Tel.045-787-2800(代表) お問い合わせ

全身性強皮症について

全身性強皮症の疾患情報

図1図1
図1

強皮症は皮膚に硬化を認める病気で、大きく分けて全身性強皮症と限局性強皮症に分類されます(図1)。
全身性強皮症では皮膚のみならず心臓や肺、消化管といった内臓にも症状が出現します。一方で、限局性強皮症では主として皮膚だけに症状が出ます。

全身性強皮症は肘や膝から先だけが硬くなる「限局皮膚硬化型全身性強皮症」と、肘や膝を越えて皮膚が硬化するより重症型の「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」とに分けられます(図1)。

本邦の全身性強皮症の患者さんは2万人以上が確認されていますが、軽症の方を含めると患者数は数倍になると推定されています。男女比は1:12であり30~50歳代の女性に多く見られますが、一方で小児や高齢者での発症も知られています。根本的な原因は不明ですが、免疫異常や血管障害、線維化の異常などが複雑に関係して皮膚や内臓の線維成分が増えて硬化すると考えられています。特定の遺伝子を持つ方は皆発症するというような遺伝病ではありませんが、発症には遺伝的要因や環境要因の両者が関与しています。

全身性強皮症の方の90%は、寒冷刺激で手指が白色や紫色になるレイノー現象が生じ、その後、徐々に、手指の腫脹やこわばりといった症状が出現してきます。さらに手指から徐々に皮膚硬化が生じ、体の中心部に向けて全身性の皮膚硬化に進んでいく場合もあります。皮膚硬化が顕著になると、関節痛や指がまがって伸びなくなる屈曲拘縮が生じやすく、日常生活に多くの支障をきたします。全身性強皮症の方は、皮膚硬化が生じるよりも前から、爪の根元(爪郭部)の毛細血管の異常を認めることが多く、レイノー現象とともに早期診断に重要な所見です。キャピラロスコピーを用いて診断できますが、肉眼的にも、爪上皮(爪のあま皮)の延長やその部分の点状出血を自覚することがあります。そのほか、皮膚症状では、手のひらや胸部の毛細血管拡張、皮膚の石灰沈着、色素沈着などがみられます。また、とくに冬季になると手足の血行障害が悪化し、指の先端(指尖部)や関節背面に潰瘍ができることがあり、強い疼痛を伴います。また、これらの潰瘍が治癒した後に残る指先の瘢痕もこの病気の特徴の一つです。また、血管障害として、肺動脈の血圧が上昇してしまう肺高血圧症を合併することがあります。初期は症状はありませんが、進行すると命にかかわるため、肺高血圧症が生じてきていないか、定期的に検査をする必要があります。

皮膚や血管以外の症状については肺、消化管、心臓、腎臓が侵されることがあり注意が必要です。
肺が硬くなる間質性肺疾患が生じると徐々に空咳や呼吸困難がでてきます。進行すると不可逆性になり、生命に関わるため、進行性の場合には積極的加療が必要になります。
消化管では、食道と腸管の動きが悪くなることがあります。逆流性食道炎を起こすと胸焼けなどの症状を生じ、腸が硬くなると便秘や下痢を繰り返すことがあります。また腸管からの栄養の吸収が十分に行えず、栄養失調に陥る場合もあります。
腎臓では内部の血管病変が原因で急激に高血圧が起きる強皮症腎クリーゼという現象がごくまれに起きます。

全身性強皮症の検査

血液検査では自己抗体や合併症の有無を確認します。自己抗体は多岐にわたりますが、主要な4種類(抗Scl-70抗体、抗RNAPⅢ抗体、抗セントロメア抗体、抗U1RNP抗体)について保険適応内で検査を行うことができます。
抗体のタイプによって、生じやすい病型や臓器障害がある程度相関するため(図2)、抗体を同定することは、今後の症状や合併症の予測に有用です。

抗体名 病型 症状
抗Scl-70抗体 びまん皮膚硬化型 重度の皮膚硬化、間質性肺疾患
抗SRNAPⅢ抗体 びまん皮膚硬化型 急速な皮膚硬化、悪性腫瘍の合併、腎クリーゼ
抗セロトロメア抗体 限局皮膚硬化型 皮膚腫瘍、肺高血圧症
抗RNP抗体 びまん皮膚硬化型 手指腫脹、他の膠原病症状の合併
図2

