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天然物からの蛍光性炭素量子ドットの簡易合成に成功~青色LEDやバイオイメージングへの応用に期待~

2019.10.01
  • プレスリリース
  • 研究

天然物からの蛍光性炭素量子ドットの簡易合成に成功

~青色LEDやバイオイメージングへの応用へ期待~

『Scientific Reports』に掲載

横浜市立大学 大学院生命ナノシステム科学研究科のDager Akansha(博士後期課程3年生)と橘  勝教授は、東洋大学 バイオ・ナノエレクトロニクス研究センターの内田貴司特任准教授(現:信越化学工業(株))と前川 透教授との共同研究で、天然物からの蛍光性炭素量子ドット*1の簡易合成に成功しました。

植物の種を加熱分解処理するだけの簡便な方法で、平均直径 4 nm(ナノメートル)の均一で結晶性の高い炭素量子ドットを得ました。この炭素量子ドットは、水溶液中で紫外線照射下において波長420nmの強い青色発光を示しました。また、水溶液中に1年以上放置した状態においても高い分散性と強い発光特性を維持し、耐褪色性も極めて優れていることを明らかにしました。これらの成果は、発光ダイオード(LED)*2や太陽電池から、バイオイメージング*3、医療画像装置に至るまで、様々な応用が期待されます。
研究成果のポイント

  • 天然物である植物の種からの蛍光性炭素量子ドット(CQD)の簡易合成に成功した
  • 合成されたCQDは強い青色発光を示し、耐褪色性にも優れていることを明らかにした
  • 発光メカニズムの解明に向けて、機械学習*4を用いた新たなアプローチを提案した
  • 本手法によるCQDは青色LEDやバイオイメージングへの応用が期待される
図1.原料の植物の種子(フェンネル種)(左図)と合成された炭素量子ドットの液中(右図A)と紫外線照射下での青色発光(右図B)

研究の背景

量子ドットとは、直径2-10 nmの非常に小さく特殊な半導体のことで、ナノ結晶とも呼ばれます。サイズや形状に依存した蛍光を示し、一般に、高輝度、高効率、耐久性に優れた発光特性をもつため、LED、太陽電池、照明、ディスプレイ、レーザーから、バイオイメージング、医療画像装置に至るまで様々な用途に有望な材料として期待されています。現在、CdSe、InP、ZnS、PbSなどの蛍光体がありますが、原料コストや煩雑な製造プロセスに加え、Cd、Se、Pbなどの有害元素の環境や人体への影響も懸念されています。

これに対し、近年、代替材料として炭素量子ドットが次世代の蛍光体として注目を集めています。安価で安全な蛍光体材料としてLEDがより身近なものになる可能性があります。さらに、生体との相溶性が高く、安全な材料であることから、バイオイメージング、タンパク質分析、細胞のトラッキングなどの生物医学的な応用も期待できます。これまでにも簡便な手法として、天然物の微細化技術による炭素量子ドットの作製が試みられてきましたが、用いられる天然物原料や生成された炭素量子ドットの不安定性・再現性や、合成における前処理・後処理といった煩雑な多段階プロセスなどの課題がありました。

研究の内容

植物の種を500℃で3時間加熱分解させるのみの簡便な方法によって、優れた光学特性を示す均一で結晶性の高い安定的な炭素量子ドットの合成に成功しました。図2に合成プロセスの模式図を示します。得られた炭素量子ドットは、平均直径4nmの均一なサイズを持ち、電子顕微鏡で格子縞が明確に観察されるような高い結晶性を示しました。また、この炭素量子ドットは、水溶液中で紫外線照射下において波長420 nmの強い青色発光(図3左図)を示し、その耐褪色性(図3右図)も極めて優れていることがわかりました。

この炭素量子ドットは均一で安定なマイナスの電荷を帯びており、表面は官能基に覆われている、いわゆるコアシェル構造をもつことが推測されます。これらの構造上の特徴から、水溶液中で1年以上にわたって高分散性と強い発光特性が維持され、極めて安定性の高い炭素量子ドットが得られていることがわかりました。炭素量子ドットの発光メカニズムとしては、分子発光をはじめとして窒素や酸素の吸着による表面準位が関連したようないくつかの発光メカニズムが提案されていますが、本研究では発光の励起波長依存性やpH依存性などのデータから機械学習を用いた発光メカニズムの解明に向けて新たなアプローチも提案しました。


図2.本研究の蛍光性炭素量子ドット簡易合成のフローチャート
図3.合成されたCQDの発光スペクトルの励起波長依存性(左図)と紫外線照射下での発光強度の経時変化(耐久性)(右図)

今後の展開

本研究では、植物の種を原料として用い、熱分解という簡便な手法による蛍光性炭素量子ドットの合成に成功しました。今後は実用化に向け発光効率の向上や薄膜化などを進めることによって、青色LEDなどの電子デバイスの作製やバイオイメージングなどへの応用展開を目指します。

特許情報

本研究成果の技術は、本学より下記の特許出願済みです。
出願番号:特願2019-090961
発明の名称:炭素量子ドット及び炭素量子ドットの製造方法

用語説明

*1 炭素量子ドット(CQD:新型の炭素系ナノ材料で、その強い量子閉じ込め効果および安定した蛍光性能等の優れた性能により、化学、物理、材料および生物等の各領域で科学者から広く関心を寄せられている。既存の半導体における金属量子ドットに比べ、CQDには低毒性および生体相溶性という優れた特性があるため、バイオ領域での研究で将来性が高い。

*2 発光ダイオード(LED):Light Emitting Diodesの略。簡単にいえば電流を流すとエネルギーが発生して発光する半導体のこと。

*3 バイオイメージング:細胞・組織または個体レベルでタンパク質などの分布・局在を捉え、その動態を画像として解析する技術のこと。ナノサイズの量子ドットは体内のあらゆる場所に送達可能であり、医用画像やバイオセンサーなど、様々な生物医学用途に適している。

*4 機械学習:人工知能における研究課題の一つで、人間が自然に行っている学習能力と同様の機能をコンピュータで実現しようとする技術・手法のことである。大量のデータ(デジタルデータ)をコンピュータにより反復的に学習し、そこに潜むパターン(特徴)を見つけ出すこと。

※本研究は、『Scientific Reports』に掲載されました。(英国時間9月30日10時付:日本時間9月30日18時付オンライン)
“Synthesis and characterization of Mono-disperse Carbon Quantum Dots from Fennel Seeds: Photoluminescence analysis using Machine Learning”
Akansha Dager, Takashi Uchida, Toru Maekawa, Masaru Tachibana
Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-019-50397-5

※本研究は、池谷科学技術振興財団(0291078-A)および JSPS科研費(17K06797)の助成を受けて行われました。




 

問い合わせ先

(研究内容に関するお問い合わせ)
大学院生命ナノシステム科学研究科 教授 橘 勝
TEL:045-787-2307 E-mail:tachiban@yokohama-cu.ac.jp


(プレスリリースに関するお問い合わせ、取材対応窓口、資料請求等)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510 E-mail:kenkyupr@yokohama-cu.ac.jp
 

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