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遺伝性腎腫瘍外来

遺伝性腎腫瘍について

腎臓にできる腫瘍の5-8%には、遺伝的な背景があって発生すると言われています。特定の遺伝子に病気の原因となる配列変化を生まれ持っている場合、通常よりも腫瘍が発生する確率が高くなるためです。このような腎腫瘍を遺伝性腎腫瘍といいます。この場合、1人の患者さんに同時に複数の腎腫瘍ができたり、腫瘍を一度根治できても、腫瘍が腎臓に繰り返しできたりすることがしばしばあります。
また、腎臓以外の部位での疾患(全身徴候)が先に見つかることも多いです。遺伝性腎腫瘍症候群には多くの種類があり、それぞれ原因遺伝子が明らかにされています。
症候群 遺伝子 腎癌頻度 腎癌組織型 全身徴候
フォン・ヒッペル・リンドウ (VHL)病 VHL 25-50 % 淡明細胞型 中枢神経系の血管芽腫、網膜血管腫、副腎褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍、精巣上体腫瘍、内耳リンパ嚢腫、子宮広間膜嚢腫
バート・ホッグ・デュベ (BHD)症候群 FLCN 19% ハイブリッド腫瘍、嫌色素性、オンコサイトーマ 気胸、肺嚢胞、線維性毛包腫、唾液腺腫瘍
遺伝性平滑筋腫腎細胞癌症候群(HLRCC) FH 15-32% 乳頭状、管状嚢胞型 皮膚および子宮の平滑筋腫
遺伝性乳頭状腎細胞癌(HPRC) MET 不明 乳頭状 なし
遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫症候群(PPGL) SDHB/C/D 10%以下 淡明細胞型、分類不能型 パラガングリオーマ、褐色細胞腫、消化管間質腫瘍(GIST)
BAP1腫瘍易罹患性症候群 BAP1 9-13% 淡明細胞型 悪性中皮腫、ブドウ膜および皮膚の悪性黒色腫、基底細胞癌
PRDM10関連腎癌 PRDM10 不明 乳頭状、オンコシティック腎癌 線維性毛包腫、脂肪腫、肺嚢胞
PBRM1関連腎癌 PBRM1 不明 不明 不明
MITF関連腎癌症候群 MITF 恐らく10%以下 恐らく淡明細胞乳頭状 悪性黒色腫、膵癌、褐色細胞腫
カウデン症候群 PTEN 10-15% 淡明細胞型、乳頭状、嫌色素性 消化管過誤腫性ポリープ、顔面および四肢の丘疹、巨大頭蓋症、乳癌、甲状腺癌、子宮内膜癌
遺伝性染色体3番転座型腎癌 - 30% 淡明細胞型 なし
結節性硬化症(TSC) TSC1/2 5%以下 AML、淡明細胞型、乳頭状、嫌色素性 上衣下巨細胞性星細胞腫、顔面血管線維腫、てんかん、精神発達遅滞
CHEK2関連腎癌症候群 CHEK2 10%以下 様々な組織型 乳癌、前立腺癌、大腸癌
副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群 CDC73 恐らく10%以下 ウィルムス腫瘍、淡明細胞型、乳頭状 副甲状腺機能亢進症、副甲状腺癌、顎腫瘍、子宮ポリープ、子宮癌

蓮見壽史ら. 『遺伝子医学』別冊 遺伝性腫瘍の基礎知識. 2022年.より一部改変
遺伝性腎腫瘍が診断されるきっかけとしては
  1. 腎腫瘍が複数できているなど一般的な腎腫瘍としては非典型的である
  2. 遺伝性腎腫瘍に特徴的な腎腫瘍以外の疾患を有している(全身徴候と言います)
  3. 血のつながったご家族に腎腫瘍またはその他の全身徴候が見られる
  4. 若年で腎腫瘍を発症した
  5. がんゲノム検査*で遺伝子の配列変化を指摘された
などで、上記が一つでもあれば遺伝性腎腫瘍を疑う必要があります。
 
*がんゲノム検査とは、手術や生検などで得られた腫瘍検体から、がんの発生に関与する多数の遺伝子の情報を網羅的に検査する手法で、主にゲノム情報に基づいて奏効が得られそうな薬剤を探索することを目標になされますが、この検査で遺伝性腫瘍症候群に関連する遺伝子の配列変化が偶然みつかることがあります。

