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地域からの情報発信の意義と方法について考える—「つながるニュースのつくり方」講座を開催—

2014.07.03
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  • 公開講座

地域からの情報発信の意義と方法について考える—「つながるニュースのつくり方」講座を開催—

横浜市立大学(YCU)は、平成26年7月3日、元NHKアナウンサーの堀潤さんを講師に招き、「つながるニュースのつくり方」と題する講演会を開催しました。
スマートフォンなどのソーシャルメディアの普及に伴い、身近に起きている出来事を誰でも手軽に発信できる時代になっています。YCUは「地(知)の拠点整備事業」(大学COC事業)として、教職員や学生が地域の方々と一緒に高齢化や環境問題など社会の課題解決に向けて取り組んでいますが、そうした様子を情報発信する意義や方法について、豊富な取材経験のあるジャーナリストとしての立場から、お話し頂きました。

情報は警察や役所ではなく、現場にいる人が持っている

この講演会は、地元テレビ局であるtvk(テレビ神奈川)と共同で開催。金沢八景キャンパスの教室で約2時間行われ、市民や学生など約30人の受講者が参加しました。
講演に先立ち、堀さんが自己紹介を行いました。1977年生まれの兵庫県出身、中学2年の時に横浜市に転居し、岩崎中学校、平沼高校から立教大学に進学。2001年にアナウンサーとしてNHK(日本放送協会)に入局し、岡山放送局を経て東京アナウンス部に異動。『ニュースウォッチ9』などの番組を担当した後、2013年にNHKを退局しました。
続いて堀さんがジャーナリストとしての経験を振り返り、「これまでのニュース番組では、警察や役所の記者クラブで発表されたものを原稿にして読むことが多かったのですが、私が担当した番組では、主に現場で関係者に直接取材した情報を基に原稿を作成するなど、これまでとは違ったスタイルでした」と、徹底した現場主義を貫いたことを強調しました。
その上で、「情報は役所や警察ではなく、現場にいる1人1人が持っている」として、関係者への地道な取材の後、確認作業を経て当事者への取材を進めるなど、現場の声を丁寧に拾っていくことが情報の精度を高め、ニュースの厚みを増すとの考えを示しました。

メディアではできなくても、個人で伝えられることもある

堀さんは2011年3月の東日本大震災の後、福島第一原子力発電所での事故を取材しましたが、「原発事故はこれまで経験したことがなく、知識もなかったので、伝えることが難しかった。政府はパニックを起こさないように、官房長官が状況を発表していたので、報道も自然と慎重になっていました」と、一種の壁のようなものを感じていたといいます。
また、今年2月の関東地方で大雪が降った際、山梨県で合宿中の大学生が宿泊先から脱出できず、ツイッターで救助を求めたことがありました。道路が寸断されていたため、マスコミはおろか、警察や消防でさえも現場に駆け付けることができない状況でした。そこで、大学生がスマートフォンで大雪の動画を撮影してインターネットの動画サイトに投稿したところ大きな反響があり、自衛隊員が徒歩で救助に駆け付けることになりました。
堀さんは「わずか20秒足らずの動画でしたが、またたく間に25万回も再生され、大学生が閉じ込められていることが広く伝わり、自衛隊の活動につながりました」とした上で、「マスメディアでは伝えられないことでも、個人では伝えられることもあります」として、個人の情報発信が結果として大きな反響を呼ぶ例があることを紹介しました。

情報発信スキルを高める仕組みが必要

次にtvkのスタッフから、個人で動画を撮影し、投稿する方法の説明がありました。
今はスマートフォンなどで動画を撮影し、YOU TUBEやFacebookなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用して、誰でも手軽に情報発信ができる時代になっています。スマートフォンで撮影した映像は、テレビで放映する際の画質にも耐えられるほか、デジタルカメラや一眼レフカメラでも、動画を撮影することができるといいます。
堀さんは「個人の情報発信がWEBに掲載され、それが地元メディアに取り上げられ、最後は全国ネットで放映される可能性があるなど、情報の拡散も期待できます」として、
マスメディアが個人で撮影した動画を利用する例も多いと話していました。
このため、必要な情報は必ずしもマスメディアを通さなくても、入手できるようになっているのも事実で、既存メディアに対する不信の声も上がっています。
堀さんは「やはりマスメディアの情報拡散力は強いのは認めざるを得ません。プロのジャーナリストは職業人としてスキルがあるのは当たり前ですが、一般の方も専門的能力を身につけていくため、発信力を底上げしていく場を作る必要があります」として、市民の情報発信力を高めるため、教育や研修、講座開催の必要性を説いていました。

パブリック・アクセス権で個人の情報発信に光明

堀さんはアメリカの大学での留学・研究経験から、「欧米では公共の資源や財産は市民のものであり、それにアクセスすることが法律で保障された権利『パブリック・アクセス』が浸透しています。電波も公共財産と位置付けられています」とした上で、「アメリカやイギリス、韓国や台湾などでは、既に法律で権利が認められており、市民が持ち込んだ映像を、放送で流さなければいけないと規定している国もあります」と紹介しました。
最後に堀さんは、「民主主義国家では当事者意識が薄くなりがちで、情報発信は専門家であるマスコミに任せようという雰囲気が強いのですが、情報があるなら自分たちで積極的に発信し、ニュースは見る側だけでなく伝える側の立場に立つと、どういう切り口があるかを考えることにもつながります」として、受け身の姿勢ではなく自ら情報を発信することが大切なことを、改めて強調していました。
参加者からは「私たちも自ら情報発信できる時代になったことが理解できた」や「発信することで何か重要な問題に結びつくのではないかと感じた」との感想が出されました。
(広報担当)
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