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大野教授らの研究グループが 腎糸球体の血液ろ過膜の機能維持に関わる新たな分子機構を発見!

2009.01.14
  • プレスリリース
  • 研究
☆研究成果のポイント
○ 腎糸球体変性疾患のモデルマウスの作成に成功
○ 血液ろ過に関わる腎糸球体スリット膜の維持に関わる分子の発見
  →糸球体変性疾患の新しい診断・治療法開発の可能性
 横浜市立大学先端医科学研究センター(分子細胞生物学教室)の大野茂男教授、廣瀬智威助教、秋本和憲助教、大学院学生の佐藤大輔氏らの研究グループは、糖尿病などの様々な原疾患に由来する慢性腎不全の大部分を占める腎糸球体変性疾患のモデルマウスの作成に成功しました。さらに、このモデルマウスを利用して腎糸球体の要となっている血液ろ過膜の機能維持に関わる新たな分子機構を見いだしました。腎糸球体変性疾患の病態解明に加えて、新たな診断・治療法の開発に弾みがつく成果です。
 本研究は、当センターが推進している研究開発プロジェクトの成果の一つです。

☆研究の背景

 我が国では糖尿病などの様々な原疾患に由来する慢性腎不全の患者が約28万人おり、その治療としての腎臓透析の費用は年間1兆3千億円に達して医療経済を圧迫する大きな要因となっています。さらにその患者数は毎年1万人ずつ増加しています。この慢性腎不全の80%は腎糸球体変性疾患ですが、腎糸球体の変性の機構については未だにほとんど不明です。

☆研究の概要

 腎臓の血液ろ過機能の要は、ポドサイト(たこ足細胞)と呼ばれる特殊な細胞の間にできた「すのこ状」の特殊な膜、「スリット膜」です。スリット膜がどのようにして血液をろ過しているのかに関しては、「すのこ」をきちんと配列させる機構があることは知られていましたが、その実体は不明でした。当センターの研究グループでは、スリット膜が特殊な細胞間接着装置である点に着目しました。
 本グループはこれまでに、線虫の受精卵の極性を決定している分子(細胞極性遺伝子群、aPKC-PAR系)が、生体の構築と機能などに関わる様々な局面で、生命にとって根源的に重要な役割を果たしていることを世界に先駆けて明らかにしてきました。例えば、aPKC-PAR系生体組織を覆っている上皮細胞の細胞間接着装置の形成と維持を介して、細胞集団の組織化に重要な役割を果たしています。
 今回、細胞極性遺伝子aPKCを腎糸球体のポドサイトでのみ欠失させたマウスを作成したところ、一端形成されたスリット膜が徐々に変性し、最終的に巣状糸球体硬化症を呈して死に至ることを見いだしました。さらに、試験管内で培養した腎糸球体や培養細胞を用いた実験から、細胞極性aPKC-PAR系がスリット膜の「すのこ」の材料となる分子を「すのこ状」に維持しておく段階に関わっていることを見いだしました。
 様々な原因でスリット膜の「すのこ」の変性が起きますが、今回その維持の機構の一端が明らかになったことになります。今後このマウスモデルを用いて、巣状糸球体硬化症の発症過程をさらに詳細に調べることも可能となりました。これらの成果は、糸球体変性疾患の新しい診断法の開発に直結するばかりでなく、新しい予防や治療法の開発につながります。
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