皮膚の硬化の程度についてはmodified Rodnan’s total skin thickness score (mRSS)という尺度を用いて評価をします。皮膚線維化の確認のために皮膚生検という皮膚を一部切り取って病理学的に詳細に観察する検査を行う場合もあります。
爪郭部血管異常については、キャピラロスコープ(図3)という機器を導入し、ダーモスコープでは検知できなった微細な発症早期の病変も検出ができるようになりました(図4)。

  • 図3
    図3
  • 図4
    図4

間質性肺炎についてはレントゲン検査、HRCT検査、呼吸機能検査、血液検査などを、スクリーニングや病勢評価のために行います。
消化管症状については消化器内科と連携し逆流性食道炎ほかの腸管病変の診断を確認します。
肺高血圧症の評価には、定期的な心エコー検査、心電図検査を行います。これらの検査により肺高血圧症が疑われる場合には、循環器内科と連携して心カテーテル検査を行います。心病変にはMRIも用いられます。

図5図5
図5

皮膚硬化があっても全身性強皮症とは限りません。一方で、明らかな皮膚硬化がなくても、全身性強皮症を強く疑う場合もあります。
自覚症状や身体症状、各種検査結果などから、専門医によって診断されることが重要です。
参考に、厚生労働省の診断基準や欧州/米国リウマチ学会の分類基準を提示します(図5)。

全身性強皮症の治療法

全身性強皮症の根治的な治療はまだ確立されておらず、定期的に診察や検査を行い、生じてきた症状を早期に見つけてそれぞれに対する対処を行うことが、これまでの治療の中心となっていました。
近年は、多くの新規治療薬が開発されつつあり、不可逆性病変を生む前の早期診断の重要性、そして、特に進行例を見極め、そのような例では、早期からの積極的治療介入の重要性が考えられています。

皮膚硬化が急激に進行する例では、間質性肺炎などの他臓器の病変も進行性の場合があり、注意が必要です。
病勢のある間質性肺疾患に対しては、従来、初期治療にシクロフォスファミドなどを用いていましたが、安全性の問題がありました。近年は、抗炎症薬としてのミコフェノール酸モフェチル(2023年10月現在、日本では保険未承認)が同等の治療効果を持つ薬剤として、世界的に使用されています。
そのほか、抗線維化薬のニンテダニブなども全身性強皮症の間質性肺炎に保険承認されています。
さらに近年、B細胞という免疫細胞に作用するリツキシマブが全身性強皮症に対して保険適応になり、進行性の皮膚硬化や間質性肺疾患の治療に用いられるようになりました。
そのほか、新規開発中の薬剤が複数報告されています。
これらの薬剤を、全身性強皮症のどのような患者さんに、どの時期に、どのように投与すると、最良の結果が得られるのかという視点で、多くの臨床研究が行われている状況です。
当院では、関連診療科と連携し、個々の患者さんの状況に合わせた最適な医療を提供しています。

全身性強皮症の皮膚潰瘍は、日常生活において苦痛の強い病変です。
まずは、日常生活指導としての禁煙、保温、保護、などが潰瘍予防に重要になりますので、患者さんに合わせた細かい指導を行っています。
そのほか、末梢循環障害に対する治療としては、カルシウム拮抗薬や血管拡張薬などの内服療法、潰瘍に対する外用療法や外科的治療などを組み合わせて治療を行います。
手指の潰瘍を繰り返す場合にはエンドセリン受容体拮抗薬であるボセンタンという薬剤を用いると潰瘍の新規発症を予防できることが知られているので積極的に投与を行っています。
冬季等に潰瘍が悪化した場合には、入院していただき集中的に血管拡張薬の点滴投与を行う場合もあります。

心エコー検査で肺高血圧症が疑われる方に対しては、循環器内科に併診して、心カテーテル検査など詳細な検査の上で治療を行います。
治療は、選択的肺血管拡張薬などを組み合わせて行います。間質性肺疾患、肺高血圧症ともに症状が進行して呼吸苦、低酸素血症がみられる場合には在宅酸素療法も適応となることがあります。
そのほか、逆流性食道炎に対しては胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害剤の投与を行います。

全身性強皮症は病態が複雑で、患者さん毎に状況も異なり、治療は決して簡単ではありません。しかし、今後の治療法の進歩が期待されている疾患です。
多くは慢性に経過しますので、定期的な専門外来の受診と評価、病状に応じた治療選択が重要です。
当院では、多くの臨床的経験を有する専門医が存在し、臨床試験なども多く行われております。ご相談ください。