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2型糖尿病患者の肥満やアルブミン尿に着目した ネットワークメタ解析により糖尿病治療薬2種の 心腎保護効果の違いを明らかに

2021.12.02
  • プレスリリース
  • 研究

2型糖尿病患者の肥満やアルブミン尿に着目した ネットワークメタ解析により糖尿病治療薬2種の 心腎保護効果の違いを明らかに

横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の畝田一司医師、川井有紀医師、山田貴之医師(University of Pittsburgh留学中)、涌井広道准教授、金口翔助教、小豆島健護助教、田村功一主任教授らの研究グループは、2型糖尿病(Type 2 diabetes mellitus:T2DM)患者における肥満およびアルブミン尿*1の有無や、2種類の糖尿病治療薬(Sodium-glucose cotransporter-2阻害剤(SGLT-2i)とGlucagon-like-peptide-1受容体アゴニスト(GLP-1 RA))がもたらす、心臓と腎臓に対する臓器保護効果との関係を比較しました。肥満のあるT2DM患者では、GLP-1 RAは、プラセボ(偽薬)*2を用いた患者と比較して、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを有意に減少させましたが、SGLT-2iはプラセボを用いた患者と比較して有意に減少しないことを明らかにしました。また、SGLT-2iは、アルブミン尿の有無を問わず、GLP-1 RAよりT2DM患者の腎イベント(腎機能悪化、透析導入、マクロアルブミン尿など)を有意に抑制しましたが、心血管イベントのリスク低減効果には差がないことを明らかにしました。この研究成果により、今後より効果的な薬剤の使い分けに寄与することが期待されます。
本研究に関して、『Scientific Reports』(肥満に関する研究結果)、『Diabetes Research and Clinical Practice』(アルブミン尿に関する研究結果)に論文掲載されました。
研究成果のポイント

  • 2型糖尿病(T2DM)患者の、肥満の合併例では
    GLP-1 RAはプラセボと比較して、心血管イベントを有意に減らした
    SGLT-2iはプラセボと比較して、心血管イベントの有意差を認めなかった
    GLP-1 RAはSGLT2iと比較して、心血管イベントの有意差を認めなかった
  • 型糖尿病(T2DM)患者の、アルブミン尿の合併例・非合併例ともに
    SGLT-2iはGLP-1 RAと比較して、腎イベントを有意に減らした
    SGLT-2iはGLP-1 RAと比較して、心血管イベントの有意差を認めなかった

研究背景

2型糖尿病(T2DM)は、心血管疾患、慢性腎臓病、死亡などの重要な危険因子です。さらに、T2DMにおける肥満やアルブミン尿の存在は心血管疾患や慢性腎臓病のリスクを高め、T2DM患者の予後を左右する重要な要素となっています。
SGLT-2iとGLP-1 RAはともに比較的新規の糖尿病治療薬として知られ、利尿作用・血圧低下・抗肥満作用など、多面的な作用を有しています。近年2剤の心腎保護効果も多くの研究で示されるようになり、米国糖尿病学会(ADA)では、GLP-1 RAおよびSGLT-2iを動脈硬化性心血管疾患や腎疾患のあるT2DM患者の第一選択薬として推奨しています。
しかし、肥満やアルブミン尿などの危険因子の有無に着目して、2剤の心腎保護効果を比較した調査はまだ進んでいません。

研究内容

研究グループは、Pubmed, Embase, Cochrane Library*3で文献検索を行い、T2DM患者を対象に治療群(SGLT-2iまたはGLP-1RAs)とプラセボ群で肥満・アルブミン尿の有無に応じて心血管イベントまたは腎イベントのリスクを比較した結果を含むランダム化比較試験を用いて、ネットワークメタ解析*4を行いました。
肥満に着目した解析では、肥満のサブグループ解析のデータを含む12の研究で102,728人の患者を対象としました。肥満合併のT2DM患者において、GLP-1 RAはプラセボと比較して心血管疾患のリスクが有意に減少していました(リスク比(RR)[95%信頼区間(95% CI)]:0.88[0.81-0.96])。一方、SGLT-2iは減少傾向に留まっており(RR[95%CI]:0.91[0.83-1.00])、さらに、GLP-1 RAはSGLT-2iと比較して心血管疾患のリスクに有意な差はありませんでした(RR [95% CI]:0.97 [0.85-1.09])。(図1)
図1 肥満に着目した心保護効果
アルブミン尿については、9つの研究から81,206人の患者を対象としました。アルブミン尿の合併例・非合併例ともに、SGLT-2iはGLP-1 RAと比較して心血管疾患のリスクの減少はみられませんでした(RR[95%CI]:それぞれ0.96[0.82-1.12]および0.94[0.81-1.10])。一方、SGLT-2iは、GLP-1 RAと比較して、アルブミン尿の合併例・非合併例ともに、腎イベントのリスクが有意に低下していました(RR[95%CI];それぞれ0.75[0.63-0.89]および0.59[0.44-0.79])。(図2)
このことから、肥満合併T2DM患者では、GLP-1RAが心血管疾患を抑制する可能性が示されました。また、T2DM患者において、アルブミン尿合併の有無にかかわらず、SGLT-2iはGLP-1RAに比べて腎保護効果を発揮することが示唆されました。
図2 アルブミン尿に着目した心・腎保護効果

