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生命医科学研究科 石田祥一特任助教が、日本蛋白質学会年会で若手奨励賞を受賞!

2022.07.25
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クライオEMマップからタンパク質ダイナミクス情報を抽出する手法を発表!今後の生命科学分野や創薬分野への貢献が期待。

生命医科学研究科 石田特任助教が、6月7日(火)~9日(木)につくば国際会議場で行われた、第22回 日本蛋白質学会年会において、「深層学習がクライオEMマップからタンパク質ダイナミクス情報を抽出」と題して発表し、本成果が、今後の生命科学分野や創薬分野への貢献が期待されると評価され、若手奨励賞を受賞しました。
なお、本発表は本学2021年2月5日のプレスリリース「タンパク質の柔らかさを予測するAI」の研究成果をもとにしたものになります。
受賞者
生命医科学研究科
石田 いしだ  祥一   しょういち 特任助教



発表題目
「Deep Learning Extracts Protein Dynamics Information from Cryo-EM map」
(深層学習がクライオEMマップからタンパク質ダイナミクス情報を抽出)

発表題目

「Deep Learning Extracts Protein Dynamics Information from Cryo-EM map」
(深層学習がクライオEMマップからタンパク質ダイナミクス情報を抽出)

発表内容

—今回受賞に至った研究内容について石田特定助教に解説していただきました。
タンパク質の機能を理解するためには、その3次元的な姿である「立体構造」と実際の溶液中でのゆらぎの様子である「運動性」を知ることが重要です。立体構造に関しては、近年目覚ましい技術革新を遂げているクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いた単粒子解析法により、未知であった様々なタンパク質の立体構造を原子〜近原子分解能で解明することが可能となってきています。一方、運動性に関しては、cryo-EM 単粒子解析法で解明できるようになった巨大かつ複雑なタンパク質について、実態を知ることは技術的に困難でした。
そこで本研究では、AI技術と分子動力学(MD)計算を組み合わせることで、cryo-EMで計測される立体構造データ(3次元密度マップ)のみからタンパク質の運動性情報を直接抽出する新たな手法「Dynamics Extraction From cryo-EM Map (DEFMap)」を開発しました(図1)。AI技術を用いた予測モデルを構築する際には、「学習手法」、「入力データ」、「出力データ」をまず決める必要があります。DEFMapでは、学習手法として3次元データをそのまま扱うことのできる「3次元畳み込みニューラルネットワーク(3D-CNN)」、入力データは「3次元密度マップを小さいボックス単位に分割したもの(サブボクセル)」、出力データは3次元密度マップに対応する立体構造モデルを用いたMD計算により得られる「原子のゆらぎ(RMSF値)」としています。
図 1 DEFMapのワークフロー概略図
様々な評価を行ったところ、DEFMapで予測された運動性情報はMD計算で得られたRMSF値や実験的に計測された運動性情報と良く相関するという結果が得られました。一方で、入力データである生の3次元密度マップの強度のみでは良い相関は得られませんでした。これは、DEFMapが3次元密度マップから運動性情報を学習することに成功していることを示しています。計算コストの面では、運動性情報を得るために今回用いたタンパク質データでは10~20時間ほどMD計算ではかかった一方でDEFMapでは数分で完了したことから、本手法が非常に低い計算コストで運動性情報を提供可能であることがわかります。他にも、DEFMapを用いたことで初めて得られたタンパク質ー相互作用分子の運動性イベントに関する知見や、通常ではMD計算が困難な超巨大なウイルス粒子タンパク質に関しても迅速に運動性を予測し、分子の運動性に関する知見を得ることに成功しました。さらに、今回開発した手法であるDEFMapを多くの研究者に利用してもらえるよう、様々なユーザーインターフェースも併せて提供しています。その中でもGoogle Colaboratory版DEFMapは煩雑な計算環境構築をユーザーがする必要がなく、運動性情報を知りたいタンパク質の3次元密度マップをアップロードするだけでDEFMapを利用することが可能となっています(図2)。
図 2 Google Colaboratory版DEFMapによる運動性可視化例
本研究はタンパク質の運動性情報を得るための新しいアプローチを提案したものであり、今後の生命科学分野や創薬分野への貢献が期待できます。

石田特任助教のコメント

この度は日本蛋白質科学会若手奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。
本研究は、寺山慧准教授(横浜市立大学)、松本篤幸特定准教授(京都大学)、荒木望嗣特定准教授(京都大学)、加藤貴之教授(大阪大学)、奥野恭史教授(京都大学)との共同研究にて達成できたものになります。改めて感謝と御礼を申し上げます。
本学会での発表は初めてでしたので、我々の開発した手法であるDEFMapをより普及させたいと思い、いくつかのユーザーインターフェースを実装しました。DEFMapがより多くの研究者に使ってもらえるようになることを祈りつつ、今後も情報科学を駆使した新たな手法の開発およびその普及、そして社会実装までできるような研究者になれるよう精進してまいります。

問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp


 

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