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高齢者のケアの分断を調査 Yokohama Original Medical Data Baseを用いた 横浜市75歳以上住民の全数調査を実施

2022.08.22
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  • 研究

高齢者のケアの分断を調査 Yokohama Original Medical Data Baseを用いた 横浜市75歳以上住民の全数調査を実施

横浜市立大学大学院データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻 金子 惇講師らの研究グループは、横浜市医療局医療政策課と連携し、横浜市のデータベース(YoMDB*1)を用いて、75歳以上の高齢者の「ケアの分断」を調査しました。その結果、他国の研究結果からケアの分断の程度が高いとされるケアの分断指標0.7以上(0が最も分断の程度が低く、1が最も高い状態を表す)の割合が全体の26.1%でした。この値は、かかりつけ医療機関の質を表す目安の一つであり、より継続的・包括的な医療を提供することでこの指標が改善すると考えられます。
本研究成果は、BMJ Open誌に掲載されました。(2022年8月11日オンライン)
研究成果のポイント

  • 日本で初めての「ケアの分断」に関する研究
  • 75歳以上の後期高齢者の平均受診医療機関数は3.42か所(図1)
  • 1年間に2か所以上の医療機関を受診した人は全体の85%(図2)
  • 分断の程度が高いとされるケアの分断指標0.7以上の方の割合は全体の26.1%

研究背景

一人の医師や一か所の医療機関で継続的に医療を受ける「ケアの継続性」はかかりつけ医の質の重要な要素であり、ケアの継続性が高い方が救急室受診・入院・死亡が少ないことが知られています。「ケアの継続性」と反対に、かかりつけ医に加えて複数の医療機関を受診することは「ケアの分断」と言われており、ケアの分断の程度が高いと過剰な検査や救急室受診、入院が多いことと関連しています。
日本の様に、患者さんが受診する医療機関をある程度選択できる医療システムの国ではこの「ケアの分断」がかかりつけ医療の質を表す指標の一つとなると考え、「ケアの分断指標」を算出した日本で初めての「ケアの分断」に関する研究を行いました。

研究内容

本研究はレセプトデータ*2を用いた横断研究であり、2018年4月1日から2019年3月31日の間に横浜市に住民票があった75歳以上の住民かつ後期高齢者医療広域連合加盟者および生活保護受給者の方で、年4回以上(同一の医療機関の年4回以上の利用も含む)医療機関を利用した全ての方が対象となりました。本研究の対象者は41万3600人、年齢の中央値は81歳となり、それぞれの方の
・1年間の総受診回数
・受診した医療機関数
・それぞれの医療機関を受診した回数
から「ケアの分断指標」を算出しました。  
その結果、1年間の平均受診医療機関数は3.42か所、最大は20か所でした。1年間に2か所以上の医療機関を受診した人は全体の85%であり、他国の研究からケアの分断の程度が高いとされるケアの分断指標0.7以上の割合は全体の26.1%でした。

今後の展開

ケアの分断指標はかかりつけ医療機関の質を表す指標の一つであると考えられ、本研究結果は、今後の医療政策の策定や評価する際の指標の一つとして活用できる可能性があると考えられます。

研究費

本研究は、横浜市立大学 学長裁量事業 学術的研究推進事業「若手研究者支援プロジェクト」および、戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル: Fragmentation of Ambulatory Care among Older Adults: an Exhaustive Database Study in an Ageing City in Japan
著者: Makoto Kaneko, Satoru Shinoda, Sayuri Shimizu, Makoto Kuroki, Sachiko Nakagami, Taiga Chiba, Atsushi Goto
掲載雑誌: BMJ Open
DOI: 10.1136/bmjopen-2022-061921
1:全参加者の受診医療機関数
図2:2か所以上の医療機関を受診している方のケアの分断指標の分布

用語説明

*1 YoMDB(Yokohama Original Medical Data Base):横浜市が保有する医療・介護・保健データを、医療政策への活用のために集約しデータベース化したもの
参考URL:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/iryo/seisaku/bigdata.html

本学と横浜市は、平成30年に「データ活用に関する包括連携協定」を締結し、さらに、ヘルスデータサイエンスの政策活用に向けた覚書を令和2年9月に締結しました。これにより、横浜市はデータに基づく医療政策の推進、本学はYoMDBを教育・研究活動に活用することで、高度な人材育成や研究力の向上が期待されます。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/202009ycuhds_yokohamacity.html

*2 レセプトデータ:診療報酬明細書の通称で、患者の病名と行った医療の詳細が請求額とともに記載され、各医療機関から患者単位、1か月単位で発行される。

問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp


 

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