乳児期の川崎病発症に関するばく露要因について—エコチル調査
2021.07.20
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乳児期の川崎病発症に関するばく露要因について—エコチル調査
横浜市立大学小児科の伊藤秀一、国立成育医療研究センターの小林徹らの共同研究チームは、エコチル調査の約10万組の母子のデータを用い、エコチル調査に登録された妊婦から生まれた子どもの生後12か月までの川崎病発症について解析しました。川崎病を発症した343人と未発症の参加児を比較した結果、妊娠中期から後期の葉酸サプリメント摂取が川崎病の発症リスクを減らし、逆に母親の甲状腺疾患の既往歴や、参加児の兄弟・姉妹の存在が発症リスクを増やす可能性があることが明らかになりました。今後、これら3つの要因と川崎病発症の因果関係を確認する更なる研究が必要であると考えています。
本研究の成果は、令和3年6月25日付で、Nature Researchから刊行される自然科学分野の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
本研究の成果は、令和3年6月25日付で、Nature Researchから刊行される自然科学分野の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
1.発表のポイント
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2.研究の背景
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国で10万組の親子を対象に開始された、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。母体血や臍帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康に影響を与える環境要因を明らかにすることとしています。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
川崎病は1967年に小児科医川崎富作博士により報告された疾患です。主に乳幼児に発症し、全身の血管に炎症が生じ、ときには心臓の冠動脈に動脈瘤の後遺症が発生することもあります。わが国では急激な少子化にもかかわらず年々患者数は増え、一年間に約16,000人もの新規患者が発生し、乳幼児の100人に1人が罹患すると推定されています。幸い、治療の進歩にともない、心臓に後遺症が残る患者は減少していますが、その原因は全く解明されていません。今回、エコチル調査のデータを用いて、胎児期から周産期の様々な因子が、1歳までの川崎病発症に影響を及ぼすかについて検討しました。世界で最も患者数が多いわが国でしか実現できない研究です。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
川崎病は1967年に小児科医川崎富作博士により報告された疾患です。主に乳幼児に発症し、全身の血管に炎症が生じ、ときには心臓の冠動脈に動脈瘤の後遺症が発生することもあります。わが国では急激な少子化にもかかわらず年々患者数は増え、一年間に約16,000人もの新規患者が発生し、乳幼児の100人に1人が罹患すると推定されています。幸い、治療の進歩にともない、心臓に後遺症が残る患者は減少していますが、その原因は全く解明されていません。今回、エコチル調査のデータを用いて、胎児期から周産期の様々な因子が、1歳までの川崎病発症に影響を及ぼすかについて検討しました。世界で最も患者数が多いわが国でしか実現できない研究です。
3.研究内容と成果
エコチル調査に登録された妊婦から生まれた104,062人の子どものうち、流産、死産、協力取りやめ等により対象とならなかった者を除いた90,486人が本調査の対象となりました。このうち343人が1歳までに川崎病を発症しました。90,486人の対象者について、川崎病発症の有無と母親の妊娠中の甲状腺疾患や糖尿病などの既往歴、妊娠後期の栄養状態や食事内容、妊娠中の葉酸・亜鉛などの摂取状況、母親の喫煙歴、両親のアレルギー疾患や川崎病の既往歴、出産方法(帝王切開など)、出産週数、生まれた子どもの新生児黄疸や兄弟・姉妹の有無など様々な因子についての関係を解析しました。
その結果、妊娠中期から後期の葉酸サプリメントの摂取が、生まれた子どもの1歳までの川崎病の発症リスクを減らす可能性が示されました。一方、母親の甲状腺疾患の既往歴と、生まれた子どもの兄弟・姉妹の存在が、発症リスクを増加させる可能性が示されました。
今回の研究で最も注目すべき発見は、妊娠中期から後期のサプリメントによる葉酸補給と生まれた子どもの川崎病の発症リスクとの関連です。妊娠前から妊娠初期の食事やサプリメントによる葉酸補給は、胎児の神経管閉鎖障害の予防効果のエビデンスがあり、推奨されています。今回の結果は、妊娠中期から後期の葉酸サプリメントによる葉酸補給の新たなメリットを示す可能性があります。
生まれた子どもの兄弟・姉妹の存在が乳幼児期の川崎病発症に影響を与えていることも、今回明らかになりました。川崎病の一部は感染症を契機として発症する可能性があり、兄弟・姉妹の存在は感染症へのばく露機会を増やす可能性があります。しかしながら、兄弟・姉妹の存在が川崎病発症に関連する具体的な要因については、今後のさらなる検討が必要です。
さらに、母体の自己免疫疾患が子どもの川崎病発症リスクとなるという報告もあり、今回の研究では、特に母体の甲状腺疾患との関連が示唆されました。しかしながら、今回の研究においては甲状腺疾患を有する母親は少数であるため、その解釈には慎重であるべきであり、さらなる多数例での検討や別の方法を用いた研究などが必要と考えられます。
その結果、妊娠中期から後期の葉酸サプリメントの摂取が、生まれた子どもの1歳までの川崎病の発症リスクを減らす可能性が示されました。一方、母親の甲状腺疾患の既往歴と、生まれた子どもの兄弟・姉妹の存在が、発症リスクを増加させる可能性が示されました。
今回の研究で最も注目すべき発見は、妊娠中期から後期のサプリメントによる葉酸補給と生まれた子どもの川崎病の発症リスクとの関連です。妊娠前から妊娠初期の食事やサプリメントによる葉酸補給は、胎児の神経管閉鎖障害の予防効果のエビデンスがあり、推奨されています。今回の結果は、妊娠中期から後期の葉酸サプリメントによる葉酸補給の新たなメリットを示す可能性があります。
生まれた子どもの兄弟・姉妹の存在が乳幼児期の川崎病発症に影響を与えていることも、今回明らかになりました。川崎病の一部は感染症を契機として発症する可能性があり、兄弟・姉妹の存在は感染症へのばく露機会を増やす可能性があります。しかしながら、兄弟・姉妹の存在が川崎病発症に関連する具体的な要因については、今後のさらなる検討が必要です。
