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大場 優生さん(生命ナノシステム科学研究科 物質システム科学専攻)日本物理学会 2017年次大会・秋季(春季)大会 「領域1・第6回学生プレゼンテーション賞」受賞

大学院生命ナノシステム科学研究科 物質システム科学専攻 博士後期課程の大場優生さんが、日本物理学会 2017年次大会・秋季(春季)大会にて「領域1・第6回学生プレゼンテーション賞」を受賞しました。今回の受賞について大場さんにお話を伺いました。

–今回の大会では、どのような内容を発表されたのでしょうか

今回の物理学会では、「経路積分分子動力学法を用いたミューオニウム化合物の理論解析」というテーマで発表を行いました。理論解析、という言葉から推測できるように、私はコンピュータを用いたシミュレーションによる解析が専門です。発表内容を簡単に紹介する為に、タイトルにでてくる「経路積分」「分子動力学」「ミューオニウム」という(多くの方が聞き馴染みのないであろう)単語を簡単に説明させていただきます。

■「経路積分」
(分子を構成する)原子をビーズで繋げたネックレスのように表現し、厳密なシミュレーションを可能にした最先端の方法です。詳しくは量子物理化学研究室のWebサイトに載っていますので、興味が湧いたら覗いてみてください。ちなみに一般的には数学の経路積分法のことを指します。我々はそれを化学に応用させています。

■「分子動力学」
コンピュータの中で、分子を熱浴(=熱の入った浴槽…つまりお風呂)の中で揺らがせてどんな動き・反応をするのか追跡できる方法です。

■「ミューオニウム」
ミューオンという興味深い素粒子からなる原子です。ミューオンは今も宇宙からたくさん降り注いでいます。その透過力を使って、ピラミッドや原子力発電所の中を覗くことができ、最近NHKスペシャルでも取り上げられました。[1] ミューオニウムは軽いので、磁場の影響も受けやすく、分子のつくる磁場を敏感に捉えられます。そのため、分子の構造を精密に追うことができます。これまで数多くの実験が行われてきましたが、その取り扱いの難しさから、実験の解釈やシミュレーションによる検証は、まだまだ確立していません。いわばミューオンの世界は、まだ開ける方法が分からない宝箱の詰まった宝船なのです。

このように、私のテーマ「経路積分分子動力学法を用いたミューオニウム化合物の理論解析」とは、「取り扱いの難しいミューオニウムをネックレスのように表現して、お風呂のなかに放り込むことでシミュレーション」することです。
 経路積分分子動力学法をミューオニウム化合物に適用することで、私は十数年謎に包まれていたある分子の磁気構造発現のメカニズムを明らかにしてきました。今回は特に、化合物の分子に含まれる酸素原子と硫黄原子の違いが、ミューオニウム化合物の磁気構造に与える影響を解析した結果を発表しました。これまでの業績はいくつかの国際雑誌に論文として投稿しておりますので、興味があればお読みください。[2-6] ミューオニウムに関する総論も執筆しています。[7]

[1] NHKスペシャル 古代遺跡透視「プロローグ 大ピラミッド 永遠の謎に挑む」

[2] Y. Oba , T. Kawatsu, M. Tachikawa, J. Chem. Phys ., 145 , 064301 (2016).”A path integral molecular dynamics study of the hyperfine coupling constants of the muoniated and hydrogenated acetone radicals ”

[3] Y. Oba, T. Kawatsu, M. Tachikawa, AIP Conf. Proc., 1790, 020022 (2016).”Thermal dependence on structures of muoniated and hydrogenated acetone radicals”

[4] Y. Oba, M. Tachikawa, Int. J. Quant. Chem., 114, 1146-1149 (2014).Theoretical investigation of a positron binding to an aspartame molecule using the ab initio multicomponent molecular orbital approach

[5] C. Ngaojampa, T. Kawatsu, Y. Oba, N. Kungwan, and M. Tachikawa, Theor. Chem. Acc., 136, 30 (2017)."Asymmetric hydrogen bonding in formic acid–nitric acid dimer observed by quantum molecular dynamics simulations"