遺伝性腎腫瘍が疑われた場合、いまある腫瘍を治療すれば終わりではありません。
  1. 遺伝子検査を行い、遺伝性(原因となる遺伝子の配列変化)を確認すること(はっきりさせることで、その後の検診への積極性が変わり、予後が異なるとも言われています。また血のつながった方の健康管理にも役立ちます)
  2. 新たな腫瘍発症リスクを踏まえ、定期的な検診やリスク低減策を講じること
  3. 全身徴候(遺伝性腎腫瘍に特徴的な腎腫瘍以外の疾患)についても同様に定期的な検診やリスク低減策を講じること
  4. 血のつながったご家族に、ご希望に応じて遺伝子検査や検診の場を提供すること
  5. それらの意思決定のために遺伝カウンセリングを受けること
などが必要となります。
遺伝性腎腫瘍は、①一般的な腎腫瘍とは経過観察法や治療法が異なるため一般病院では対応が難しく、②早めに疑って遺伝子検査ではっきりさせて適切な検診を行なえば腎腫瘍を早期発見できるため、遺伝性腎腫瘍の知識や診療経験が豊富な施設に通院していただくことが非常に重要です。当院では腎腫瘍がまだできていない方の健康相談や全身の検診も行っております。
遺伝というと特別なことと思われがちですが、今ではほとんどの病気に遺伝が関係することが分かっております。
もしあらかじめ遺伝性腎腫瘍であることが分かっていれば、健康管理に活かすことができ、積極的に遺伝性腎腫瘍についての最新情報を取り入れていただくことで、生活の質を大きく向上させることが可能です。
 
当院は30年以上前から遺伝性腎腫瘍の診療を開始し、全国から遺伝性腎腫瘍の患者さんが最新の治療法や情報を求めて来院されています。遠距離で通院が困難な患者さんも、それぞれの地域の先生方と連携しながらフォローアップさせていただいております。遺伝性腎腫瘍の診療では、検診方法から新規治療薬/予防薬の治験まで、健康管理に重要なさまざまな情報が日々アップデートされます。遺伝性腎腫瘍はとても希少であるため、患者さんが特定の医療機関に集まることが疾患特性の解明や新しい治療法と健康管理法の開発に繋がります。
アメリカでは世界最大の医療研究機関である国立衛生研究所(NIH)がその役割を果たしており、全米中から遺伝性腎腫瘍の患者さんが集まっています。当科は多くの教室員が継続的にNIHに在籍して遺伝性腎腫瘍の治療成績の向上に尽力してきた歴史的経緯もあり、世界中の遺伝性腎腫瘍専門医と日々情報を交換しながら、我が国における遺伝性腎腫瘍の情報発信源として最新の治療法と健康管理法を全国の遺伝性腎腫瘍の患者さんやそのご家族にお届けしております。そのため遺伝性腎腫瘍であると分かった方は当院の様な遺伝性腎腫瘍の拠点病院と接点を保ち続けていただきたいです。
万一、腎腫瘍へ治療が必要となった場合でも、当科は国内随一の症例数を誇るロボット手術や腎凍結療法などの低侵襲治療法を駆使して腎機能を最大限温存しますし、様々な予防薬や治療薬の治験も数多く行っており、それぞれの遺伝性腎腫瘍に合わせた最適な経過観察法や治療法をご提供することが可能です。

また当院は、①既に遺伝性腎腫瘍であることが分かっている方はもちろん、②遺伝性腎腫瘍が疑われる方や、遺伝的背景がありそうでも③いずれの既知の遺伝性腎腫瘍症候群に当てはまらず診断に難渋している方のご相談も受け付けております。

以下は代表的な遺伝性腎腫瘍の解説です。これらに当てはまらない場合でもお気軽に当科までご相談ください。

フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病

VHLという遺伝子に生まれつき病気に関連する配列変化があることで、
  • 淡明細胞型腎細胞癌
  • 中枢神経の血管芽腫
  • 網膜血管腫
  • 副腎褐色細胞腫
  • 膵臓神経内分泌腫瘍
  • 精巣上体嚢胞腺腫
  • 内耳リンパ嚢腫
  • 子宮広間膜嚢腫
などを発症しやすくなる疾患です。これらのうち、腎細胞癌が生命予後を左右することが多いです。常染色体顕性遺伝形式をとるので、診断された方のお子さんも50%の確率で同じ遺伝子の配列変化が見つかります。

