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社会福祉法人財務偏差値システムの運用を開始

2022.11.02
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  • 国際商学部

社会福祉法人財務偏差値システムの運用を開始

総合福祉研究会 社会福祉法人財務分析プロジェクトチームとの共同開発

横浜市立大学 国際商学部の黒木淳准教授(大学院データサイエンス研究科)らの研究グループは、一般財団法人総合福祉研究会の社会福祉法人財務分析プロジェクトチームとの連携のもとで、約20,000の全社会福祉法人の財務諸表データを用いた財務偏差値システムを研究開発しました。
本研究成果は、社会福祉法人財務分析プロジェクトチームとプログラム利用契約書を締結し、総合福祉研究会の会員や非会員の社会福祉法人に対して、検索を希望する社会福祉法人の財務偏差値について、本システムを利用して経営改善に向けた参考情報を提供します。
研究成果のポイント

  • 科学的知見に基づき、法人の意思決定に有用な7つの指標を選定
  • 介護・保育・障害などの主要な福祉サービスごとに法人を独自に分類し、法人ごとの財務偏差値を算定
  • 法人が財務偏差値を見ることで財務指標に対して関心の薄い部分、満足している部分を知ることができ、自律的に経営改善を促すことを支援

研究背景

2016年に社会福祉法の改正がおこなわれ、社会福祉法人における財務諸表の収集と開示が進んできました。法改正では、経営組織のガバナンスの強化、事業運営の透明性の向上、法人による財務規律の強化を目的とした社会福祉法人制度改革が実施されました。これらの目的を達成するために、社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム*1によって財務諸表等の開示が進み、膨大な情報が出ています。しかし、これらの財務諸表等をどのように用いることができれば社会福祉法人の自律的な経営改善の強化につなげることができるのかについては課題が残されていました。

研究内容

本研究グループは、社会福祉法人財務分析プロジェクトチームと2019年度から開発を進め、社会福祉法人の経営者が財務諸表等を用いる場合には、①30以上もの財務指標が開示され、情報量が多すぎること、②法人ごとの比較対象となる目標値が不明瞭であること、の2つの課題があることを整理しました。
そこで、成功を経験し,失敗を避けたいという欲求によって動機付けられるレベルのことであるアスピレーション・レベル (Weiner 1989) の理論を参考にして、研究開発を進めました。アスピレーションとは熱意や動機のことを意味します。財務業績の実績値が熱意や動機をもたらすアスピレーション・レベル(目標値)を超えていることから、経営者が財務業績の実績値に満足している、あるいは関心を持たない状態のことをアスピレーションの欠如 (lack of aspiration) と定義し (黒木ほか 2020)、社会福祉法人の経営者においてもアスピレーションの欠如が起きている可能性を検討したうえで、以下の2つを実施しました。
第1に、全社会福祉法人の財務諸表データを用いて考えうるすべての財務指標を主成分分析によってカテゴライズし、またヒアリングおよびサーベイに基づき、社会福祉法人の財務面での自律的な経営改善を促すための7つの財務指標を選定しました。第2に、法人ごとの比較対象となるアスピレーション・レベルを同一都道府県・同一福祉サービスを提供する主体として定め、7つの財務指標について偏差値を算定しました。これらをBI(business intelligence)ツールを用いて可視化することで、社会福祉法人の経営者が自法人の財務状況や財政状態を簡単に把握することができ、アスピレーション(熱意や動機)を高めることのできるシステムを開発しました。 

今後の展開

本研究開発によって、社会福祉法人に対して7つの財務指標のアスピレーション・レベルを提示することで、財務指標に対するアスピレーションを刺激でき、社会福祉法人による福祉サービス利用者へのサービスの質が高まるとともに、持続可能な経営を達成できることを期待しています。
本システムは社会福祉法人全体の財務偏差値ですが、今後、社会福祉法人における拠点別の財務偏差値も算定し、情報提供を開始する予定です。

研究費

本研究は、横浜市立大学第5期戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」(学長裁量事業費)の支援を受けて実施されました。

論文情報(研究開発の参考とした文献)

タイトル: 経営者のアスピレーションの欠如と管理会計の実践度,臨床会計学アプローチを用いた実証分析
著者:黒木 淳, 市原 勇一, 地多 佑介, 岡田 幸彦
掲載雑誌:会計プログレス,2020年,21号
DOI: https://doi.org/10.34605/jaa.2020.21_80
 

用語説明

1 財務諸表等電子開示システム:社会福祉法人の運営の透明性を確保すること等を目的に、独立行政法人福祉医療機構において構築したシステム。
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/shakai-fukushi-houjin-seido/07.html

<一般財団法人 総合福祉研究会について>

社会福祉法人が、正しく会計処理を行い、利用者に対する情報提供を適正に行える体制を整える必要性から、社会福祉法人を専門的見地から援助することを主な目的として、全国の公認会計士・税理士などの職業会計人を主たる会員として活動する団体です。
社会福祉法人会計・簿記並びにガバナンスの知識を普及するため、「社会福祉法人経営実務検定試験」を全国で実施しています。また、多くの社会福祉法人関係諸団体主催のセミナーなどに講師を派遣するとともに、社会福祉法人の経営全般に関するコンサルティングを行っており、関連書籍も多数発刊しています。
https://www.sofukuken.gr.jp/
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