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国際総合科学研究科の岩崎 博史 教授らの研究が「Nature」(1/29発行)に掲載されました

2009.01.16
  • プレスリリース
  • 研究
 国際総合科学研究科生体超分子科学専攻創製科学部門の岩崎 博史 教授ら(主任研究者は菱田 卓 准教授)の論文が1月29日発行の「Nature」に掲載されました。

概要

 染色体DNAが傷つくと、細胞は分裂を一時的に停止し、損傷DNAの修復機構が活性化します。もし、DNA損傷が正確に修復されないとなると、細胞や個体は死に至ったり、発ガンの原因となる事が知られています。最も卑近なDNA損傷は紫外線によるもので、ヒトをはじめ、太陽光にあたることを避けることができない生物のすべてが被る生命リスクです。しかし、これまでは、太陽光に含まれる紫外線はエネルギー的にも量的にも少ないために、細胞が本来持っている活発な修復機構(この場合は特にヌクレオチド修復と呼ばれる修復)によって速やかに修復されて正常状態に戻り、そのため細胞分裂を停止する事なく、正常に細胞周期が進行するものと考えられていました。

 このような考え方は、これまでに蓄積されてきた莫大な解析結果に基づくものです。しかし、これらはほとんど“高線量”の紫外線を“短時間”照射する解析法によって得られたものでした(たとえば、正常なヒトが10秒あたると翌日には日焼けによる火傷の症状が出る程度の紫外線量と照射時間)。今回、大阪大学・菱田卓准教授、英国MRC研究所A.M.Carr博士、横浜市立大学鶴見キャンパスの岩崎博史教授の共同研究グループは、自然環境で問題となるような低線量の紫外線を継続的に照射しながら酵母細胞を培養できる実験系を開発し、細胞の損傷応答機構について解析しました。その結果、これまで最も重要であるとされてきた直接的修復機構であるヌクレオチド除去修復機構よりも、むしろDNA損傷が引き起こすDNA複製の進行阻害を回避する“DNA損傷トレランス”と呼ばれる機構が細胞の増殖にとって最も重要な役割を果たしていることを発見しました。このDNA損傷トレランス機構が働くために、低線量の紫外線があたったときには、急に細胞分裂を停止する事なく細胞周期を正常に進行させ、同時に細胞は、ヌクレオチド修復や組換え修復といった直接的な修復機構を共役させていることを突き止めました。

 近年、地球規模で起こる環境問題に対する関心は益々高まってきています。様々な環境破壊の中でも、特にフロン等に起因するオゾン層破壊は、皮膚がんや白内障などの健康問題、また、海洋性微生物や農作物の収穫量の減少などが懸念されていますが、これらは、オゾン層破壊が有害な紫外線の増加を引き起こすためであると考えられています。

 それゆえに、今回の研究成果は、生物が進化の過程で環境レベルの紫外線に適応してきた機構の解明ばかりでなく、紫外線量の増大が生物に与える影響を知るうえでも重要な成果であります。


連絡先
横浜市立大学大学院国際総合科学研究科
創製科学部門・教授
岩崎博史
iwasaki@tsurumi.yokohama-cu.ac.jp
045-508-7238
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