当科前教授の矢尾正祐が1993年にこの原因遺伝子を発見して以降、遺伝性腎腫瘍の研究は世界中で大きな発展を遂げてきました。その知見は遺伝性でない腎腫瘍の研究にも大きな影響を与え、特にVHL-HIF経路の解明は2019年のノーベル賞受賞の対象となり、ここでも当科の教室員が研究の一翼を担いました。
VHL病に発生する腎細胞癌は同時多発したり、時間差で多発(再発とは違います)したりします。がんを制御すると同時に、腎臓の機能を可能な限り温存することを目指したマネージメントが必要となります。VHL病にできる腎癌は初期であれば1年間に平均で0.37cmほど増大することが分かっていて、2cmまでは経過観察を行います(2cmルール)。それを越えた場合は腫瘍核出術(腎臓を残して腫瘍のみを繰り抜く)をロボット手術で行います。
当院は30年もの長きに渡って全国からいらっしゃるVHL患者さんの腎癌手術を行っており、その手術件数は国内随一です。大きな腫瘍が腎全体にできていたり太い血管に近接していたりしてもロボット手術などで腫瘍だけをきれいに取り除くことが重要で、この方法により腎機能への影響も最小限に抑えることができ、術後は地域の先生方と連携しながら最適な方法でフォローすることが可能です。転移をきたした一部の症例に対しては、血管新生阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬、mTOR阻害薬などを用いて治療していくことになりますが、最適な薬剤についてはお気軽にお問合せください。VHL病では、VHL遺伝子がうまく働けなくなることでHIFというタンパクが蓄積して全身に血管性の腫瘍ができます。
最近開発された、経口HIF-2α阻害薬(belzutifan)が、VHL病に発生する様々な腫瘍に対して縮小や発生予防の効果があることが分かり、アメリカでは既に認可されています。当院ではVHL病の方を対象としたHIF-2α阻害薬の治験を日本で一番多く行っており、現在、登録は終了しておりますが、将来に向けてHIF-2α阻害薬内服のメリットとデメリットについてお聞きになられたい方はお気軽にお問合せください。
 
VHL病では、腎癌の他に中枢神経系、網膜、膵臓などに発生する腫瘍に対する治療が必要になることが多いです。当院は泌尿器科、遺伝子診療科、脳神経外科、眼科、腫瘍内科、消化器外科、耳鼻咽喉科、婦人科、小児科などの緊密な連携から全てのVHL関連腫瘍の診療に必要な体制を整えており、VHL病の患者会のホームページ(ほっとChain)の VHL病について相談できる病院・医師のリストに掲載されております。
また、既にお近くの医療機関におかかりの患者さんでも、疾患毎に複数の医療機関を定期受診して疾患毎の最新情報を入手することはとても重要です。全国のVHL病診療医が力を合わせて作成したVHL病診療ガイドラインはWeb上で閲覧可能で、各疾患に対する経過観察法や治療法が記載されています。記載内容についての詳しいご説明をご希望の方はお気軽にお問合せください。
  • 図1.嚢胞を伴った中枢神経系の血管芽腫

