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駐日大使を招いての講演会 2015

【開催報告】マッケンジー・クラグストン駐日カナダ大使講演会

横浜市立大学は、グローバルな視野を持って活躍する人材の育成を目的に、毎年、各国の大使など国際的に活躍する方々をお招きして、各国の動向や、日本との関わりなど、グローバルな視点から語っていただく講演会を英語で開催しています。今回は、マッケンジー・クラグストン駐日カナダ大使をお招きして、カナダの文化的な多様性、移民政策について講演いただきました。当日は、上村雄彦教授(グローバル協力コース長)がモデレーターを務め、65名の学生が集まりました。講演の中で、大使は、日本における少子化問題やグローバル人材育成の課題に対しても、カナダの多様性のモデルは、直接導入することは難しいものの、何らかの道標にはなるのではないか、とおっしゃいました。 
講演では、カナダの人口構成について、例えば、カナダ国民の約二割が第一世代の移民であることや、カナダ最大の都市であるトロントの約半分の市民が、カナダ生まれではないということが紹介されました。続いて、アメリカ合衆国が「人種のるつぼ」と表現されるのに対して、カナダは「モザイクの国」と表現され、多文化主義のもと、異なった価値観や文化が尊重されており、カナダ人とは、自分たちの祖先の誇りや、アイデンティティーを大切に保ちつつ、それでいて、本質的には自分がカナダ人であるということを忘れない国民である、とおっしゃいました。
大使は、カナダにおいて多様性がうまく機能している理由を3つ挙げました。1つ目は、多様性の考え方を支持する政策や法制度の導入です。2つ目は、移民が社会に融合できるサポート体制の存在、そして最後の理由として、オープンで何事にも寛容なカナダ人の気質をあげられました。
1つ目の理由について、歴史的には、1962年に国会で、人種差別を排除した新たな移民法制が議決され、続く1971年に、多文化主義を正式に採用した最初の国家となった歴史的背景があげられます。
2つ目の理由は、カナダに新しく来た人々が、すぐに社会に溶け込み、生活できるようになるための包括的なサポート体制が整備されていることです。大使は、移民が社会の一員になることが、カナダの繁栄にとって非常に大切である、と強調します。カナダでは、移民、難民双方に対して、公用語のトレーニングから雇用支援にいたるまで、様々な官民による支援プログラムが用意されています。そして、そういったプログラムは、比較的最近カナダの一員になった人々も含めたボランティアの参加に大きく支えられています。
最後に、カナダ人が移民に対してオープンであることについて、教育の部分の役割が大きいことについての説明がありました。カナダ人は学校で多様性の大切さを教わりますが、学校には様々な文化的背景の学生がいるため、極めて早い段階から、実際に多様性を体験することになります。学校では、移民の学生、およびその親をサポートするための専門のカウンセラーがいて、学校で何が起こっているかを把握し、いじめ等の防止に努めています。

講演の締めくくりとして大使は、カナダの多様性については、その考え方を支える多くの取り組みや仕組み作りがなされているからこそうまく機能している、と強調されました。移民に対してオープンに受け入れることのメリットの1つは、多様性がその国に革新性をもたらし、異文化への適応力を高めることにある。移民は、基本的に複数の言語を話すことができ、文化に対しての意識も高く、海外へのネットワークがあることを考えると、経済にとっても有益であり、そういったことが、カナダの国民が移民に対して肯定的な考えをもつ要因になっているのではないか、とおっしゃいました。

講演の後、学生からは、多様性と移民に関しての様々な質問が出されました。その中の一人より、日本とカナダの社会の仕組みは異なるが、カナダの多様性のモデルを取り入れることができるか、という質問がありました。大使は、日本の幾つかの現状を引き合いに出し、以下のようにおっしゃいました。日本は世界の中でも裕福な国の一つであるが、人口は減少している。このことは、心が痛むだけではなく、実際、高齢の世代を支えるために若い世代に大きな負担がかかることになる。解決策として移民や難民を受け入れる、ということになると、多様性について“Yes”といえる、非常に強いリーダーシップが必要になるでしょう。日本には、そう言った多様性を受け入れる力があると信じているし、今後は、人々のマインドセットの変革が重要になってくるのではないか。
今回の講演は、学生達にとって、多様性の国カナダの移民・難民政策の現状を学び、また自分たちの国の移民・難民のことを考える良い機会となりました。

駐日大使を招いての講演会