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医学研究科微生物学の武下 文彦准教授の論文がThe Journal of Immunologyに掲載されました

2009.04.08
  • プレスリリース
  • 研究
主に自然免疫を専門として研究活動をしている本学医学研究科分子生体防御学教室武下 文彦 准教授と博士課程4年の小檜山康司さんの論文「A Signaling Polypeptide Derived from an Innate Immune Adaptor Molecule Can Be Harnessed as a New Class of Vaccine Adjuvant」が免疫学雑誌「Journal of Immunology」に掲載されました。

研究の概要

自然免疫応答は病原体や癌に対する最初の防御反応だけでなく、それらを排除するための獲得免疫応答を惹起するために重要であり、これまでToll様受容体(TLR)依存的、非依存的な自然免疫応答の詳細な解析が行われてきました。近年、TLR非依存的な自然免疫応答に重要な役割を果たしているアダプター分子としてIFN- promoter stimulator-1 (IPS-1)が同定され、シグナル伝達にはIPS-1のcaspase recruitment domain (CARD)が重要であると考えられています。武下准教授のグループはIPS-1のCARDを用いて様々な変異体を作製し、その中で核に局在する変異体 (N’-CARD)が野生型とは異なり、Nuclear DNA helicase (NDH)を介して新規自然免疫活性化経路を活性化することをあきらかとしました。さらに、N’-CARDが免疫調節薬として応用が可能であるか検討するため、N’-CARDにprotein transduction domainを融合させた 細胞内誘導型N’-CARD-PTD polypeptideを作製しました。この分子は培養液中に添加する事により細胞内へ移行し、強力にI型IFNの産生を誘導することで、樹状細胞を成熟させる事をあきらかとし、またこのN’-CARD-PTD polypeptideを抗原タンパク質と共にマウスに投与することで、Th1型にシフトした抗原特異的免疫応答を増強させる事をあきらかとしました。マウスインフルエンザ感染モデルを用いた実験ではN’-CARD-PTDをインフルエンザワクチンと共に免疫することで、インフルエンザ感染を強力に抑制しました。またマウス腫瘍モデルを用いた実験では、がん関連抗原タンパクと共にマウスに免疫する事で、がんに対する特異的免疫応答を強力に誘導し、移植したがん腫瘤を退縮させる事も確認されました。これらの結果により、これまでミトコンドリアに局在することが大事であると考えられていたIPS-1を介するシグナルとは異なり、N’-CARDはNDHを介して新規自然免疫シグナル経路を活性化することを見いだしました。多くのTLRリガンドや関連した成分がワクチンアジュバントや抗アレルギー薬、抗がん剤として用いようと研究が行われておりますが、TLR9をターゲットとした分子(CpG ODNなど)を用いた臨床試験の結果、マウスで得られた効果に比べ、ヒトでは期待していたほどの反応が見られておりません。この結果はヒトでのTLR9の発現が一部のB細胞と形質細胞様樹状細胞のみに限局しており、かつ全免疫細胞のほんの1%にすぎないことに起因していると考えられております。また一方で、自然免疫研究で注目されているimmunostimulatory RNAやDNAによる細胞活性化は、これら活性化分子を細胞内に導入させることが必要であり、免疫調節薬としての応用は遺伝子ワクチン・遺伝子治療と同様に困難であると考えられています。これら現況の免疫調節薬開発の問題点を鑑み、N’-CARD-PTDは単独で細胞内の核にtranduceされ、TLRなどの受容体の有無に関わらず、ユビキタスな細胞種に存在するNDH, TBK1を介して自然免疫応答を惹起する事ができるといった利点があります。
結論として、武下准教授らの研究によって新たにNDHを介したシグナル伝達が自然免疫応答を惹起し、N’-CARD-PTDが次世代のワクチンアジュバントとしての候補となり得る事を具体的に示しました。また、N’-CARD-PTDが抗アレルギー薬、抗がん薬、抗ウイルス薬として応用可能であることも示唆されました。
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