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生命医科学研究科 鈴木厚准教授の研究グループが、哺乳動物細胞内における「微小管の新しい制御機構」を発見!

2014.11.12
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生命医科学研究科 鈴木厚准教授の研究グループが、哺乳動物細胞内における「微小管の新しい制御機構」を発見!

鈴木 厚准教授の研究グループ(大学院生命医科学研究科 分子細胞医科学研究室)による最新の研究成果「MTCL1 crosslinks and stabilizes non-centrosomal microtubules on the Golgi membrane」が、英国の科学雑誌『Nature communications』(平成26年11月4日付)に掲載(オンライン)されました。

研究の概要

細胞の骨格線維の一種である微小管は、紡錘体を形成し娘細胞への遺伝情報の均等な分配に働くとともに、非分裂期(間期)の細胞においても細胞内の物質輸送などに不可欠な役割を果たしています。この微小管は球状タンパク質であるチューブリン(αβ二量体)が重合して形成される線維構造(ポリマー)ですが、他のタンパク質の助けがなければ、この重合・脱重合の平衡が容易に脱重合に傾き、線維の末端から単量体チューブリンがボロボロと脱重合して壊れてしまうことが知られています(図1)。細胞内では、このように「本来不安定な微小管」の末端(多くの場合、マイナス端)が特定の場所の特定の構造に結合させられることにより安定化し、その結果、必要に応じて必要な微小管線維構造が動的に、迅速に形成(破壊)される、ということがわかっています。
微小管の末端が結合し安定化する構造としては、「中心体」が古くから知られています。しかし近年、神経細胞や上皮細胞などの分化した細胞の微小管のほとんどは、この「中心体」には結合していない微小管(非中心体微小管)であり、こうした微小管がこれらの細胞の示す独特の形態や機能の実現にとって不可欠な役割をしていることが明らかにされています(図2)(参考:J Cell Sci.119:4155-63 (2006))。今回の論文では、こうした「非中心体微小管」の一種として近年発見された「ゴルジ体から伸張する微小管」の架橋、安定化機構を初めて明らかにしました。
MTCL1というのは、昨年、我々が発見した新しい微小管架橋タンパク質であり、上皮細胞の非中心体性微小管の形成に必須であることをすでに明らかにしているタンパク質です(J Cell Sci. 126:4671-4683, 2013)。本論文では、このMTCL1がゴルジ微小管ネットワークの安定的な形成にも働くことによって、非上皮性の細胞の運動極性の維持などにも不可欠な役割を果たしていることを明らかにしました(図3)。
なお、この研究は、医学研究科大学院生 佐藤由典君との共同研究であり、佐藤君が昨年度、日本細胞生物学会年会で若手優秀発表賞を受賞した研究内容を論文化したものです。
医学研究科大学院生 佐藤由典さんが細胞生物学会2013で「若手優秀発表賞」受賞

今後の期待

その後の研究は、MTCL1が神経細胞における非中心体性微小管の制御にも不可欠な役割を果たしていることを明らかにしています。そして実際、MTCL1遺伝子改変マウスが神経変性症状を示すとともに、MTCL1遺伝子の異常が類似の症状を示すヒトの疾患の発症の原因の一つになっている可能性も示されつつあります(医学部遺伝学教室との共同研究)。一方、MTCL1は細胞分裂制御にも働いている可能性が高く、その異常が発癌にも関わっていることも想定されます。「微小管制御の分子機構の研究」は「細胞生物学の基礎研究」として非常に重要ですが、同時に本研究は、上記のように種々の臨床的な意義をもつ研究としても発展する可能性を有しています。
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