[6]N. Kungwan, C. Ngaojampa, Y. Ogata, T. Kawatsu, Y. Oba, Y. Kawashima, and M. Tachikawa, J. Phys. Chem. A, 121, 7324 (2017). "Solvent Dependence of Double Proton Transfer in the Formic Acid–Formamidine Complex: Path Integral Molecular Dynamics Investigation"

[7] 飯沼裕美, 大場優生,河村成肇,高妻孝光,菅原洋子,高柳敏幸, 立川仁典, J. Comput. Chem. Jpn., vol. 16, A12-A17 (2017).SCCJ Café – Season 5 – 生命現象の分子科学(4)「新しい量子ビーム・ミュオン分光と理論的アプローチ」

大場 優生さん
–発表の際に意識された点について教えてください

学会発表では、聞き手と「共有し、議論する」ことが大事です。「話す」ことが主目的ではありません。また同時に相手が既に知っていることを話しても、貴重な発表時間を無駄にしてしまいます。したがって私が思う発表のポイントは、「聞き手の知識範囲を予測し、無駄な説明を限りなく省きつつ、研究の面白い部分を共有し、行き詰まっている部分は素直にさらけ出して議論する」ことです。例えば物理学会は、物理の中でもさらに研究分野(領域)が細分化されています。そこで私は今回、一般的な学会で話す序論部分を大幅にカットし、より専門的な議論を持ち出しながら発表を行いました。そのため質疑の時間を有意義に使うことができ、研究の議論がかなり深まったことが非常に嬉しかったです。議論の勢いが大きくなって熱くなる会場の空気は、研究のモチベーションも高めてくれます。

–受賞の感想や今後の抱負について教えてください

物理学会という、物理分野で最も有名で歴史ある学会で賞をいただけて光栄です。この賞をモチベーションに、これからもがんばります。研究の抱負は、「研究の中で生まれる好奇心をこれからも大事に、研究生活を楽しむ!」です。

研究室のみなさんと
–YCUを目指す、受験生・高校生に向けてメッセージをお願いします。

YCUの魅力は「狭い」ことです。
大学が狭いというと一見良くないイメージを持ちがちですが、実はそうでもありません。医学、看護学、経済学、会計学、経営学、化学、物理学、生物学、数学…この大学には様々な学問を学ぶ学生が集います。狭いことで幅広い分野に友人を作ることができます。これは他の大多数の大学ではありえません。専門分野をマスターした友人をたくさん持つことは今後の人生にも多大な影響がありますし、自身の知見を広げるにももってこいです。私の場合、最近は遺伝学や経済学、法学などを趣味に勉強していたりします。多面的な考え方も身に付きます。さらに先生と学生の距離も近く、生徒ひとりに対する先生の人数が一般大学に比べ圧倒的に多いです。
こう聞くと、「狭い」って悪くないと思いませんか?WORLD’S BEST SMALL UNIVERSITIES 2016で日本の大学で第2位になるなど、世界的にも評価されているみたいです。ちなみに校舎が狭いので大学内移動が楽で、講義に遅刻しにくいところも良いですね(笑)

指導教員 立川仁典教授からのコメント

大場君が学部2年次より研究指導をしていますが、いつも「研究を楽しんでいる」大場君の姿が印象的です。学部4年次のサイエンス・インカレにて講演賞を受賞した時もミューオンに関する研究テーマでしたが、この2年間で予想以上に研究が進捗し、その成果で今回の物理学会学生賞受賞に輝いたものと思います。また大場君は、「さくらサイエンスプラン」で、当研究室にチェンマイ大学(タイ王国)の大学院生が多数訪問した際にも、積極的に研究補助をしてくれただけでなく、エクスカーションも大いに盛り上げ、国際交流にも多大に貢献してくれています。今後もより一層、研究に邁進し、新たな発見を通してサイエンスを楽しんで下さいね!

(2017/11/17)

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