  • 図2.網膜血管腫

  • 図3.両腎の淡明細胞型腎細胞癌

  • 図4. 両側副腎の褐色細胞腫

  • 図5. 膵尾部の神経内分泌腫瘍

バート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群

FLCNという遺伝子に生まれつき病的バリアントがあることで、
  • 腎腫瘍
  • 肺嚢胞/気胸
  • 皮膚線維毛包腫
  • 唾液腺腫瘍(頻度は少ない)
  • 甲状腺腫瘍(頻度は少ない)
を発症します。
疾患自体は1970年代後半に発見されましたが、原因遺伝子FLCNが同定されたのは2002年と比較的最近です。私達は2006年と2008年にFLCN結合蛋白質であるFNIP1とFNIP2を相次いで同定し、2015年にFLCN、FNIP1、FNIP2が3遺伝子で腎のがん化を抑制していることを発見すると同時に、FLCNがミトコンドリア代謝やmTOR経路の制御に関わることを明らかにし、このことはBHD腎腫瘍に対してmTOR阻害剤を用いることへの理論的根拠となっております。
当院は2008年以降、Birt-Hogg-Dubé 症候群情報ネット(BHDネット)などを通じて、全国から250家系以上の患者さんを受け入れており、低侵襲手術をご希望される患者さんや、手術が難しい患者さんの最後の砦となってきました。2022年と2023年には、最新の手法を用いてBHD腎腫瘍の自然史(1個の細胞からがんが生まれて私達の目の前に現れるまでの様子)やがん微小環境(がん細胞の周りにいる免疫細胞や血管細胞など、現在の腎癌治療薬が標的としている細胞の情報)など、診療に直結する知見を次々と明らかにし、現在、これらの最新の知見を活かしながらそれぞれの患者さんに最適な診療を行っています。
  • 両側の腎臓に同時に多発する腎腫瘍

  • 肺の内側と底部に多発する肺嚢胞。これが破裂すると気胸になります。

  • 皮膚の繊維毛包腫。小さな丘疹が顔~首~体幹に多発します。

BHD症候群は常染色体顕性遺伝形式をとるので、診断された方のお子さんも50%の確率で同じ遺伝子の配列変化が見つかります。90%の患者さんが肺の嚢胞(空気が充満した袋状の組織)を有しており、それが破裂すると気胸といって肺に穴があいた状態となり、呼吸困難をきたします。70%以上の患者さんが気胸を経験しています。気胸を繰り返しているという既往歴から、本疾患の診断につながることも多いです。腎腫瘍は同時多発したり、時間差で多発したりします。本疾患では多様なタイプの腎腫瘍を発症するのが特徴です。多くはハイブリッド腫瘍(hybrid oncocytic tumor)という比較的ゆっくり発育する腫瘍ですが、淡明細胞型腎細胞癌、乳頭状腎細胞癌といったタイプの腫瘍を発症することもあり、その場合は転移して進行がんとなるリスクが高いです。

BHD関連腎腫瘍は初期であれば1年間に平均で0.1cmずつ増大することが分かっており、VHL病と同じく2cmとなるまで経過観察を行い、2cmとなった時点でロボット手術などの低侵襲手術を行います。腫瘍と正常腎の境界がわかりづらい、腎臓に埋没している腫瘍が多い、超音波で病変をやや検出しづらいといった点で手術の難易度は高くなります。当院は15年もの長きに渡って全国からいらっしゃるBHD患者さんの手術を行ってきたためBHD関連腎腫瘍の手術件数は国内随一であり、術後も各地域の先生方と連携しながら最適な方法でフォローアップをさせていただいております。転移をきたした一部の症例に対しては、VHL病でも述べた各種薬剤を用いて治療していくことになりますが、最適な薬剤についてはお気軽にお問合せください。

遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌症候群(HLRCC)

FHという遺伝子に生まれつき病的バリアントがあります。
  • 乳頭状腎細胞癌
  • 皮膚平滑筋腫
  • 子宮平滑筋腫
を来しやすいです。ここ数年で認知度が高まり、徐々に報告が増えてきていますが、まだまだ相当数の罹患者が潜在していると考えています。
子宮平滑筋腫は一般集団においても頻度の高い疾患であり、腎腫瘍と合併したからといっても必ずしもHLRCCとは言えません。ただ、HLRCCのそれは通常と比べ若年発症で症状が重い傾向があります。HLRCCでは3~18%に単発あるいは両側多発性の腎細胞癌がみられます。これは悪性度が高く、小径のうちからリンパ節転移を伴うことがあります。
  • 右腎に生じたHLRCC関連腎細胞癌(赤矢印)

  • 子宮平滑筋腫(赤矢印)、腎細胞癌の骨転移(黄矢印)

治療戦略はVHL病やBHD症候群とは異なり、事前にHLRCCであるとわかっている場合は開腹腎摘除術を行います。がん細胞が散らばると局所再発をきたしやすいので、特別な対策をとりながら手術を行います。進行例に対しては免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を使用します。
当院は豊富なHLRCCの治療経験がありますので、HLRCCと診断されたもしくは可能性があると言われた方は、是非一度当院にご相談にいらっしゃることをお勧め致します。

遺伝性乳頭状腎細胞癌(HPRC)