今後の展開

本研究はT2DM患者において初めて肥満およびアルブミン尿の有無に着目し、心血管イベント・腎イベントの低減効果をSGLT-2iとGLP-1 RAで比較しました。SGLT-2-iとGLP-RAはどちらも血糖コントロール以外の多面的な効果を併せ持つことから、広く心血管・腎疾患のリスクのある患者に対して使用されるようになってきましたが、SGLT-2iとGLP-1 RAを直接比較した研究はまだありません。
今回の研究では、肥満とアルブミン尿という心血管疾患・腎疾患におけるリスク因子に着目して間接的に2剤を比較しました。今後も直接的な薬剤効果の比較を含めた、より効果的な2剤の使い分けに関する調査が進むことが期待されます。

研究費

本研究は、日本学術振興会、公益財団法人 ソルト・サイエンス研究財団、上原記念生命科学財団、横浜市立大学かもめプロジェクト、横浜総合医学振興財団などの助成を受けて実施しました。

論文情報

雑誌名1:Scientific Reports
論文名1:Systematic review and meta-analysis for prevention of cardiovascular complications using GLP-1 receptor agonists and SGLT-2 inhibitors in obese diabetic patients
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-021-89620-7
執筆者名:Kazushi Unedaa,b, Yuki Kawaia,Takayuki Yamadaa,c, Sho Kinguchia, Kengo Azushimaa, Tomohiko Kanaokaa, Yoshiyuki Toyaa, Hiromichi Wakuia, Kouichi Tamuraa

雑誌名2:Diabetes Research and Clinical Practice
論文名2:Comparison of effects of SGLT-2 inhibitors and GLP-1 receptor agonists on cardiovascular and renal outcomes in type 2 diabetes mellitus patients with/without albuminuria: a systematic review and network meta-analysis.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.diabres.2021.109146
執筆者名:Yuki Kawaia, Kazushi Unedaa,b, Takayuki Yamadaa,c, Sho Kinguchia, Kazuo Kobayashia,d, Kengo Azushimaa, Tomohiko Kanaokaa, Yoshiyuki Toyaa, Hiromichi Wakuia, Kouichi Tamuraa

用語説明

*1 アルブミン尿:
腎臓が障害されると尿に流れ出てくるタンパク質であり、糖尿病や腎炎など様々な腎疾患で認められる。アルブミン尿は、腎不全進展のリスクであるのみならず、脳心血管病の発症リスクであることも知られている。

*2 プラセボ(偽薬):
治療効果を持たない(有効成分を含んでいない)薬のことで、主に治験(臨床試験)において、開発中の薬の有効性を調べる際に使用される。

*3 Pubmed, Embase, Cochrane Library:
PubMedは生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載する無料検索エンジン、Embaseはエルゼビアの Emtree®を使用して索引されている、最新の生物医学データベース、Cochrane Libraryは、国際的な医療評価プロジェクトであるコクラン共同計画が発行するデータベースで、ある特定の治療が有効か、他の治療法に比べどれだけ優れているか、安全かなど、治療・予防の問題解決のためのデータベースです。

*4 ネットワークメタ解析:
治療薬などの複数の臨床研究の結果を統計学的に統合する解析方法で、従来のメタ解析は 2 者の比較に限定されていたのに対して,ネットワークメタ解析は 3 者以上の比較を行うことができる。

問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp


 

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