当院の取組み

がん診療 呼吸器病センター

診療科の特色

呼吸器病センターは、呼吸器内科と呼吸器外科が協力して診療を行うユニークな体制をとっています。内科と外科がひとつの呼吸器系専門外来・病棟を形成することにより、初診から診断、治療に至るまで極めて効率的で集学的な医療を提供しています。この体制により、肺がんでの初診から外科手術に至るまでの時間が約1ヶ月短縮されました。

さらに、放射線治療医・緩和ケア専従医・薬剤師との合同カンファレンスを行い、患者さんの病態に沿った最適な医療の提供に向けた医療連携を図っています。

呼吸器病センターは肺がんの“治癒”を目指し日々取り組んでいます。

がん種

肺がんについて

症状

肺がんの主な症状には、咳、痰、血痰(血の混じった痰)、発熱、呼吸困難(息切れ、息苦しさ)、体重減少などがあります。

診断

肺がんは胸部X線写真で異常な影が見つかることで発見されることが多いです。確定診断のためには、喀痰検査や気管支鏡検査、時には手術によって病巣から組織を採取し、顕微鏡を用いてがん細胞を確認します。

病期

肺がんは0期、Ⅰ期(ⅠA、ⅠB)、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB)、Ⅳ期の7段階に分類されます。

治療概要(治療実績)

治療は、原則として最新のガイドラインに基づいた標準治療を行います。肺がんに対する治療として治療効果が確かめられているものは、
 
  1. 外科治療(手術)
  2. 薬物療法(化学療法)
  3. 放射線治療
  4. 緩和医療

があります。患者さんの状態や病期に合わせて、これらを単独、もしくは組みあせて治療を行います。また近年、免疫応答に関連した⑤免疫療法が肺がんの新しい治療法に成りうるのではないかとして注目されています。

当院では複数の治療法について効果や副作用について説明して、患者さんご自身に治療法を選択していただきます。
 

外科治療(手術)

「手術により“がん”を取りきることが可能」と考えられる患者さんが適応となります。
標準的な手術は、病巣を含む肺葉切除とリンパ節(肺門及び縦隔リンパ節)の郭清(切除)です。手術は全身麻酔で行われ、15cm以上皮膚を切開する開胸手術から、カメラ(胸腔鏡)を使って数cmの創3、4ヶ所で行う胸腔鏡手術まで行っています。当院では複数の呼吸器外科専門医が担当し、高い安全性・根治性を担保するようにしており、年間約100例の肺がんに対する手術を行い、うち7割を胸腔鏡手術で行っています(2014年)。

薬物療法(化学療法)

抗がん剤による治療で、全身のがん細胞に効果を発揮します。肺がんの種類や患者さんの状態を考慮して薬剤を選びます。病期によって、手術や放射線療法と組み合わせることで治療効果が向上します。
呼吸器病センターでは入院のもと、年間約300例の化学療法を新規導入しています(2014年)。
化学療法は骨髄障害や吐き気・嘔吐・食欲低下、脱毛などの副作用が出現します。副作用が軽い患者さんは外来での治療も実施しており、年間約500例の外来化学療法を実施しています(2014年)。
従来の抗がん剤とは異なる、肺がんの遺伝子異常を標的とした治療(分子標的薬)が注目されています。肺癌における代表的な分子標的薬としてEGFR遺伝子変異例に対する治療薬(EGFR-TKI:®イレッサ、®タルセバ、®ジオトリフ)があり、当院では年間約50例の患者さんにEGFR-TKIにより治療を開始しています(2014年)。また、新しいEGFR-TKIに関する臨床治験にも積極的に参加しています(下記参照)。

放射線治療

放射線の細胞損傷作用を利用してがん細胞を死滅させます。放射線は正常細胞も損傷するため、放射線を照射する病巣の周囲に障害が及びます。有害な副作用として、皮膚炎や肺臓炎、食道炎などが生じます。放射線を病巣に集める技術の進歩により、副作用は軽減してきています。放射線治療は、脳や骨などのがんの転移巣にも有効で、病巣の縮小や痛みの軽減などの効果があります。
放射線治療の専門医と密に連絡をとりながら、適切な時期に放射線治療を行える体制をとっています。

緩和医療

がんと診断された早い段階から、がんに対する治療と並行して緩和医療を行うことにより、患者さんおよび家族の多様な苦痛の軽減、さらに、余命延長効果があることが示めされています。
緩和ケア部の医師と連携して、全人的なケアに取り組んでいます。

免疫療法

免疫療法はがんの代替療法として知られていますが、臨床研究で効果や安全性を検証されていないものが多く、注意が必要です(下記参照)。近年、免疫応答に関連した免疫療法に関連した新しい治療薬として、がん細胞が免疫システムの働きを抑える作用を解除する抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などが開発され、臨床研究において有効性が示されました。当院では、2015年の春に抗PD-L1抗体と抗CTLA-4抗体の有効性・安全性を評価する治験(ARCTIC試験)への参加を予定しています。

治験および臨床研究

肺がんの治療は、近年目覚しい進歩を遂げていますが、まだ満足できるものではありません。当院は、肺がんのより良い治療法の開発がその任務の1つであると考えています。治療成績向上を目指し治験、臨床研究に従事しています。現在当院では次のような治験・臨床研究を実施または参加しています。