METという遺伝子に生まれつき病的バリアントがあり、両側の腎臓に乳頭状腎細胞癌を多発する疾患です。本邦においては現時点では稀少な疾患ですが、少しずつ見つかっています。
腎細胞癌を発症する年齢や浸透率(その遺伝的背景のある人が病気を発症する率)は家系ごとに大きく異なります。この疾患の腎細胞癌は初期であれば1年間に平均で0.15cm増大します。治療戦略はVHL病やBHD症候群と同様で、2cmルールが適用されます。
 
本疾患はとても希少であり、HPRCと診断されたもしくは可能性があると言われた方は、是非一度当院にご相談にいらっしゃることをお勧め致します。
多発するHPRC腎癌多発するHPRC腎癌

多発するHPRC腎癌(オレンジ矢印):最大の腫瘍の大きさが2cmに達するまで経過観察を行います。

遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオーマ症候群(PPGL)

SDHという遺伝子( 細かく分類するとSDHA, SDHB, SDHC, SDHD, SDHAF2 という遺伝子があります)に生まれつき病的バリアントがあります。
  • SDH欠損腎細胞癌
  • 副腎褐色細胞腫
  • パラガングリオーマ
  • 消化管間質腫瘍(GIST)
を好発します(発症の組み合わせはさまざまです)。
本疾患における腎細胞癌は悪性度が高く(小径のうちから転移しやすい)、HLRCCと同様の介入が必要で、腎部分切除の選択肢もありますが、その場合はがんが接している腎臓などの正常組織も含めて大き目に切除する必要があり、部分切除でがんを取り残してしまう危険性があると判断した際には腎臓の全摘出とリンパ節の郭清を行います。
本疾患はとても希少であり、PPGLと診断されたもしくは可能性があると言われた方は、是非一度当院にご相談にいらっしゃることをお勧め致します。
PPGL関連腎癌PPGL関連腎癌

PPGL関連腎癌(オレンジ矢印):手術の際には正常腎臓を含めて大きく切除する、もしくは腎臓の全摘出を行います。

BAP1腫瘍易罹患性症候群

BAP1という遺伝子に生まれつき病的バリアントがあることにより
  • 淡明細胞型腎細胞癌
  • 悪性中皮腫
  • ぶどう膜悪性黒色腫
  • 皮膚腫瘍(悪性黒色腫、基底細胞癌)
などを発症する疾患です。
本疾患で発症する腎細胞癌は初期であっても1年間に平均0.6cm増大するなど比較的発育スピードが高く、2cmルールを適用して経過観察することは可能ですが、厳重監視の上、早期の外科治療を考慮します。外科治療ではがんが接している腎臓などの正常組織も含めて大き目に切除する必要があり、部分切除でがんを取り残してしまう危険性があると判断した際には腎臓の全摘出を行います。がんができていない方は、30歳からスクリーニングを開始します。
本疾患はとても希少であり、BAP1腫瘍易罹患性症候群と診断されたもしくは可能性があると言われた方は、是非一度当院にご相談にいらっしゃることをお勧め致します。
BAP1関連腎癌BAP1関連腎癌

BAP1関連腎癌(オレンジ矢印):比較的成長速度が速いため、2cmルールで経過観察を行う時には、細心の注意が必要となります。

PRDM10関連腎癌

PRDM10という遺伝子に生まれつき病的バリアントがあることにより
  • 乳頭状腎癌、オンコシティック腎癌
  • 脂肪腫
  • 肺嚢胞
  • 線維性毛包腫
などを発症する疾患です。
PRDM10はFLCN遺伝子と似たような機能を持っているため、本疾患はBHD症候群にとても似ています。そのため、BHD症候群と同様に腎温存手術を選択できる可能性はありますが、一方で転移例の報告もあり、今後の報告を注意深く見守る必要があります。
本疾患はとても希少であり、PRDM10関連腎癌と診断されたもしくは可能性があると言われた方は、是非一度当院にご相談にいらっしゃることをお勧め致します。
PRDM10関連腎癌PRDM10関連腎癌

PRDM10関連腎癌(オレンジ矢印):BHD症候群に準じて原則として腎温存手術を考慮しますが、報告例が少ないため、個々の画像所見を基に治療法を判断する必要があります。

