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【論文掲載】小児急性骨髄性白血病の新たな予後因子の同定

2023.03.14
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小児科 柴徳生准教授らの研究成果として、小児急性骨髄性白血病の新たな予後因子の同定について論文が掲載されました。

横浜市立大学附属病院 輸血・細胞治療部の柴徳生部長(同大 小児科 准教授)および上武大学医学生理学研究所の林泰秀副所長(上武大学副学長)、群馬県立小児医療センター血液腫瘍科の鏑木多映子部長らは、日本小児がん研究グループ(JCCG)が実施する急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia; AML)の臨床試験に登録され治療を受けた小児患者に対し、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析を行い、小児AMLにおいてUpstream binding transcription factor (UBTF)遺伝子の遺伝子内縦列重複変異(Internal tandem duplication, ITD): UBTF-ITDが新たな予後不良因子である可能性を報告しました。
AMLは血液中に存在する白血球ががん化する血液がんの一種です。小児AMLではこれまでの研究でRUNX1::RUNX1T1融合遺伝子や、FLT3-ITD遺伝子変異などの予後予測因子*1が同定されており、疾患リスクに合わせた治療を行う層別化治療*2が進められてきました。しかしながら、既存の予後予測因子を同定できない症例も多く存在し、治療成績の向上のためには新規の予後予測因子の同定を行うことが重要とされています。
今回の遺伝子解析の結果、小児初発AMLの503例中6例にUBTF-ITDを同定しました。UBTF-ITDを有する症例は小児AMLでしばしば認められる8番染色体が1本多い8トリソミーとの合併が多く、全生存率*3、無イベント生存率*4ともに有意に不良であることがわかりました。これまで、8トリソミー陽性例には予後良好例、不良例が混在していましたが、今回のUBTF-ITDの同定により8トリソミー陽性例の予後を正確に予測することが可能となりました。これらの結果は昨年米国の小児再発AMLを中心とした解析からも同様の報告がなされており、小児AMLにおけるUBTF-ITDが重要な予後因子であることを示唆しています。今後の症例数の蓄積により予後因子として確立することで正確な層別化治療や新規治療薬の開発につながり小児AMLの治療成績の向上に結び付くことが期待されます。
本研究成果は、科学誌『Genes chromosomes and Cancer』に掲載されます。
研究成果のポイント

  • 小児AML503例中6例(1.2%)にUBTF-ITDを同定し、成人AMLには認められず小児AMLに特徴的な遺伝子異常と考えられました。
  • UBTF-ITDを有するAMLの特徴として、FLT3-ITDPRDM16遺伝子高発現*5WT1遺伝子変異、8トリソミーとの合併が多くみられることがわかりました。
  • 本研究の結果は2022年度に米国から報告された小児再発AMLで同定されたUBTF-ITD症例と同様の分子生物学的特徴や予後の傾向を示しており、UBTF-ITDが小児AMLにおいて重要な予後不良因子である可能性が示されました。
  • UBTF-ITDが予後因子として確立することで適切な層別化や新規治療薬の開発を目指すことが期待されます。

研究の背景

AMLは血液のがんである白血病の一種で、小児白血病の中では急性リンパ性白血病の次に多い疾患です。AMLにおいてはこれまで数多くの遺伝子解析が行われ、予後良好因子であるRUNX1::RUNX1T1CBFB::MYH11といった融合遺伝子や予後不良因子であるFLT3-ITDなどの遺伝子変異が複数同定されています。小児AMLではそれらの予後因子や治療反応性を組み合わせた層別化治療が行われており、長期生存率は60-70%まで上昇していますが、30-40%の患者さんは再発や死亡に至り、急性リンパ性白血病の生存率が80-90%であることと比べると未だに十分な治療成績とは言えない疾患です。近年の遺伝子解析研究により多数の遺伝子変異や融合遺伝子が予後因子として同定され、以前と比較しリスクの層別化も進んでいますが、いまだに明らかな予後因子を持たずに適切な層別化治療が受けられない症例が存在します。新規の予後因子を同定して、より適切な層別化治療を行うことが小児AMLの治療成績向上のために重要とされています。

