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田村准教授らの研究が米国心臓病協会雑誌 AHA Journalに掲載されました

2008.10.23
  • プレスリリース
  • 研究
 本学医学研究科の田村功一准教授らの研究グループが追求している心血管病・生活習慣病増悪因子受容体(アンジオテンシンII受容体)新規結合蛋白 ATRAP (AT1 receptor-associated protein)の病態生理学的意義についての研究成果の一部が,今回,愛媛大学医学部堀内正嗣教授との共同研究成果として、Hypertension(米国心臓病協会雑誌 AHA Journal) (ISI Impact Factor = 7.194 (2007))の10月号に掲載されました (Shigenaga A, Tamura K, Wakui H, Masuda S, Azuma K, Tsurumi-Ikeya Y, Ozawa M, Mogi M, Matsuda M, Uchino K, Kimura K, Horiuchi M, Umemura S.Effect of olmesartan on tissue expression balance between angiotensin II receptor and its inhibitory binding molecule.Hypertension. 2008 Oct;52(4):672-8. Epub 2008 Aug 25. PMID: 18725581)。
 また、学会発表につきましては、海外では、平成20年9月17日(水)〜20日(土)に米国アトランタにて開催された第62回米国心臓協会高血圧評議会総会において、また、日本においては、平成20年10月9日(木)〜11日(土)に札幌にて開催された第31回日本高血圧学会総会における国際セッションにおいて研究内容について発表いたしました。

研究内容

 レニン-アンジオテンシン系はその生理活性物質アンジオテンシンIIが生体における主要な受容体であるAT1受容体に作用して下流の情報伝達系を活性化することにより、高血圧、心肥大、心不全、動脈硬化、腎障害などの心血管系疾患、あるいはインスリン抵抗性症候群であるメタボリック症候群の発症・進展に深くかかわっている。研究グループの田村准教授は米国ハーバード大学医学部内科学Victor J Dzau教授、および愛媛大学生医学部堀内正嗣教授らとの共同研究により単離同定したAT1 受容体C末端に特異的に結合する低分子蛋白(ATRAP, AT1 receptor-associated protein; J Biol Chem 1999)についての研究をおこなっており、ATRAPはAT1受容体情報伝達系の活性制御因子としてその病態生理学的意義が注目されている(表1).現在までにATRAPについて、心筋細胞において効率的に心肥大反応を抑制すること(文献1)、腎臓に広く分布しており塩分摂取量の変化などによってその発現が変化すること(文献2)、あるいは、アンジオテンシンII刺激によって誘発される血管の種々の動脈硬化反応がATRAPによって効率的に抑制されること(文献3)などをすでに国際誌に論文発表している。これらの研究成果から、ATRAPが心血管系細胞表面のAT1受容体を減少させることにより、すでに臨床応用されているAT1受容体拮抗薬とは異なる新しい分子機序によりAT1受容体を介する病的心血管系リモデリングやメタボリック症候群を抑制する可能性が示されている(図2)。そして、田村准教授らは、組織AT1受容体発現量/ATRAP発現量(両者の発現量比)= 組織局所でのAT1受容体情報伝達系活性度として相対的な組織レニン-アンジオテンシン系の新しいバロメ−タとして提唱しており、奔研究の研究成果により『組織ATRAP発現量 / AT1受容体発現量 の低下 → 組織局所でのATRAP発現低下によるAT1受容体情報伝達系活性の亢進 → 心血管系や腎における心血管病・メタボリック症候群の発症・進展』という新しい概念を臨床医学に導入できる可能性がある。研究では、本態性高血圧の病態モデル動物(高血圧自然発症ラット,SHR)を用いて、AT1受容体とその新規結合蛋白質ATRAPの発現調節および両者の発現量バランス制御についての解析をおこない、高血圧の進展にともない組織特異的なATRAPとAT1受容体との発現量のバランスが変化することや、降圧薬であるAT1受容体拮抗薬(ARB)投与することによりその発現のバランスが変化することを明らかにし、組織特異的なATRAPとAT1受容体との発現量のバランスの改善がARBの降圧を超えた多面的な作用のひとつである可能性を示した(図3)。なお、本研究成果は、一部本学の研究戦略プロジェクト研究費により行われた。
文献1:Tanaka Y, Tamura K, Koide Y, Sakai M, Tsurumi Y, Noda Y, Umemura M, Ishigami T, Uchino K, Kimura K, Horiuchi M, Umemura S.The novel angiotensin II type 1 receptor (AT1R)-associated protein ATRAP downregulates AT1R and ameliorates cardiomyocyte hypertrophy. FEBS Lett. 579:1579-1586, 2005.
文献2:Tsurumi Y, Tamura K, Tanaka Y, Koide Y, Sakai M, Yabana M, Noda Y, Hashimoto T, Kihara M, Hirawa N, Toya Y, Kiuchi Y, Iwai M, Horiuchi M, Umemura S. Interacting molecule of AT1 receptor, ATRAP, is colocalized with AT1 receptor in the mouse renal tubules. Kidney Int. 69: 488-494, 2006.
文献3:Azuma K, Tamura K, Shigenaga A, Wakui H, Masuda S, Tsurumi-Ikeya Y, Tanaka Y, Sakai M, Matsuda M, Hashimoto T, Ishigami T, Lopez-Ilasaca M, Umemura S. Novel regulatory effect of angiotensin II type 1 receptor-interacting molecule on vascular smooth muscle cells. Hypertension. 50: 926-932, 2007.
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