当科のご紹介
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気管・気管支、肺、及び胸膜に関わる全ての呼吸器疾患の診断と治療を担当しています。
月~金の呼吸器内科専門外来で専門医による診療を行っています。 - 肺がん診療においては、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線治療科、病理診断科との連携が重要であり、当院でも緊密な連携を行い、最善の治療を目指しています。
- 閉塞性肺疾患診療としては、重症喘息においては生物学的製剤の導入、慢性閉塞性肺疾患(COPD)においては薬物療法を中心として禁煙指導、呼吸リハビリテーションなどを加えた包括的な管理を行っています。
- 間質性肺炎診療としては、特にmulti-disciplinary discussion(MDD)による確定診断および積極的な早期の抗線維化薬の導入に力を入れております。
- 当院には県内でも数少ない結核病床があるため、他の結核専門病院で治療困難な合併症を伴った難治例を中心に他科と連携して治療を行っています。
患者さんへ
当診療科は、原則紹介状が必要です。
当院は、特定機能病院、がん診療連携拠点病院の認定を受けており、当科では呼吸器内科専門医による高度な医療、安心安全の医療の提供に努めています。
また、当院は大学病院でありながら結核病床を有しており、人工透析を必要とする慢性腎不全や悪性疾患を有する症例等、治療困難な肺結核症例に対する入院診療が可能です。
主な対応疾患と診療内容
肺癌は肺に発生する悪性腫瘍であり、大きく非小細胞肺癌と小細胞肺癌に分類されます。非小細胞肺癌はさらに肺腺癌、肺扁平上皮癌、肺大細胞癌などに細分化されます。現代医療の進歩にもかかわらず、肺癌は依然として治療が難しいがんであり、本邦のがん関連死亡数において最多を記録しています(2023年、厚生労働省人口動態統計)。
肺癌治療は過去20年間で驚異的な進歩を遂げており、特に分子標的治療薬の飛躍的進歩が見られます。当院ではEGFR変異、ALK転座、ROS1転座、BRAF変異、NTRK融合遺伝子、MET変異など、様々な遺伝子変異に対応する分子標的薬を豊富に取り揃えており、HER2変異肺癌に対する新たな標的治療薬も積極的に導入しています。免疫療法のひとつである、免疫チェックポイント阻害薬の適応も拡大しており、進行期・転移性肺癌だけでなく、術前・術後補助療法としての使用経験も豊富です。PD-L1発現率に基づいた適切な治療選択と効果予測を行い、免疫療法と化学療法、分子標的治療薬との最適な併用療法を提供しています。診断・治療にあたっては、当科、呼吸器外科、放射線治療科、病理診断科、放射線診断科、がんゲノム診断科との緊密な連携体制を構築しており、各分野の専門医が一堂に会するキャンサーボードも定期的に開催されています。この多職種連携により、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた最適な集学的治療を提供しています。地域がん診療連携拠点病院として、国内外の最先端の臨床試験や治験に積極的に参加しています。このため、標準治療が終了した後も、新たな治療選択肢を提供できる可能性があり、世界最先端の治療法へのアクセスが可能です。
また、肺カルチノイドに対する分子標的治療や、胸腺腫・胸腺癌に対する集学的治療においても豊富な経験を有しています。悪性胸膜中皮腫や胚細胞腫瘍などの希少な胸部悪性腫瘍に対しても、専門的な知識と経験に基づいた最適な治療を提供しています。
がんゲノム医療拠点病院である当院では、がんゲノム診断科と協力し、がんゲノムプロファイリング検査を通じて患者さんの腫瘍に存在する遺伝子変異を詳細に分析し、各分野の専門家で構成されるエキスパートパネル(専門家会議)で詳細に検討することで、その結果に基づいた個別化治療の可能性を追求しています。これにより、標準治療がない、または標準治療が終了した場合でも、新たな治療の選択肢を見出せる可能性があります。

外来通院患者さんの中で最も多い疾患です。気管支喘息は日本人の約8%、約1000万人の患者さんがおり、COPDにおいても40歳以上の成人の8.6%、530万人以上の患者さんがいると推測されています。気管支喘息、COPDについては、それぞれ日本アレルギー学会、日本呼吸器学会の診療ガイドラインがそれぞれ2021年、2022年に改訂され、ともに部長の金子が作成に携わっており、当科ではこれらの診療ガイドラインに基づく治療を行っております。また、金子は、その他にも、気管支喘息とCOPDが合併したACOのガイドライン、難治性喘息診断と治療の手引き、喘息診療実践ガイドライン、咳嗽・喀痰の診療ガイドライン(喀痰セクション責任者)の作成にも携わっております。特に咳嗽・喀痰の診療ガイドラインは、世界初の喀痰のガイドラインとなっています。
気管支喘息の重症例に対しては、抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-5受容体抗体、抗IL-4/IL-13受容体抗体、抗TSLP抗体を用いた治療法も導入しております。なお、これら生物学的製剤の適正使用を目指すべく2025年4月に「難治性アレルギー疾患(喘息)センター(仮名称)」を、当院耳鼻咽喉科、皮膚科との連携のもと開設することになりました。COPDに対しては、薬物療法を中心として禁煙指導、呼吸リハビリテーションなどを加えた包括的な管理を行っています。慢性呼吸不全をきたした症例に対しては、在宅酸素療法や非侵襲的呼吸療法(NPPV)を取り入れた在宅呼吸管理を導入しております。在宅ケアが今後ますます重要となる中で、私たちは患者さんのニーズにあった在宅酸素濃縮器を開発し、実際に患者さんにご使用いただいております
左:バイオ製剤使用前、右:バイオ製剤使用後)

