害薬の明確な役割は明らかではありません。さらなる前向き研究によってレニン-アンジオテンシン系阻害薬の役割が検証される必要があります。本論文において、COVID-19におけるレニン-アンジオテンシン系阻害薬の役割のエビデンスをレビューします。


2022.6.28

日本人の血液透析患者では新型コロナワクチン接種後の抗体価上昇が抑制~ピーク抗体価の上昇に寄与する因子は栄養状態と貧血の改善、ビタミンDの補充~

SARS-CoV-2 spike protein antibody titers 6 months after SARS-CoV-2 mRNA vaccination among patients undergoing hemodialysis in Japan

循環器・腎臓・高血圧内科学 金井 大輔 医師、 田村 功一 主任教授、 涌井 広道 准教授
次世代臨床研究センター(Y-NEXT)土師 達也 助教
感染制御部 加藤 英明 部長

新型コロナウイルスワクチン(ファイザー社)接種後に獲得される抗スパイクタンパク抗体について、抗体価の経時的な推移を血液透析患者群と医療スタッフ群で比較しました。その結果、血液透析患者群では、ワクチン2回目接種から1か月後(ピーク値)と6か月後の抗体価は医療スタッフ群に比べて有意に低値であり、透析患者ではワクチン接種後の抗体価上昇が抑制されることを明らかにしました。


2022.6.14

COVID-19患者における入院時の腎機能障害とその重症度が急性期の予後不良因子となることを証明

Chronic Kidney Disease and Clinical Outcomes in Patients with COVID-19 in Japan

センター病院 心臓血管センター内科 佐藤 亮佑 医師(University of Göttingen留学中)
松澤 泰志 講師、日比 潔 准教授、木村 一雄 客員教授
循環器・腎臓・高血圧内科学 田村 功一 主任教授

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)患者における入院時の腎機能がもたらす急性期の予後への影響を検討し、入院時に腎機能障害が認められたCOVID-19患者は、腎機能障害がない患者と比較して、院内死亡、体外式膜型人工肺(ECMO)および人工呼吸器の使用、集中治療室(ICU)入室の合計からなる主要評価項目の発生リスクが有意に高いことを明らかにしました。 

2022.4.18

Impact of the first announced state of emergency owing to coronavirus disease 2019 on stress and blood pressure levels among patients with type 2 diabetes mellitus in Japan

小林 一雄 医師(循環器・腎臓・高血圧内科学 大学院生/神奈川県内科医学会高血圧・腎疾患対策委員会 委員/内科クリニックこばやし院長)
循環器・腎臓・高血圧内科学 田村 功一 主任教授ら

コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける緊急事態宣言はかかりつけ患者のストレスを悪化させ、診察室血圧の悪化に影響を及ぼしたことをすでに報告しました。本研究では、心血管合併症のハイリスクであり、生活のストレスが病態に大きく影響を及ぼすと予想される糖尿病患者310人を対象に検証を行いました。日常ストレスの増加は47%の患者で感じ、食事量の増大、運動量の低下はそれぞれ17%、36%で感じていました。実際に診察室血圧が悪化した症例と悪化しなかった症例の2群に分け、患者背景を傾向スコアマッチングにて調整し解析を行ったところ、血圧悪化患者群において、食事量および塩分摂取量の悪化が認められ、血圧の悪化との関係が明らかなりました。これまでに世界各地からCOVID19パンデミックと血圧、体重、血糖管理の変化に関する報告がなされていますが、詳細な検討と最新の統計解析を駆使し、これらの関連を明らかにした報告はこれまで見当たりませんでした。COVID19パンデミックにおける糖尿病患者の診察においては、平常時以上にストレスにも配慮する必要があると考えられました。

2021.12.24

Influence of stress induced by the first announced state of emergency due to coronavirus disease 2019 on outpatient blood pressure management in Japan

小林 一雄 医師(循環器・腎臓・高血圧内科学 大学院生/神奈川県内科医学会高血圧・腎疾患対策委員会 委員/内科クリニックこばやし院長)
循環器・腎臓・高血圧内科学 田村 功一 主任教授ら

