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LPIN1遺伝子が本態性高血圧症の原因遺伝子 の一つであることを証明

2021.11.17
  • TOPICS
  • 医療
  • 研究

LPIN1遺伝子が本態性高血圧症の原因遺伝子の一つであることを証明~本態性高血圧症の新たな治療ターゲットとなる可能性~

 横浜市立大学附属市民総合医療センター 腎臓・高血圧内科 藤原亮助教(血液浄化療法部)、小澤萌枝医師(同大大学院医学研究科)、平和伸仁准教授、角田剛一朗博士(同大大学院医学研究科:研究当時)らの研究グループは、LPIN1遺伝子の全身ノックアウトマウスであるfld(fatty liver dystrophy)マウスを用いた評価と解析により、血圧が上昇することを明らかにし、そのメカニズムとして交感神経活性の亢進が関与していることを証明しました(図1)。今後、本態性高血圧症の新しい治療薬の開発につながる可能性があります。
 本研究成果は、国際高血圧学会および欧州高血圧学会のofficial JournalであるJournal of Hypertension誌に掲載されました。(2021年11月11日オンライン掲載)
研究成果のポイント

  • LPIN1遺伝子は本態性高血圧症の原因遺伝子の一つ
  • LPIN1遺伝子のノックアウトマウスは高血圧を呈する
  • LPIN1遺伝子の発現低下による血圧上昇のメカニズムに交感神経活性の亢進が関与

研究背景

 わが国の高血圧患者数は約4,300万人と推定され、高血圧に起因する脳心血管病死亡者数は年間約10万人であり、脳心血管病死亡の最大の要因です。しかし、3種類以上の降圧薬を用いても血圧がコントロールできない治療抵抗性高血圧は、10%以上にも達すると報告されており、血圧のコントロールは喫緊の課題となっています。
 研究グループでは、ヒトゲノムの全塩基配列が解明されたことを皮切りに、ゲノム全域を高密度に網羅する遺伝子多型(マイクロサテライト*1)を用いてゲノムワイド関連解析*2を行いました。本態性高血圧患者385人と正常血圧対照者385人からなる日本人集団を対象に、18,977個のマイクロサテライトマーカーを用いて、cytoband*3 2p25.1に位置するLPIN1遺伝子が本態性高血圧症と有意な関連があることを発見しました。この結果は、Zhuらによるアフリカ系アメリカ人を対象としたゲノムワイド関連解析の結果と一致し、その他の民族集団においても血圧との関連が報告され、LPIN1遺伝子は非常に有力な高血圧の候補遺伝子と考えられました。

研究内容

 本グループでは,2007年にマイクロサテライトを用いたゲノムワイド関連解析によりLPIN1遺伝子が本態性高血圧症の候補遺伝子の一つであること発見しました。今回の研究では、LPIN1遺伝子の全身ノックアウトマウスであるfld(fatty liver dystrophy)マウスを用いて、血圧の評価とメカニズムの解析を行いました。テイルカフ法4およびラジオテレメトリー法*5を用いた血圧測定では収縮期血圧と心拍数が24時間持続して上昇しており、日内変動が消失しました(図2)。
 また、fldマウスの尿中アドレナリンおよびノルアドレナリン*6の排泄量は対照群と比較して増加しました。降圧薬投与実験では、クロニジン(中枢性交感神経抑制薬)に対する降圧反応は増強され、ニカルジピン(カルシウム拮抗薬)に対する降圧反応は同等の結果でした。従って、fldマウスは高血圧を呈し、そのメカニズムとして交感神経系の活性亢進が関与していると考えられました。さらに脂肪移植実験では、移植8週間後に収縮期血圧が有意に低下(改善)したことから、fldマウスの交感神経系の活性亢進にはアディポサイトカイン*7の低下が関与している可能性があります。これらの結果から、LPIN1遺伝子が血圧調節に重要な役割を果たし、本態性高血圧症の新たな標的遺伝子となることを明らかにしました。

今後の展開

 今後、ヒトにおけるLPIN1遺伝子の働きをより詳細に明らかにする必要があります。また、脂肪移植後のfldマウスでは血圧が低下(改善)していることから、アディポサイトカインの補充が血圧上昇を改善させる可能性があります。このことは、本態性高血圧症の新しい治療薬の開発につながる可能性があります。

研究費

 本研究は、日本学術振興会(文科省科研費)、公益財団法人 上原記念生命科学財団、横浜市立大学の研究補助金の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル: LPIN1 is a new target gene for essential hypertension
著者: Akira Fujiwara*; Moe Ozawa*; Koichiro Sumida*; Nobuhito Hirawa; Keisuke Yatsu; Nao Ichihara; Tatsuya Haze; Shiro Komiya; Yuki Ohki; Yusuke Kobayashi; Hiromichi Wakui; and Kouichi Tamura Journal of Hypertension (2021) 38:
*筆頭著者
掲載雑誌: Journal of Hypertension PMID: 34772856
DOI: https://doi.org/10.1097/HJH.0000000000003046

用語説明

*1 マイクロサテライト:数塩基の単位配列の繰り返しからなる反復配列

*2 ゲノムワイド関連解析:ゲノム全域を高密度に網羅する遺伝子多型(マイクロサテライトなど)を用いて患者群と健常群との間で、頻度に差があるどうかを統計的に検定して調べる解析方法
*3 cytoband:染色体のある範囲
*4 テイルカフ法:マウスなどの四肢あるいは尾にカフを巻き血圧を測定する方法
*5 ラジオテレメトリー法:マウスなどの動物の体内に送信器を埋め込み、覚醒・自由活動下で24時間生体パラメータ(血圧・心拍など)を計測する方法
*6 アドレナリン・ノルアドレナリン:交感神経および副腎髄質から分泌される交感神経の伝達物質
*7 アディポサイトカイン:脂肪細胞から分泌される生理活性物質の総称(アディポネクチンやレプチンなど)

参考文献

  1. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)
  2. Yatsu et al, Hypertension 2007; 49:446-452
  3. Zhu X et al, Nat Genet 2005; 37:177-181
  4. Ong KL et al, Am J Hypertens 2008; 21:539-545
  5. Wiedmann S et al, Diabetes 2008; 57:209-217

問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp


 

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