さらに、母体の自己免疫疾患が子どもの川崎病発症リスクとなるという報告もあり、今回の研究では、特に母体の甲状腺疾患との関連が示唆されました。しかしながら、今回の研究においては甲状腺疾患を有する母親は少数であるため、その解釈には慎重であるべきであり、さらなる多数例での検討や別の方法を用いた研究などが必要と考えられます。
4.今後の展開
今回は、生まれた子どもの1歳までに発症した川崎病を対象として研究を行いました。現在、その年齢を3歳までの発症に拡大し、同様の解析を行っています。今回明らかになった、妊娠中期から後期の葉酸サプリメント摂取の欠如、母親の甲状腺疾患の既往歴、生まれた子どもの兄弟・姉妹の存在も含めた項目について解析中です。将来的には、6歳までの解析を予定しています。また、母体の妊娠中期から後期における血中葉酸濃度と生まれた子どもの1歳までの川崎病の発症についての詳細な解析を実施し、今回の結果について異なった観点からも解析しています。類似研究として、母体の重金属や化学物質の影響についても検討中です。
5.参考図
6.補足
妊娠前から妊娠初期の食事やサプリメントによる葉酸補給は、胎児の神経管閉鎖障害の予防効果のエビデンスがあり、世界中で推奨されています。日本でも2000年から厚生労働省より、妊娠可能な年齢の女性に対する妊娠前から妊娠初期の葉酸摂取の情報提供の推進が提言されています。
7.用語解説
*1:川崎病
川崎病は1967年に川崎富作博士により報告された疾患で、主に乳幼児に発症します。全身の血管に炎症が生じ、ときには心臓の冠動脈に動脈瘤の後遺症を合併することもあります。日本人に多く、原因について様々な研究がなされてきましたが、再現性をもって報告された原因はまだありません。
川崎病は1967年に川崎富作博士により報告された疾患で、主に乳幼児に発症します。全身の血管に炎症が生じ、ときには心臓の冠動脈に動脈瘤の後遺症を合併することもあります。日本人に多く、原因について様々な研究がなされてきましたが、再現性をもって報告された原因はまだありません。
8.発表論文
題名:Exposures associated with the onset of Kawasaki disease in infancy from the Japan Environment and Children’s Study
Sayaka Fukuda, MD1),2), Shiro Tanaka, PhD3), Chihiro Kawakami, PhD1), Tohru Kobayashi, MD, PhD4), Shuichi Ito, MD, PhD1), and the Japan Environment and Children’s Study Group5)
1) Department of Pediatrics, Graduate School of Medicine, Yokohama City University, Yokohama, Japan
2) Department of Pediatrics, Saiseikai Yokohamashi Tobu Hospital, Yokohama, Japan
3) Department of Clinical Biostatistics/Clinical Biostatistics Course, Graduate School of Medicine Kyoto University, Kyoto Japan
4) Department of Data Science, Clinical Research Center, Hospital, National Center for Child Health and Development, Tokyo, Japan
5) the Japan Environment and Children’s Study Group
1、2 福田清香:横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学、済生会横浜市東部病院 小児科
3 田中司朗:京都大学大学院医学研究科 臨床統計学
1 川上ちひろ、伊藤秀一:横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学
4 小林徹:国立成育医療研究センター 病院 臨床研究センター データサイエンス部門
5 JECSグループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長
掲載誌:Scientific Reports
DOI: https://www.nature.com/articles/s41598-021-92669-z
Sayaka Fukuda, MD1),2), Shiro Tanaka, PhD3), Chihiro Kawakami, PhD1), Tohru Kobayashi, MD, PhD4), Shuichi Ito, MD, PhD1), and the Japan Environment and Children’s Study Group5)
1) Department of Pediatrics, Graduate School of Medicine, Yokohama City University, Yokohama, Japan
2) Department of Pediatrics, Saiseikai Yokohamashi Tobu Hospital, Yokohama, Japan
3) Department of Clinical Biostatistics/Clinical Biostatistics Course, Graduate School of Medicine Kyoto University, Kyoto Japan
4) Department of Data Science, Clinical Research Center, Hospital, National Center for Child Health and Development, Tokyo, Japan
5) the Japan Environment and Children’s Study Group
1、2 福田清香:横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学、済生会横浜市東部病院 小児科
3 田中司朗:京都大学大学院医学研究科 臨床統計学
1 川上ちひろ、伊藤秀一:横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学
4 小林徹:国立成育医療研究センター 病院 臨床研究センター データサイエンス部門
5 JECSグループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長
掲載誌:Scientific Reports
DOI: https://www.nature.com/articles/s41598-021-92669-z