特発性肺線維症(IPF)をはじめとする特発性間質性肺炎、膠原病関連および薬剤性間質性肺炎、肺サルコイドーシス等、びまん性肺疾患の病態は多彩であり、高分解能CTによる画像診断および経気管支肺生検(クライオバイオプシー新規導入)や胸腔鏡下肺生検を用いた病理診断のもと、multi-disciplinary discussion(MDD)による確定診断および積極的治療介入を行っています。IPFをはじめとした進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PPF)に対しては抗線維化薬の使用も増えてきていますし、間質性肺疾患に伴う肺高血圧症に対するトレプロスチニル吸入療法(2024年9月承認)の導入も可能です。間質性肺炎急性増悪の入院症例数も多く、集中治療部と連携して診療にあたっています。

当科では、肺炎・気道感染症の治療において、重症度に応じた適切な治療方針を迅速に決定し、外来治療から入院治療まで幅広く対応しています。当科所属の感染症専門医を中心に抗菌化学療法においては科学的根拠に基づく標準治療を提供するとともに、重症例では集中治療室での人工呼吸管理を含めた集学的治療を実施しています。当院では最新の診断技術として、multiplex PCR法を導入しており、従来の検査方法では検出困難であった様々な呼吸器ウイルスを迅速かつ同時に検出することが可能になりました。この技術により、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなど複数のウイルスを一度の検査で同定でき、診断精度が飛躍的に向上しています。検査結果は短時間で得られるため、より早期からの適切な治療選択が可能となり、不要な抗菌薬使用の削減にも貢献しています。
感染症診療においては当院の感染制御部門(ICT)と緊密に連携し、院内感染対策の強化と抗菌薬適正使用の推進に取り組んでいます。
当院には県内でも数少ない結核病床を有しており、他の結核専門病院では治療困難な合併症を伴った難治例を中心に、他科と連携した総合的な治療を提供しています。結核治療においては、抗結核薬の耐性遺伝子を迅速に検出する体制を整えており、従来の薬剤感受性試験では数週間かかっていた耐性判定が数日で可能となりました。これにより、より早期から適切な薬剤選択が可能となり、治療効果の向上と副作用の軽減を実現しています。また、非結核性抗酸菌症など長期的な治療が必要な慢性呼吸器感染症に対しても、患者さんの全身状態や年齢に応じた最適な治療計画を立案し、継続的な管理を行っています。
主な検査・設備機器
胸部画像検査(CXR、CT、MRI、PET-CT)、気管支鏡検査(経気管支肺生検(2022年度よりクライオ肺生検を導入))、気管支肺胞洗浄、EBUS-TBNA、EBUS-GS、気管支サーモプラスティ)、局所麻酔下胸腔鏡検査、呼吸機能検査、細菌検査などを駆使しています。さらに、気管支喘息における呼気一酸化窒素検査、睡眠時無呼吸症候群診断のための終夜ポリソムノグラフィー等の特殊検査も行っています。
PET-CTは、肺癌等の進行度を評価する上で重要かつ必須の検査項目です。当院ではPET-CTを自施設で実施可能であり、肺癌等の迅速な進行度評価、治療導入が可能です。
気管支の内腔を詳細に評価可能であり、重症閉塞性肺疾患における気流閉塞や窒息のリスク評価、バイオ製剤等の治療の必要性を視覚的に確認が可能です。
当院では、間質性肺疾患の診断の正確性を高めるために、通称“クライオバイオプシー”と呼ばれる、二酸化炭素ガスを利用して凍らせた棒状の生検器具で肺組織を凍結させ、比較的大きな検体を採取できる生検技法を今年度より新規導入しました。今後、クライオバイオプシーの件数が増えることが予想されており、間質性肺疾患の早期診断と治療導入が可能となり、その診療レベルが飛躍的に向上することが期待されます。

施設認定
- 日本内科学会認定教育施設
- 日本呼吸器学会認定施設
- 日本アレルギー学会認定アレルギー専門医教育研修施設
- 日本呼吸器内視鏡学会認定施設
- 日本感染症学会認定研修施設
- 日本臨床腫瘍学会認定研修施設