  • 高齢者化学療法未施行ⅢB/Ⅳ期・術後再発非扁平上皮非小細胞がん患者に対するペメトレキセド/カルボプラチン併用療法の有効性と安全性を検討する第Ⅱ相臨床試験
  • 肺扁平上皮癌を対象としたTS-1+プラチナ併用療法の効果予測因子探索のための前向きコホート研究
  • RET融合遺伝子等の低頻度の遺伝子変化陽性肺癌の臨床病理学的、分子生物学的特徴を明らかにするための前向き観察研究(SCRUM-Japan)
  • 上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤による治療後に進行が認められた、上皮成長因子受容体遺伝子においてT790M変異を有する局所進行又は転移性非小細胞肺癌患者を対象に、AZD9291と白金製剤を用いた2剤併用化学療法を比較する第Ⅲ相非盲検無作為化試験(AURA3)
  • 既治療の進行・再発非小細胞肺癌に対するドセタキセルとnab-パクリタキセルのランダム化比較第Ⅲ相試験 (2015年春開始予定)
  • 上皮成長因子受容体遺伝子変異を有する局所進行又は転移性非小細胞肺癌患者を対象に、一次治療におけるAZD9291と標準治療の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤の有効性及び安全性を比較検討する第Ⅲ相二重盲検無作為化試験(FLAURA) (2015年春開始予定)
  • 白金製剤を用いた1レジメンの化学療法を含む最低2レジメンの全身療法による治療歴を有する、既知のEGFR TK活性化変異及びALK再配列を有さない局所進行又は転移性非小細胞肺癌患者(ステージIIIB-IV)を対象とした、PD-L1発現に応じた単独療法又はtremelimumabとの併用療法としてのMEDI4736と標準的治療を比較する国際多施設共同第III相無作為化非盲検試験(ARCTIC) (2015年春開始予定)
  • 胸部薄切CT 所見に基づくすりガラス影優位のcT1N0 肺癌に対する区域切除の非ランダム化検証的試験(JCOG1211)
  • 悪性度神経内分泌肺癌完全切除例に対するイリノテカン+シスプラチン療法とエトポシド+シスプラチン療法のランダム化比較試験(JCOG1205/1206)
  • 病理病期Ⅰ期(T1>2cm、TNM分類6版)非小細胞肺癌完全切除例における術後治療に関する観察研究
  • 縦隔リンパ節転移を有するIIIA期非扁平上皮非小細胞肺癌に対する術前導入療法としてのCisplatin(CDDP)+ Pemetrexed(PEM)+ Bevacizumab(BEV) 併用療法もしくは、CDDP + PEM + 同時胸部放射線照射(45Gy)後の手術のランダム化比較第II相試験(Personalized Induction Therapy Clinical Trial-1, PIT-1)
  • 縦隔リンパ節転移を有するIIIA期肺原発扁平上皮癌に対する術前導入療法としてのシスプラチン+ティーエスワン+同時胸部放射線照射(45Gy)後の手術の第II相試験(Personalized Induction Therapy Clinical Trial-2, PIT-2)
  • 肺尖部胸壁浸潤がん(Superior sulcus tumor)に対する術前導入療法としてのシスプラチン+ティーエスワン+同時胸部放射線照射(66Gy)後の手術の有効性検証試験
  • 低肺機能肺癌手術患者におけるTiotropium吸入の効果に関する探索的臨床試験(EXPRESS)
  • 重症低肺機能肺癌手術患者におけるTiotropium吸入の効果に関する前向き観察研究(RAPID)
  • 肺がん切除術後の術後間質性肺炎急性増悪予防策の多施設共同第Ⅱ相試験(YCTS1201)
  • 呼吸器外科手術における症例登録事業

補完代替医療(健康食品・サプリメントなど)

現代の主流の医学は西洋医学です。これに代えて、または、補うものとして代替医療、補完医療と呼ばれるものがあります。補完代替医療は臨床試験によって有用性が確認されていません。体験談もしくは動物実験の結果のみを強調する書籍やインターネットの記載には注意が必要です。
国立がん研究センターがホームページに掲載している「がん情報サービス」には一般の方にもわかりやすい言葉で解説していますので参考にしてください。

療養生活でのアドバイス

肺癌の手術や抗がん剤の治療では治療費が高額になることもあります。高額な医療費負担が軽減される制度として「高額療養費制度」があります。医療機関や薬局で支払った学が一定の金額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
下記ホームページをご参照ください。

がんを患った人が抱える不安や悩みはとても大きく、それらを少しでも解消していくことは重要な要素の一つです。
ピア(Peer)とは仲間、同等の人という意味で、ピアサポートとは、同じような境遇や体験をした人どうしがお互いに助け合うことを意味していて、がん体験者による、がん患者・家族のための支援制度です。
大切なことは、ひとりでがんと闘っているのではなく、みんなでがんと向き合い、がんばっているのだと思えることです。ホームページをご参照ください。

その他

肺がんの最大の原因はたばこです。一番の問題は、副流煙や喫煙者の髪や服に付着した有害物質により、非喫煙者までも肺がんにしてしまうことです。当院では禁煙外来を開設していますので、禁煙したいと思っていらっしゃる方は受診してください。

セカンドオピニオン

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