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連携NEWS「心臓弁膜症」

2022年4月22日公開

診断

心臓弁膜症の原因には先天性と後天性があります。かつてはリウマチ熱の後遺症として心臓弁膜症になることが多かったのですが、近年ではリウマチ熱を原因とする心臓弁膜症は減少しており、加齢に伴う弁の変性や石灰化による心臓弁膜症が高齢化の進行とともに増えています。
心臓弁膜症の有病率は年齢とともに上がる傾向にあります。日本では65~74歳で約150万人、75歳以上で約245万人の潜在患者がいると推測されます。

心臓弁膜症の有病率のグラフ心臓弁膜症の有病率のグラフ
1: Nkomo VT, et al. Burden of valvular heart diseases: a population-based study. Lancet. 2006;368:1005-11.
2: 総務省統計局. 人口推計の結果の概要 令和2年4月報(令和元年11月確定値). Available from: https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202004.pdf(アクセス日:2020年4月28日)

心臓弁膜症は心不全の原因の一つと言われています。心臓の病気を早期に発見し、重症化する前に適切なタイミングで治療することが心不全の予防や増悪の防止において大切です。

心臓弁膜症の診断は問診、聴診、心臓超音波検査で行われます。問診では「胸の痛み」「息切れ」「動悸」「気を失う」などの自覚症状や日常生活でどれくらい不自由に感じているかを確認します。安静時の症状だけではなく、動いた時の息切れも症状の一つです。多くの方がこれを「年だから」と思いこむことがあり、病気を見落とすことがあるため積極的に問診する必要があります。また、日常生活の活動性が低下すると、以前は感じる症状も自覚できないことがあります。

また、無症状でも健康診断等で心雑音を指摘されることを契機に心臓弁膜症が発覚する場合もあります。65歳を過ぎたら聴診も含め定期的な心臓の検査をすることが望ましいです。
心臓弁膜症は無症状だとしても心臓超音波検査を用いて定期的なフォローアップが推奨されています。心臓弁膜症は進行性の病気であるため、定期的なフォローアップを行い、適切な介入治療のタイミングを見逃さないことが大切です。

無症候性弁膜症患者に対する心エコー図検査のフォローアップの頻度の目安無症候性弁膜症患者に対する心エコー図検査のフォローアップの頻度の目安
日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン, 2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン

治療

心臓弁膜症は通常は自然治癒することはありません。患者さんの状態によって3つの選択肢から治療方法が選択されます。一般的に薬で症状を緩和し進行を抑制する保存的治療がなされますが、重症に進行した場合、弁膜症チームによって開胸手術で弁の修復や交換を行う外科的治療、またはカテーテルを用いて生体弁を留置したり、自己弁を修復するカテーテル治療が選択されます。

経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)

重症の大動脈弁狭窄症に対する治療法です。カテーテルを用いて人工弁を留置します。多くの場合は大腿動脈からカテーテルを挿入しますが、大腿動脈が適さない場合に心尖部や上行大動脈、鎖骨下動脈からカテーテルを挿入して行うこともあります。

  • カテーテルの図
  • カテーテル挿入の図

経皮的僧帽弁接合不全修復術

重症の僧帽弁閉鎖不全症に対する治療法です。カテーテルを使って僧帽弁の弁尖をクリップで把持することによって治療します。

  • カテーテルの図
  • カテーテルを使って僧帽弁の弁尖をクリップで把持する図

注意点・フォローの仕方

心臓弁膜症は進行性の病気であるため、無症状だとしても心臓超音波検査を用いて定期的なフォローアップを行い介入治療のタイミングを見逃さないことが大切です。「胸の痛み」「息切れ」「動悸」「気を失う」などの自覚症状がたとえ軽微なものであっても早めにご紹介ください。

患者さんを紹介する際の必要な情報や基準について

心臓弁膜症は早期発見が大切です。そのためには日常診療での聴診が重要です。「胸の痛み」「息切れ」「動悸」「気を失う」などの自覚症状があればもちろんですが、何らかの心雑音を認めた際には気兼ねなくご紹介ください。無症状でもBNPやNT-pro BNP高値の場合や下腿浮腫を認めた際には心不全を呈していることがありますのでご相談ください。

逆紹介後のフォローアップで気を付けて欲しいこと

心臓弁膜症術後は当院で心臓超音波検査等を用いて定期的にフォローアップさせていただきます。かかりつけ医の先生方には薬物加療をお願いすることになりますが、術後は抗血小板療法や抗凝固療法が必要となりますので、継続していただくようお願いいたします。また、息切れや胸の痛み等の自覚症状が再度見られましたら紹介をお願いいたします。

診療科からのメッセージ

高齢化社会に伴い、心臓弁膜症は増加しており、心不全増加の原因となっています。近年心臓弁膜症治療は飛躍的な進歩を遂げており、開胸手術が受けられない、もしくはリスクが高いような方でも低侵襲治療を受けていただくことが可能になってきています。また心臓弁膜症は早期に発見し介入治療を行うことで予後も改善することが報告されています。
当院では心臓弁膜症症例をカテーテル治療医、心臓血管外科医、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、放射線技師、理学療法士等の多職種が集まって構成されたハートチームで術前から術後にかけて診させていただきます。
何か気になることがありましたら、いつでもご連絡ください。

心臓血管センター(循環器内科)日比 潔 担当部長と心臓血管センター(循環器内科)南本 祐吾 医師の写真心臓血管センター(循環器内科)日比 潔 担当部長と心臓血管センター(循環器内科)南本 祐吾 医師の写真

心臓血管センター(循環器内科)日比 潔 担当部長 /写真左

2002年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター 助手
2008年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター 准教授
2022年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター 担当部長

心臓血管センター(循環器内科)南本 祐吾 医師 /写真右

2009年 済生会横浜市南部病院 循環器科
2011年 秦野赤十字病院 循環器内科
2013年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター 指導診療医
2019年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター 助教

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