2019年4月コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延防止ため、日本初の緊急事態が宣言されました。「自粛」「stay home」など、社会に多大な影響を与え、結果的に国民に大きなストレスをもたらしました。本研究では相模原市内科医会会員の医院に通院中のかかりつけ患者748人を対象に、ストレスと血圧の変化との関連を検証しました。その結果、診察室血圧は136.5±17.5/78.2±12.0から138.6±18.6/79.0±12.2と悪化しましたが早朝家庭血圧は128.2±10.3/75.8±8.8から126.9±10.2/75.2±9.0と低下を認め、結果として白衣高血圧現象の増加が確認されました。また、患者の58%は、高血圧症とCOVID-19による重症化を心配し、さらに運動量の減少および食事摂取量の増加は、それぞれ39%および17%で確認されました。日常生活の9つのストレスを点数化したところ、点数が高値の患者にて診察室血圧が悪化していることが確認されました。災害にも似たCOVID19パンデミックにおいて脳心血管合併症を予防するために一般開業医はかかりつけ患者のストレスにも配慮しつつ血圧管理を行う必要があると考えられました。

 


2021.8.19
 

Tissue-specific expression of the SARS-CoV-2 receptor, angiotensin-converting enzyme 2, in mouse models of chronic kidney disease

慢性腎臓病モデルマウスにおけるSARS-CoV-2受容体(ACE2)の組織特異的発現とARBが与える影響についての検討

附属病院 腎臓・高血圧内科 塚本 俊一郎 医師(大学院生)
循環器・腎臓・高血圧内科学 涌井 広道 准教授、田村 功一 主任教授

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は宿主の気道や肺などに発現しているACE2蛋白に結合することで感染します。そのため病態によるACE2の発現量の変化は感染のリスクにつながる可能性が示唆されています。本研究では慢性腎臓病(CKD)病態において肺などのACE2発現がどのように変化するのかをCKDモデルマウスを用いて検証しました。その結果、高血圧の有無に関わらず、CKDの病態だけでは肺のACE2発現に大きな変化を与えないことが分かりました。また、ACE2は高血圧治療薬の一つであるRAS阻害薬で発現が増える可能性が指摘されており、この治療がCOVID-19感染のリスクになるかどうかも議論されています。今回、RAS阻害薬の一つであるオルメサルタンがACE2発現に与える影響も検証しましたが、肺などのACE2発現を増加させることありませんでした。本研究の結果は高血圧を伴うCKD患者さんでも安心してRAS阻害薬による治療を継続できることを支持するものであると考えられます。

 

2020.8.21
 

Renin-angiotensin system inhibitors and the severity of coronavirus disease 2019 in Kanagawa, Japan: a retrospective cohort study

センター病院 心臓血管センター 松澤 泰志 講師、木村一雄教授、
循環器・腎臓・高血圧内科学 田村功一主任教授


Since the beginning of the coronavirus disease 2019 (COVID-19) outbreak initiated on the Diamond Princess Cruise Ship at Yokohama harbor in February 2020, we have been doing our best to treat COVID-19 patients. In animal experiments, angiotensin converting enzyme inhibitors (ACEIs) and angiotensin II type-1 receptor blockers (ARBs) are reported to suppress the downregulation of angiotensin converting enzyme 2 (ACE2), and they may inhibit the worsening of pathological conditions. We aimed to examine whether preceding use of ACEIs and ARBs affected the clinical manifestations and prognosis of COVID-19 patients. One hundred fifty-one consecutive patients (mean age 60 +/- 19 years) with polymerase-chain-reaction proven severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) infection who were admitted to six hospitals in Kanagawa Prefecture, Japan, were analyzed in this multicenter retrospective observational study. Among all COVID-19 patients, in the multiple regression analysis, older age (age >= 65 years) was significantly associated with the primary composite outcome (odds ratio (OR) 6.63, 95% confidence interval (CI) 2.28-22.78,P < 0.001), which consisted of (i) in-hospital death, (ii) extracorporeal membrane oxygenation, (iii) mechanical ventilation, including invasive and noninvasive methods, and (iv) admission to the intensive care unit. In COVID-19 patients with hypertension, preceding ACEI/ARB use was significantly associated with a lower occurrence of new-onset or worsening mental confusion (OR 0.06, 95% CI 0.002-0.69,P = 0.02), which was defined by the confusion criterion, which included mild disorientation or hallucination with an estimation of medical history of mental status, after adjustment for age, sex, and diabetes. In conclusion, older age was a significant contributor to a worse prognosis in COVID-19 patients, and ACEIs/ARBs could be beneficial for the prevention of confusion in COVID-19 patients with hypertension.

動物実験では、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンギオテンシンII 1型受容体遮断薬(ARB)がアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)のダウンレギュレーションを抑制することが報告されており、COVID-19の病態の悪化を抑制する可能性があります。この研究は、ACEIとARBの先行使用がCOVID-19患者さんの臨床症状と予後に影響するかどうかを検討することを目的としました。結論として、高齢であることがCOVID-19の重症化に最も大きく寄与しており、ACEI/ARBは高血圧患者のCOVID-19肺炎による意識障害防止に有益であったことが判明しました。

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