研究の方法と結果

本研究グループは、小児AML131例に対して次世代シーケンサーを用いて遺伝子解析を行ったところ、UBTF-ITDという新しい遺伝子異常を同定しました。多くの症例で解析するため、小児AML503例、成人AML175例、小児悪性腫瘍(AML、急性リンパ性白血病、神経芽腫)の細胞株65株を対象にサンガーシーケンス法という方法で解析したところ、小児AML503例中6例(1.2%)にUBTF-ITDを認めましたが、成人AMLには一例も認めませんでした。UBTF-ITDを有するAMLの症例を詳細に解析したところ、FLT3-ITDWT1遺伝子変異、PRDM16遺伝子高発現、8トリソミーといった遺伝子異常、染色体異常との合併が多いことがわかりました(図1)。次に小児AML139例を対象にRNAシークエンスによる遺伝子発現解析を行ったところ、UBTF-ITDを有する症例は、近年予後不良との関連が注目されているPRDM16遺伝子の発現が高く、他のPRDM16高発現の症例と比較してもUBTF-ITDを有する症例はPRDM16遺伝子の発現程度がより高いことがわかりました。
UBTF-ITDを有する症例とそれ以外の症例の予後を比較すると、UBTF-ITDを有する症例は全生存率、無イベント生存率ともに不良であることがわかりました(図2)。また、8トリソミーの症例の中で比較すると、通常予後因子として扱われない8トリソミーですが、UBTF-ITDを有する8トリソミーの症例は有意に予後不良であることがわかりました。8トリソミーには他の染色体異常を合併することも知られていますが、UBTF-ITDを有する症例には他の染色体異常がなく、特徴的な集団であると示唆されました。UBTF-ITDは昨年米国の再発AMLを中心とした解析で初めて詳細に報告され、併存する分子生物学的異常や遺伝子発現パターン、予後への影響などが我々の結果と同様であり、今回の解析で再現性を確認することができました。UBTFITD以外に急性リンパ性白血病では他の遺伝子と融合するキメラ遺伝子を作ることが最近報告されて注目されており、血液腫瘍において重要な遺伝子である可能性が示唆されています。UBTF-ITDは小児AMLおいて重要な予後因子となる可能性があります。
 


-図1A UBTF-ITDを有する症例の分子生物学的特徴と臨床的特徴
UBTF-ITDを有する6症例を6列に示している。8トリソミー、FLT3-ITD、WT1遺伝子変異、PRDM16遺伝子高発現との合併を多く認めた。
-図1B 各症例のUBTF-ITDの遺伝子配列
各症例で同定されたUBTF-ITDの遺伝子配列を示している。各症例の上段は塩基配列、下段はアミノ酸配列を示している。いずれもExon 13内に重複を認め(黄色部分)、全症例に共通した重複配列(点線四角)を有していた。
 


-図2.UBTF-ITDの有無による生存率の比較
UBTF-ITDを有する症例は全生存率(Overall survival)、無イベント生存率(Event-free survival)とも有意に不良であった。
 

研究成果の意義と今後の展望

本研究の成果として、UBTF-ITDが小児AMLにおける予後因子として確立した場合、より適切な層別化治療に結び付く可能性や、治療標的としての薬剤開発につながる可能性があり、今後の小児AMLの治療成績の向上が期待されます。

論文情報

掲載誌:Genes Chromosomes Cancer. 2022 Nov 30. doi: 10.1002/gcc.23110. Online ahead of print.
論文タイトル:UBTF-internal tandem duplication as a novel poor prognostic factor in pediatric acute myeloid leukemia
著者:Kaburagi T, Shiba N, Yamato G, Yoshida K, Tabuchi K, Ohki K, Ishikita E, Hara Y, Shiraishi Y, Kawasaki H, Sotomatsu M, Takizawa T, Taki T, Kiyokawa N, Tomizawa D, Horibe K, Miyano S, Taga T, Adachi S, Ogawa S, Hayashi Y.
DOI:10.1002/gcc.23110

用語解説

*1 予後因子:
治療後、その病気の状態がどうなるかを判断するための因子で、遺伝子異常の有無などが含まれる。
*2 層別化治療:
予後因子に基づいて患者を分類し、それぞれのリスクに応じた最適と思われる治療を行うこと。
*3 全生存率:
診断されてから一定の期間が経過した後に生存している人の割合。
*4 無イベント生存率:
診断されてから一定の期間が経過した後、現病の進行や再発なく生存している人の割合。
*5 遺伝子高発現:
細胞の中でDNAの遺伝情報をもとにたんぱく質が合成される際、通常よりもその合成が増強していること。

問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp


 

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