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村木原生物学研究所 中教授らの研究が米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に掲載されました

2009.01.09
  • プレスリリース
  • 研究

NMRを駆使し、植物に新たなステロール生合成経路を発見

-木原生研のトウガラシ遺伝資源を有効活用した応用展開へ-

横浜市立大学木原生物学研究所(国際総合科学研究科)・村中俊哉教授(植物応用ゲノム科学部門)は、独立行政法人理化学研究所植物科学研究センターと共同で、生命活動に必須な化合物であるステロールについて、30年来の常識を覆し、植物に新たな生合成経路が存在することを発見しました。ナス科の植物には、ステロール生合成経路から代謝された、薬理活性を有するさまざまなステロイド化合物が含まれています。今後、木原生研のトウガラシ(ナス科)リソースを有効活用した応用展開が期待されます。

研究概要

 ステロールは、生物に広く共通して存在し、細胞膜の構成成分や、ステロイドホルモンの前駆体として生命活動に必須な化合物ですが、動物と植物の間でその生合成経路が異なるとされていました。動物ではラノステロールという生合成中間体を経て動物ステロールが生合成されるのに対し、植物ではシクロアルテノールという生合成中間体を経て植物ステロールが生合成されます。この反応が、動物と植物でのステロール生合成の分岐点であると、教科書にも記載されています。しかし、研究チームは2006年、オキシドスクアレン閉環酵素の一種であるシクロアルテノール合成酵素(CAS)遺伝子に加えて、ラノステロール合成酵素(LAS)遺伝子が植物にも存在することを明らかにしました。
 研究チームは、LASが実際に植物で機能してラノステロールを合成し、ラノステロール経由で植物ステロールが生合成されているのかを解析しました。具体的には、シクロアルテノールとラノステロールの形成機構が異なることに注目し、シロイヌナズナというモデル植物を用いて重水素で標識したメバロン酸の追跡実験を行いました。NMRを駆使した分析の結果、植物ステロールが、シクロアルテノール経路に加えて、ラノステロール経路でも生合成されることを発見し、さらにこれらの経路の寄与率がそれぞれ99%、1%程度であることを明らかにしました。
植物におけるラノステロール経路の寄与は、通常の生育条件ではわずかですが、病気や傷害などの緊急事態には多く働くことが分かってきました。今後、2つの経路を植物がどのように使い分けているのかを明らかにすることで、有用なステロイド化合物の生産性の向上や病傷害に強い植物の育成に貢献できると期待されます。
特に、ナス科の植物には、ステロール生合成経路から代謝された、さまざまなステロイド化合物が含まれています。これらステロイド化合物の中には、ジャガイモのソラニンといった食中毒の原因になる物質がある一方で、さまざまな薬理活性があるものが知られていますが、植物の体の中で、どのようなしくみで生合成されているか明らかにされていません。
 横浜市立大学木原生物学研究所には、ナス科のトウガラシについて多様な遺伝資源が整備されており、これらのリソースを有効活用した研究を展開させていきます。
 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)にオンライン掲載されました。
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