その他の遺伝性腎腫瘍症候群

  • MiTF関連遺伝性腎細胞癌
  • PBRM1関連遺伝性腎細胞癌
  • 遺伝性3番染色体転座腎細胞癌
  • CHEK2関連腎細胞癌症候群
  • Cowden症候群
といった遺伝性腎腫瘍についても受け入れています。
 
また、家族歴や発症の仕方から遺伝的素因が強く疑われるにもかかわらず、いずれの既知の遺伝性腎腫瘍症候群にも当てはまらず診断に難渋しているケースも受け入れています。

遺伝子検査と遺伝カウンセリングについて

アメリカ泌尿器科学会は、遺伝カウンセリングの対象症例として、
  1. 46歳以下の若年性腎癌
  2. 両側性または多発性腎癌
  3. 遺伝性腎癌症候群を示唆する特徴的な症状(他の部位を含む)を認める症例
を挙げています。
 
疑われる疾患に応じて特定の遺伝子の検査を提供します(保険適応がなく、自費となります:数万円)。
疑われる疾患だけでなく、がん発生に関与する多数の遺伝子を網羅して調べられる“遺伝性腫瘍に関する遺伝子パネル検査”が提案されることもあります(高額です:十数万円~)が、病態や患者さんの希望を加味して選択するべき検査だといえます。
 
遺伝カウンセリングでは、患者さんや血縁者の方の不安や疑問について、ゆっくりお話を伺いながら、正確な情報をお伝えし、その上で、自律的な意思決定ができる環境を提供しています。当院では遺伝子診療科にて行っています。一方で、遺伝カウンセリングを希望されない場合でも遺伝性腎腫瘍についての情報をご提供したり、検診を行ったりすることも可能ですので、お気軽にご相談ください。

ご紹介先

〒236-0004 横浜市金沢区福浦3-9 横浜市立大学附属病院 泌尿器科 遺伝性腎腫瘍外来

原則、月曜日と金曜日の午前中ですが、学会などで担当医師が不在にしていることがありますので、お電話でご確認の上、来院されてください(病院代表番号の045-787-2800から泌尿器科外来までお問合せください)。
まずは遺伝性腎腫瘍である可能性の有無について診察させていただきますので、お気軽にいらっしゃってください。

ご相談先

メールアドレス:iJingan★yokohama-cu.ac.jp(★マークを@に変更して下さい)(担当:入部、青盛、軸屋、川浦、野口、蓮見)

こちらでは、当院への来院を考えていらっしゃる患者さんや、遺伝性腎腫瘍であるかの判断が難しく当院へのご紹介を迷われている主治医の先生方からのご相談を受け付けております。
遺伝性腎腫瘍に関する情報だけをご希望の場合も、お気軽にご連絡ください。

患者さんご自身でご相談される場合は、①お名前、②お電話番号、③メールアドレス、④これまでの簡単な経過、をお教えください。数日経ってもこちらからの返信がない場合は、TEL: 045-787-2800(病院代表)から泌尿器科外来にご連絡ください。

スタッフ

槙山和秀 横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器学 主任教授

日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医・指導医
日本泌尿器内視鏡学会認定 腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会 技術認定医(泌尿器科領域)
泌尿器ロボット支援手術プロクター
がん治療認定医機構 がん治療認定医
医学博士

蓮見壽史 横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器科学 准教授

日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医・指導医
日本遺伝性腫瘍学会認定 遺伝性腫瘍専門医・指導医・評議員
日本泌尿器内視鏡学会認定 腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会 技術認定医(泌尿器科領域)
泌尿器ロボット支援手術プロクター
医学博士

野口剛 横浜市立大学附属病院 泌尿器科 医師

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医 指導医
日本泌尿器内視鏡学会認定 腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会 技術認定医(泌尿器科領域)
泌尿器ロボット支援手術プロクター

軸屋良介 横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器科学 助教

日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医
医学博士

入部康弘 横浜市立大学附属病院 泌尿器科 医師

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医

川浦沙知 横浜市立大学附属病院 泌尿器科 医師

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医

青盛恒太 横浜市立大学附属病院 泌尿器科 医師

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医

浜之上はるか 横浜市立大学附属病院 遺伝子診療科 講師

日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医・指導医
日本遺伝性腫瘍学会認定 遺伝性腫瘍専門医・評議員
日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会認定 臨床遺伝専門医・指導責任医・評議員
医学博士