悪性黒色腫の診断と治療
悪性黒色腫とは
悪性黒色腫(メラノーマ):いわゆる「ほくろのがん」です。色素を作る成分であるメラノサイトがに似た細胞が増殖する癌です。悪性黒色腫は白人種で頻度が高く、オーストラリアでは乳癌、肺癌に次いで多いとされます。
従来、日本人における罹患率は10万人に1.5〜2人と白人と比べて少ないとされていましたが、近年、日本における悪性黒色腫患者数や死亡率は増加しつつあります。
手術可能な症例では、早期の手術療法が治療の基本となります。
しかし、術後の再発や転移が起こりやすい疾患であり、こまめなフォローアップと適切な治療介入(手術、薬物療法、放射線療法) が不可欠です。当院では他診療科と密接な連携をとり、診断から治療まで全てを包括できる体制をとっております。
診断・検査
早期診断が非常に重要であり、初期は良性腫瘍(母斑:ほくろなど)の鑑別が必要です。診断は、主に視診と詳細に皮膚を観察できるカメラ(ダーモスコピー)を用いて行います。色調が一定でない(濃淡不整)、不規則で不均一な分布、境界がわからない、腫瘤形成や潰瘍形成をしている場合は、悪性黒色腫を考える所見です。
皮膚悪性黒色腫は以下の4つの分類に分けられます。
- 末端型:手足の裏にできる、日本人に多いタイプです。
- 結節型:垂直に盛り上がってできるタイプで、全身にできます。
- 表在拡大型:平たく広がっていき、全身にできます。
- 悪性黒子型:高齢者に多い、境界がわかりにくく、色調が一定でないシミのようなものが広がってできます。
-
末端型(足)
-
爪
-
結節型(背部)
日本人では悪性黒色腫全体の15%ほどが粘膜悪性黒色腫であると報告されています。
この場合、内視鏡検査や眼底検査、婦人科検診で見つかることがあります。 悪性黒色腫の転移を調べるため、まず所属リンパ節 (足の病変であれば足の付け根である鼠径、頭の病変であれば首のリンパ節など)の触診とエコー検査を行います。さらに、全身の転移について造影CTやPET-CT、造影MRIを用いて調べてます。
手術療法と当科の実績
皮膚悪性腫瘍切除術:皮膚がんを切除する手術+局所皮弁形成、植皮術
- そのまま縫い縮める
- 植皮(腹部や大腿、鎖骨部などから皮膚を採取して縫い付け固定)
- 局所皮弁(傷の周囲の皮膚を切りよせる)
センチネルリンパ節生検術
センチネル(見張りもしくは門番)リンパ節を調べることで、 視診・触診や画像検査で見えない転移がないか調べます。
早期に転移を見つけることで次の治療を行えるようにします。
手術前日にまず核医学検査という検査を、そして手術の時に色素を皮膚がんの周りに注射することで、「センチネルリンパ節」を同定し摘出します。
所属リンパ節転移がある場合:リンパ節郭清術
すでに所属リンパ節転移をきたしていると考えられる場合、周辺の脂肪組織ごとリンパ節を摘出する治療法です。
現在では薬物療法の進展もあり、リンパ節転移をきたしている症例で薬物療法から行うことも少なくありません。
加えて周囲のリンパ節を摘出することでリンパの流れが滞り、リンパ浮腫(手や腕、足がむくむこと)が起こる可能性があるため、手術の実施については患者さん1人1人と相談しながら、必要に応じて行なっていきます。
その他に横浜市大皮膚科では粘膜合併切除術、四肢離断術も行なっております。
薬物療法と当科の実績
現在、免疫チェックポイント阻害薬とBRAF/MEK阻害薬の2つがキードラッグとされています。
薬物療法は主に以下の3つの場合に行います。
- 手術で病変が取りきれない症例
- 術後の再発・遠隔転移を起こした症例
- 術後補助療法:病変は切除したが転移などのリスクが高い症例
免疫チェックポイント阻害薬
抗PD-1抗体:Nivolumab(オプジーボ)、Pembrolizumab(キイトルーダ)
抗CTLA-4抗体:Ipilimumab(ヤーボイ)
T細胞という、自身の免疫細胞を活性化させてがんと戦います。
奏効すれば長く効果が持続する一方で免疫関連有害事象(irAEs)が起きる可能性があります。
分子標的治療薬 BRAF/MEK阻害薬
BRAF阻害薬
Dabrafenib (タフィンラー)+MEK阻害薬Trametinib(メキニスト)
Encorafenib(ビラフトビ)+Binimetinib(メクトビ)
悪性黒色腫全体の30〜40%ほどがBRAF遺伝子変異陽性であり、陽性の場合に使用できます。
一度は奏効することが期待されますが、一方で耐性が出現する可能性があります。
当科では、これまで多くの治療実績から、薬物療法による予期せぬ有害事象が起きた場合もすみやかに対応できる体制を整えております。
また、症例毎に手術療法、薬物療法、放射線療法を組み合わせる「集学的治療」を行なっております。
最新の治療「遺伝子パネル検査」
近年では従来の治療法が効かない患者さんに対して、「遺伝子パネル検査」という治療標的となりうる遺伝子変異がないかどうか、手術や生検標本を用いて調べる検査が保険適応となっております。 標準治療で効果が得られなかった場合に実施をご提案することがあります。 患者さん一人一人にとって最適な治療を選択できるよう、日々診療にあたっております。