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五嶋良郎教授(分子薬理神経生物学)らのグループの研究がJournal of Investigative Dermatologyに掲載

2008.07.18
  • プレスリリース
  • 研究
横浜市立大学医学研究科・五嶋良郎教授(ごしまよしお・分子薬理神経生物学)らのグループは、セマフォリン3A (Sema3A)という分子が、これまでにない画期的な薬理作用により、アトピー性皮膚炎をはじめとする難治性瘙痒性皮膚疾患の新規治療薬となる可能性があることを発見しました。この研究は、横浜市立大学医学研究科・池澤善郎教授(いけざわぜんろう・環境免疫病態皮膚科学)、山口絢子(やまぐちじゅんこ・同大学院生)らとの共同研究による成果であり、横浜市立大学先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの成果のひとつです。

研究概要

アトピー性皮膚炎は、強い痒みを伴い慢性の経過をたどる湿疹病変です。その患者数は日本や欧米諸国において近年増加する傾向にあります。体だけでなく、顔やくび、腕や下肢などの露出部に、長期にわたって激しい痒みを伴う皮疹が出現し、精神的にも身体的にも大きな負担となります。つまりアトピー性皮膚炎は、ありふれた病気でありながら、うまく病気をコントロールできないと生活の質を大きく落とす危険をもつ厄介な皮膚病なのです。
ヒトは痒みを感じると掻破します。掻破という刺激は皮膚に分布する痒み神経の成長を促すので、皮膚内の神経量が増加します。すると、痒みに対して非常に敏感な状態になります。この「痒み過敏状態」は更なる掻破を引き起こすためまた皮膚の神経線維量が増える、という悪循環に陥ってしまいます。更に、掻破という行為自体が皮膚を傷つけるので、湿疹病変が治りにくくなり長引きます。こうした一連の悪循環は「痒み‐掻破回路」と呼ばれ、アトピー性皮膚炎の増悪・慢性化の大きな一因として注目されています。
本グループは、神経の成長を阻害する働きを持つセマフォリン3A(Sema3A)とよばれる物質に注目しました。そしてこの物質をアトピー性皮膚炎マウスの皮膚へ投与することにより、皮膚炎が改善し掻破回数も低下するという画期的な発見をしました。顕微鏡での観察では、Sema3Aを投与されたマウスの皮膚では皮膚神経量が減り、しかもアレルギー反応に関与する炎症細胞が減っていることを明らかにしました。これは、アトピー性皮膚炎を神経的かつ免疫的に抑え「痒み-掻破回路」を断ち切るという、かつてない作用機序による治療効果を示した最初の報告となります。なお、Sema3A投与に伴う異常行動は特に認めませんでした。Sema3Aによりアトピー性皮膚炎に対する全く新しい治療法を確立することができれば、今までの治療では改善のみられない患者さんに多大な福音をもたらすと期待されます。

※    本研究成果は、 Journal of Investigative Dermatology (2008) のオンライン版は平成20年7月11日に掲載されました。
※    本研究は、平成18-19年度横浜市立大学研究戦略プロジェクト事業共同研究推進費、平成19年度(財)横浜総合医学振興財団萌芽的研究助成、平成20年度文部科学省受託研究費により行われています。
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