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自然免疫受容体TLR3 はdsRNA 上で多量体を形成し効率的なシグナル伝達を行う

2023.01.17
  • TOPICS
  • 研究
  • 理学部

自然免疫受容体TLR3 はdsRNA 上で多量体を形成し効率的なシグナル伝達を行う

発表者

坂庭賢太朗 (研究当時:東京大学大学院薬学研究科 博士課程)
藤村亜紀子 (東京大学大学院薬学研究科 特任研究員)
柴田 琢磨   (東京大学医科学研究所 助教)
重松 秀樹   (研究当時:理化学研究所放射光科学研究センター生物系ビームライン基盤グループ研究員、現高輝度光科学研究センター構造生物学推進室研究員)
浴本 亨      (横浜市立大学大学院生命医科学研究科 助教)
山本 雅貴   (理化学研究所放射光科学研究センター生物系ビームライン基盤グループ グループディレクター)
池口 満徳   (横浜市立大学大学院生命医科学研究科 教授)
三宅 健介   (東京大学医科学研究所 教授)
大戸 梅治   (東京大学大学院薬学系研究科 准教授)
清水 敏之   (東京大学大学院薬学系研究科 教授)
 研究成果のポイント

二本鎖RNA(dsRNA)をリガンドとする自然免疫受容体TLR3 と長鎖のdsRNA との複合体構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析により構造決定した。この結果dsRNA に沿ってTLR3 がクラスター化して結合することを明らかにした。

・クラスター化した TLR3 の相互作用界面には電荷を有するアミノ酸が集まっており、変異体を用いた活性測定により静電相互作用がクラスター形成に重要な働きをしていることを明らかにした。

TLR3の多量体形成によって細胞内のTIRドメインまたはそれを介した下流のアダプター分子の局所濃度が上昇することで、より効率的なシグナル伝達が可能となると考えられる。

研究背景

Toll 様受容体 (TLR) は、自然免疫を活性化させる 1 回膜貫通タンパク質であり、細菌やウイルスに由来する病原体関連分子パターンの認識により活性化されることで細胞内へシグナルを伝達し、炎症性サイトカイン[注 1]やインターフェロン[注 2]の産生を誘導する。ヒトでは TLR1-10 の10 種類が同定されている。

TLR3 は、リソソーム[注 3]に局在し、主としてウイルスに由来する二本鎖 RNA (double-stranded RNA、 dsRNA) を認識する。これまでの研究により、最短でおよそ 40 塩基対 のdsRNA を介して二量体を形成することが明らかにされている。また、より長鎖の dsRNA によ って、活性化が増強されることが示されているが、その機構については不明な点が多かった。

研究内容

本研究グループは、TLR3 細胞外ドメイン試料と90 塩基対の dsRNA との複合体構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析[注 4]により構造決定した。既報の二量体構造2つが dsRNA に沿 って約 90 Åの並進移動により配置されていた。各プロトマーは側方のプロトマーと隣接した状態で dsRNA を認識していた(図1)。より長鎖の dsRNAに対してはさらに高次の多量体を形成することも確認した。2つの二量体間は約 8 Å 離れていたが、相補的な表面電荷を有しており、静電相互作用により多量体形成が促進されている可能性がある。このことを確認するため、二量体単位間の近接領域に存在する電荷をもつアミノ酸に特に注目し、電荷を反転させるような変異を導入して細胞を用いて活性測定を行い、さらにクライオ電子顕微鏡により、変異体の多量体状態を観察した。これらの変異体は活性が有意に低下し、多量体形成能も低下しており、静電相互作用がクラスター形成に重要な働きをしていることが明らかになった。本研究より、TLR3 が dsRNA の長さ依存的に多量体形成をすること、この多量体形成がシグナル伝達において有利に働くことが示された。これは、TLR3 の多量体形成によって細胞内のTIRドメイン[注 5]またはそれを介した下流のアダプター分子の局所濃度が上昇することでより効率的なシグナル伝達が可能となるためであると考えられる(図2)。
図1:TLR3 とdsRNA との複合体構造
dsRNA に沿ってTLR3 がクラスター化して多量体を形成している(上図)。この構造は既報の二量体構造(上図右で四角で囲んである)が並進したものとなっている。TLR3 の相互作用界面には電荷をもったアミノ酸が集まっており(下図)、変異体を用いた活性測定により静電相互作用がクラスター形成に重要な働きをしていることを明らかにした。 
図2:多量体形成による効率的な活性化
TLR3 はリガンドがない状態では単量体(不活性型)として存在しているが、dsRNA がくる
と活性型二量体となる。長鎖dsRNA ではさらに多量体形成してより効率的な活性化を引き起
こすことが可能になると考えられる。 

研究の意義と今後の展開

TLR3 は感染防御や抗腫瘍応答及びウイルスによる炎症性疾患に深く関わっており、TLR3のシグナル増強剤及びシグナル抑制剤が待ち望まれている。今回、dsRNAに沿ったTLR3のクラスター化がシグナル伝達の活性を増強させていることがわかったことから、TLR3のクラスター化を防ぐような化合物はシグナル抑制剤として期待できる。
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)(課題番号 JPMJCR21E4)、 AMED 創薬等先端技術支援プラットフォーム(BINDS) (課題番号 JP21am0101115、 JP21am0101070、 JP22ama121023)、JSPS 科研費 JP22H05182、などの外部資金支援を受けて行われた。

用語説明

[注1] 炎症性サイトカイン
サイトカインとは、細胞同士の情報伝達にかかわるさまざまな生理活性を持つタンパク質の総称。炎症性サイトカインとは、体内への病原体の侵入を受けて産生されるサイトカインで、生体防御に関与する多種類の細胞に働き、炎症反応を引き起こす。

[注2] インターフェロン
細菌やウイルスなどの病原体の侵入に対して免疫系の細胞が分泌するタンパク質で、ウイルスの増殖を抑制する作用や免疫系を活性化する作用を発揮する。

[注3] リソソーム
リソソームは真核生物の細胞小器官の一つであり、細胞内外成分の分解機能を担う。TLR3 を含む核酸認識TLR はリソソームに局在している。

[注4] クライオ電子顕微鏡単粒子解析
タンパク質の立体構造を高分解能で決定するための手法の一つ。電子線照射による分子の振動や損傷を抑えるために、観測対象のタンパク質を氷薄膜中に包埋し、マイナス 180 度の低温に保ったまま電子顕微鏡像を観測する。数十万から数百万分子の投影像を分類・平均化し、それらを統合して高分解能の三次元構造を構築する。 

[注5] TIR ドメインとアダプター分子
哺乳類のインターロイキン 1 (IL-1)受容体とショウジョウバエToll の間の相同性から同定されたドメインであり、TLR は細胞内にこのドメインを有する。TLR にリガンドが結合し活性化すると、細胞内に存在するアダプター蛋白質と呼ばれる蛋白質がTIR ドメインを介して数多く会合してシグナル伝達を行うと考えられている。

論文情報

論文タイトル:TLR3 forms a laterally aligned multimeric complex along double-stranded
RNA for efficient signal transduction
著者:Kentaro Sakaniwa、 Akiko Fujimura、 Takuma Shibata、 Hideki Shigematsu、 Toru
Ekimoto、 Masaki Yamamoto、 Mitsunori Ikeguchi、 Kensuke Miyake、 Umeharu Ohto and Toshiyuki Shimizu
雑誌名:Nature Communications
DOI 番号: 10.1038/s41467-023-35844-2

 

問い合わせ先

横浜市立大学  広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

 

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