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【論文掲載】小児急性骨髄性白血病の新たなバイオマーカーを同定

2022.02.17
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発生成育小児医療学の柴徳生講師らの研究成果として、小児急性骨髄性白血病の新たなバイオマーカーを同定について論文が掲載されました。

横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学の柴徳生講師(横浜市立大学附属病院 輸血・細胞治療部長)、上武大学医学生理学研究所の林泰秀副所長(上武大学副学長)、群馬県立小児医療センター血液腫瘍科の大和玄季部長、国立成育医療研究センター研究所周産期病態研究部胎児発育研究室の河合智子室長らの研究グループは、日本小児がん研究グループ(JCCG)の日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)の臨床試験による治療を受けた小児急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia; AML)の小児患者でDNAメチル化*1解析を行い、その成果を報告しました。
本研究成果は、米国血液学会(American Society of Hematology)発行の科学誌『Blood advances』に掲載されました。

研究内容

本研究グループは、小児AMLにおけるDNAメチル化の意義や、予後因子*2としての役割など、明らかにされていない問題を解決するために、64例のAML患者で、DNAメチル化解析を行いました。解析にはイルミナ社のInfinium MethylationEPIC BeadChipという解析キットを使用しました。その結果、DNAメチル化パターンから64例を4つのグループに分類することができ、それぞれのグループがAMLの特徴的な融合遺伝子や遺伝子変異と強い関連を持つことがわかりました(図1)。
(図1)DNAメチル化分類と遺伝子異常の関係:DNAメチル化分類で小児AMLが4つのクラスター(グループ)に分類された。4つのクラスターはそれぞれKMT2A再構成やRUNX1-RUNX1T1融合遺伝子と関連の深いクラスター1、CEBPA遺伝子変異と関連の深いクラスター3、FLT3-ITD遺伝子変異やPRDM16遺伝子高発現と関連の深いクラスター2、4に分けられた。
また、4つのグループのうち、DNAメチル化パターンから高メチル化群に分類された患者の5年全生存率*3は29%と、低メチル化群の72%と比較して明らかに予後不良であることが発見されました(図2)。
(図2)DNAメチル化状態による生存率の比較:図1で分類された高メチル化のクラスター2は低メチル化のクラスター1よりも統計学的に5年全生存率が低いことが示された。
次にFLT3-ITD遺伝子変異を持つ患者と持たない患者で差のあるDNAメチル化パターンから、FLT3-ITD患者15名の予後を解析しました。その結果、予後不良であるFLT3-ITD患者(クラスターAと定義)と予後良好なFLT3-ITD患者(クラスターBまたはCと定義)に分類することができました。クラスターAのFLT3-ITD患者は5年全生存率13%であったのに対して、クラスターBまたはCは100%と有意な差を認めました。
また、AMLではPRDM16遺伝子の高発現やMECOM遺伝子の高発現が予後不良とされていますが、これらの発現とDNAメチル化パターンの関係性についても解析を行いました。その結果、これらの遺伝子の高発現と低発現について、DNAメチル化パターンから予測可能であることがわかりました。
DNAメチル化解析に加えて、転写因子結合部位解析*4やクロマチンアクセス性*5の解析を行ったところ、これらのDNAメチル化領域が遺伝子の発現に重要な領域であることがわかりました。なお、本研究の結果に関しては、海外における小児AMLを対象とした大規模研究の公開データを利用して、その再現性*6を示すことができました。

今後の展開

本研究の成果として、予後因子の見つからない小児AML患者に対してDNAメチル化パターンが予後予測に有用である可能性が示されました。DNAメチル化を小児AMLの治療層別化に役立てることで、今後の治療成績の向上が期待されます。

論文情報

掲載誌:Blood Advances 2022 Jan 10:bloodadvances.2021005381.
論文タイトル:Genome-wide DNA Methylation Analysis in Pediatric Acute Myeloid Leukemia
著者:Yamato G, Kawai T, Shiba N, Ikeda J, Hara Y, Ohki K, Tsujimoto SI, Kaburagi T, Yoshida K, Shiraishi Y, Miyano S, Kiyokawa N, Tomizawa D, Shimada A, Sotomatsu M, Arakawa H, Adachi S, Taga T, Horibe K, Ogawa S, Hata K, Hayashi Y.
DOI:https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2021005381

用語説明

*1 DNAメチル化:DNA の特定の部位にメチル基が結合する反応。一般的に遺伝子のプロモーター領域の CpG アイランドにおけるシトシンメチル化が起こると、その遺伝子の発現が低下することが知られている。
*2 予後因子:治療後、その病気の状態がどうなるかを判断するための因子で、遺伝子異常の有無などが含まれる。
*3 全生存率:診断されてから一定の期間が経過した後に生存している人の割合。
*4 転写因子結合部位解析:転写因子が特異的なDNA配列を認識して結合する。この結合するDNA領域は転写因子結合部位とよばれ、解析ソフトを用いて転写因子結合部位の探索を行うことを指す。
*5 クロマチンアクセス性:クロマチンとは真核細胞内に存在するDNAとタンパク質の複合体のことを表す。クロマチンの機能は細胞核内にDNAを効率的に小さく詰め込み、DNAの構造・配列を保護することである。このクロマチン構造が密に詰まっているか(転写活性を示さない)、ゆるく詰まっているか(転写活性を示しやすい)の評価をクロマチンアクセス性と表現する。
*6 再現性:所定の条件や手順の下で、同じ事象が繰り返し起こったり、観察されたりすること。

問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp


 

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