YCU 横浜市立大学
search

生命ナノシステム科学研究科 荻原 保成 教授が平成21年度日本育種学会賞を受賞

2010.04.13
  • プレスリリース
  • 研究

受賞題目:コムギの核および細胞質ゲノムにおける機能ゲノム科学の展開

生命ナノシステム科学研究科 荻原教授が平成21年度日本育種学会・学会賞を受賞しました。本会は1951年に創設された、日本学術会議登録団体です。
 
植物細胞内にはDNAを保有する3種の代表的なオルガネラ(核・色素体・ミトコンドリア)が存在します。3種のオルガネラゲノムは独自の転写・翻訳システムを保持し、環境の変化に応答して遺伝子の発現を制御しています。3種ゲノムは互いに影響を及ぼし合いながら変異・進化し、また、3種ゲノムの遺伝情報ネットワークを調節して植物は、様々な環境に適応してきました。荻原教授は、コムギ属植物を材料にして、3種ゲノムの構造を解析し、近縁な植物におけるゲノム変異生成機構を研究しました。さらに、異なるゲノムが共存するパンコムギにおいて、環境に応答して3種ゲノムがどのように発現調節されているかを機能ゲノム科学的に解析しました。
育種への応用を見据えたコムギ属のオルガネラゲノム研究の基盤を築いたことが高く評価され、育種学会賞の表彰を受けられました。
【写真】
平成22年3月25-27日に京都大学で開催された 
日本育種学会第117回講演会・第60回総会
学会賞授賞式の様子

研究概要

<1>コムギ属植物における比較ゲノム解析
(a)葉緑体DNAの全塩基配列決定と品種同定:コムギ属に含まれるすべての種の葉緑体DNAの制限酵素断片(RFLP)分析を世界に先駆けて行い、倍数種の細胞質提供親を特定し、細胞質ゲノムの遺伝的分化に分子的基礎を与えた。全塩基配列を決定したパンコムギの葉緑体DNAを基にして、近縁植物で生じる葉緑体ゲノムの構造変異生成機構を提示した。この手法は遺伝子資源の正確な分子評価法に応用されている。
(b)ミトコンドリアDNAの全塩基配列決定と遺伝様式:パンコムギミトコンドリアゲノムのマスターサークルDNAの全塩基配列を決定し、変異体DNA生成の分子機構を提示した。異種間交雑による複2倍体形成におけるミトコンドリアDNAの遺伝様式を解析すると共に、核・細胞質雑種におけるミトコンドリア遺伝子の転写様式を解析し、コムギにおける細胞質雄性不稔の分子的基礎を考察した。
(c)染色体詳細地図の作製とシンテニー:分子マーカーに基づく選抜育種の基礎として、新規に開発したDNAマーカーを用いたコムギ染色体の詳細遺伝地図を作成した。この詳細遺伝地図上に重要農業形質遺伝子をマッピングした。特定染色体(コムギ5A)の微細な遺伝地図を一粒系コムギおよびパンコムギで作製し、共通DNAマーカーを穀類ゲノム間で比較し、穀類ゲノムの染色体構造の特徴を解析した。

<2>パンコムギにおける機能ゲノム科学の展開
(a)パンコムギにおけるトランスクリプトーム解析:パンコムギのコムギの生活環の代表的な組織およびストレス処理をした組織における発現遺伝子(EST)を大量に解析した。遺伝子の発現頻度に基づいてコムギの各組織・処理におけるボディーマップを作成し、データベース化した。これらのESTを整列化し、約3万8千のコムギ遺伝子を登載したcDNAマイクロアレイを作成した。また、パンコムギ完全長cDNAライブラリーを構築し、独立な約1万7千遺伝子を完全解読した。
(b)パンコムギのTACライブラリーの構築:ポジショナルクローニングを効率よく行うため、アグロバクテリウムを介して高分子DNAを植物に直接導入できるTACベクターを用いてパンコムギのゲノミックライブラリーを構築し、効率よく遺伝子を選抜できることを示した。
(c)遺伝子機能の解析
コムギの花器官形成過程および種子形成過程遺伝子をデータベースから抽出し、その発現様式を生活環をとおして詳細に解析した。また、コムギの塩応答に対する特徴をDNAマイクロアレイをもちいて体系的に解析した。これらの遺伝子の機能を遺伝子工学的手法を用いて解析した。
これらのパンコムギのクローン、配列情報は、国立遺伝学研究所にあるナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)・コムギのサイトから公開され、ユーザーの利用に供している。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加