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腎臓病や糖尿病を有する患者さんへの薬剤使用に関する調査

2023.02.07
  • TOPICS
  • 研究

SGLT2阻害薬・MRAとその組み合わせによる効果の違いを解明

横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の塚本俊一郎医師(博士課程 3年)、森田隆太郎医師(博士課程 1年)、山田貴之医師(University of Pittsburgh 留学中)、涌井広道准教授、田村功一主任教授らの研究グループは、慢性腎臓病(Chronic kidney disease:以下、CKD)を合併した2型糖尿病(Type 2 diabetes mellitus:以下、T2DM)患者を対象としたネットワークメタ解析により、Sodium-glucose cotransporter-2阻害薬 (以下、SGLT2-I)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(以下、MRA)、および両薬剤の組み合わせがもたらす、心臓と腎臓に対する臓器保護効果ならびにアルブミン尿*1減少効果の違いを解明しました。今回の研究成果は、腎臓病や糖尿病を有する患者さんに対してより効果的な薬剤使用に寄与することが期待されます。
本研究成果は、Diabetes Research and Clinical Practice誌およびDiabetes, Obesity and Metabolism誌に論文掲載されました。
研究成果のポイント

  • SGLT-2阻害薬とMRAの組み合わせはCKD合併のT2DM患者の心血管イベントを各薬剤の単独使用と比較して有意に低下させた。
  • 2剤の併用によって高カリウム血症のリスクも低下することが示された。
  • 上記薬剤の組み合わせはCKD合併のT2DM患者において、各薬剤の単独使用と比較してアルブミン尿を有意に減少させた。

研究背景

T2DMは、心血管疾患、慢性腎臓病、死亡などの重要な危険因子です。T2DMにおけるアルブミン尿の存在は心血管疾患や慢性腎臓病のリスクを高め、T2DM患者の予後を左右する重要な要素となっています。糖尿病治療薬であるSGLT2-Iは、心腎保護効果やアルブミン尿の減少効果を有することが明らかとなり、慢性心不全および慢性腎臓病の治療薬としても用いられています。同様に、MRAも心腎保護効果およびアルブミン尿への影響に関する報告がある一方で、これら2つの薬剤の組み合わせがより臓器保護に有用であるかについての検討は未だ十分には進んでいません。

研究内容

研究グループは、PubMed, Embase, Cochrane Library*2で文献検索を行い、CKD合併のT2DM患者を対象に治療群(SGLT2-I、MRAおよびその両方)とプラセボ(偽薬)*3群で心血管イベントまたは腎イベントのリスクを比較した結果を含むランダム化比較試験を用いて、ネットワークメタ解析*4を行いました。
サブグループ解析のデータを含む8つの研究で36,186人の患者を対象としました。CKD合併のT2DM患者において、SGLT2-IおよびMRAの単独使用はプラセボと比較して心血管(心血管死、心筋梗塞、心不全入院などの複合)イベントのリスクをそれぞれ有意に低下させました。さらに、2剤の併用療法はプラセボだけでなく、各薬剤の単独使用と比較しても心血管疾患のリスクを有意に低下させることが分かりました(RR [95%CI]:vs プラセボ 0.58 [0.47-0.73]、vs SGLT2-I 0.76 [0.60-0.96]、vs MRA 0.66 [0.53-0.82])(図1)。腎イベント(腎不全への進展、ベースラインから40%以上のeGFR低下、顕性アルブミン尿への進展、腎死)に関しても、SGLT2-I、MRAおよび両者の併用療法はプラセボと比較して有意にリスクを低下させました。しかし、各薬剤の単独使用と比較して差を認めませんでした。また、MRAの単独使用はプラセボと比較して高カリウム血症のリスクを上昇させましたが、2剤の併用は高カリウム血症のリスクを低下させることが分かりました。
図1 SGLT-2阻害薬、MRAの組み合わせによる心腎保護効果
アルブミン尿については、17個の研究から34,412人の患者を対象としました。SGLT2-IとMRAの組み合わせは、各薬剤の単独使用およびプラセボと比較して、アルブミン尿を有意に減少させました(MD[95%CI]:それぞれ34.19[27.30; 41.08]、32.25[24.53; 39.97]、および65.22[57.97; 72.47])(図2)。また、両薬剤の組み合わせは、各薬剤の単独使用およびプラセボと比較して、収縮期血圧の降圧効果が最も大きいことも明らかとなりました。
図2 SGLT-2阻害薬、MRAの組み合わせによるアルブミン尿減少効果

今後の展開

本研究はT2DM患者においてSGLT2-IとMRAの組み合わせによる心腎保護効果およびアルブミン尿への影響に着目し、心血管イベント・腎イベントの低減効果ならびにアルブミン尿の減少効果を両薬剤の組み合わせとそれぞれの単独使用でネットワークメタ解析を用いて間接的に比較しました。
今後も直接的な薬剤効果の比較を含めた、腎臓病や糖尿病を有する患者さんへのより効果的な薬剤使用に関する調査が進むことが期待されます。

研究費

本研究は、日本学術振興会、公益財団法人 ソルト・サイエンス研究財団、上原記念生命科学財団、横浜市立大学かもめプロジェクト、横浜総合医学振興財団などの助成を受けて実施しました。

論文情報

雑誌名1:Diabetes Research and Clinical Practice
論文名1:Cardiovascular and kidney outcomes of combination therapy with sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors and mineralocorticoid receptor antagonists in patients with type 2 diabetes and chronic kidney disease: A systematic review and network meta-analysis
執筆者名:Shunichiro Tsukamoto, Ryutaro Morita, Takayuki Yamada, Shingo Urate, Kengo Azushima, Kazushi Uneda, Ryu Kobayashi, Tomohiko Kanaoka, Hiromichi Wakui, Kouichi Tamura
DOI:10.1016/j.diabres.2022.110161

雑誌名2:Diabetes, Obesity and Metabolism
論文名2:Effects of sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors, mineralocorticoid receptor antagonists, and their combination on albuminuria in diabetic patients
執筆者名:Ryutaro Morita, Shunichiro Tsukamoto, Shota Obata, Takayuki Yamada, Kazushi Uneda, Tatsuki Uehara, Muhammad Ebad Rehman, Kengo Azushima, Hiromichi Wakui, Kouichi Tamura
DOI:10.1111/dom.14976

用語解説

*1 アルブミン尿:
腎臓が障害されると尿に流れ出てくるタンパク質であり、糖尿病や腎炎など様々な腎疾患で認められる。アルブミン尿は、腎不全進展のリスクであるのみならず、脳心血管病の発症リスクであることも知られている。

*2 PubMed, Embase, Cochrane Library:
PubMedは生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載する無料検索エンジン、Embaseはエルゼビアの Emtree®を使用して索引されている、最新の生物医学データベース、Cochrane Libraryは、国際的な医療評価プロジェクトであるコクラン共同計画が発行するデータベースで、ある特定の治療が有効か、他の治療法に比べどれだけ優れているか、安全かなど、治療・予防の問題解決のためのデータベースである。

*3 プラセボ(偽薬):
治療効果を持たない(有効成分を含んでいない)薬のことで、主に治験(臨床試験)において、開発中の薬の有効性を調べる際に使用される。

*4 ネットワークメタ解析:
治療薬などの複数の臨床研究の結果を統計学的に統合する解析方法で、従来のメタ解析は 2 者の比較に限定されていたのに対して,ネットワークメタ解析は 3 者以上の比較を行うことができる。

問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp


 

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