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連携NEWS「内科的治療抵抗性併存疾患のある肥満症に対する腹腔鏡下胃縮小術(スリーブ状胃切除術)」

2022年8月26日公開

診断・治療

診断

以下のような症例に対し、腹腔鏡下胃縮小術(スリーブ状胃切除術)が保険上認められています。

(ア)6か月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMI 35 以上の肥満症で、以下のうち1項目以上を合併している患者さん

BMI 35 以上の肥満症
1項目以上を合併
  • 糖尿病
  • 高血圧症
  • 脂質異常症
  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
 

(イ)6か月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMI 32~34.9の肥満症で、以下のうち2項目以上を合併している患者さん

BMI 32~34.9の肥満症
2項目以上を合併
  • 糖尿病
    ヘモグロビンA1c(HbAlc)が 8.0%以上(NGSP値)
  • 高血圧症
    6か月以上、降圧剤による薬物治療を行っても管理が困難(収縮期血 圧 160mmHg 以上)なものに限る
  • 脂質異常症
    6か月以上、スタチン製剤等による薬物治療を行っても管理が困難(LDLコレステロール140mg/dL 以上又はnon-HDL コレステロール170m/dL 以上)なものに限る
  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
    AHI≧30の重症のものに限る
 

治療

手術は腹腔鏡下で施行し、胃大弯側をスリーブ状に切除します。胃を4cm幅程度のロール状に残すことになります。手術時間は2.5~3.0時間、出血量は10~20ml程度です。この治療によって経口摂取量が減少し、摂取カロリーが少なくなり、体重減量が図れます。術後合併症は、逆流性食道炎、縫合不全、出血などですが、いずれも発生頻度は非常に低いものとなっています。

肥満外科におけるポート位置の図肥満外科におけるポート位置の図
肥満外科におけるポート位置
スリープ状胃切除術の図スリープ状胃切除術の図
スリープ状胃切除術

本治療法の特徴

この腹腔鏡下胃縮小術(スリーブ状胃切除術)は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対し、専門性の高い内科医師が治療を行ったが、改善しない患者さんに対する治療法であり、美容的な意味合いの治療法ではありません。また、この治療法は外科治療ではありますが、このような患者さんに対する治療の一部分にすぎず、あくまでも内科医が主治医となり、外科医、精神科医、栄養士、麻酔科医、薬剤師、看護師、リハビリテーション科スタッフ、ケースワーカーなど多職種での総合的なケアが必要となります。とくに、術前においては、手術の可否判断を精神科医に介入してもらい、術後に精神的不安定な状態にならないように極力務める必要があります。これは高度肥満患者さんは精神的不安定性を抱えている場合があり、欧米では術後の自殺者がでている事から絶対的に必要な過程です。

さらに、術前に自ら5%以上の体重減少を図る事ができる患者さんに限定されています。これは術後にリバウンドする患者さんがおられ、自らの体重をある程度コントロールできる患者さんに限定する必要があるからです。したがって、術前には初診から3~6カ月程度の期間を要する事が一般的です。この間にも複数回の多職種カンファランスを行い、治療の適応について討議を重ね、慎重に判断しています。術後1年くらいで30%程度の体重減少が図れます。その後、それを維持するように指導しますが、リバウンドする患者さんも20~30%程度おられるので、厳重なフォローが必要となります。種々の診療科と連携・協力して治療にあたる事が大切です。

総体重減少率のグラフ総体重減少率のグラフ
総体重減少率
Hidenori Haruta, et al. Obes Surg 2017; 27: 754-762より改変

患者さんを紹介する際の必要な情報や基準について

多くの患者さんは、どのような治療法といった正確な情報をお持ちではなく、美容的な意味合いからの胃縮小術と考えている事が多いです。上記の適応を満たしそうな患者さんがおられれば、ご紹介下さい。詳細にご説明の上、ご承諾が得られれば、治療を進めていきます。良性疾患でありながら、胃の一部を切除するといった治療法となりますので、十分なご理解が必要となります。

逆紹介後のフォローアップで気を付けて欲しいこと

術後早期に逆紹介する事は少ないかと思います。術後1年からリバウンドがみられる事が多いので、リバウンドしないように経過をみていきます。3年程度経つと落ち着く患者さんが多いかと思います。安定したら、逆紹介でフォローをお願いする事があろうかと思います。栄養摂取量、体重、精神的安定性などをみていただき、変化があれば、再度ご紹介いただければ対応させていただきます。

診療科からのメッセージ

消化器病センター 國崎 主税 部長

消化器病センター 國崎 主税 部長の写真消化器病センター 國崎 主税 部長の写真

まだまだ、認知度の低い治療法であります。しかしながら、適応を厳密に判断し適切な治療を行えるような体制をとっています。もし、説明を聞きたいといった患者さんがおられましたら、ぜひともご紹介いただければ幸いです。十分なご説明によりご理解が得られれば、治療を進めさせていただきます。 何卒、よろしくお願いいたします。

1984年 横浜市立大学医学部 卒業
1993年 横浜市立大学 医学博士取得
1994年 横浜市立大学 第二外科 助手
1999年 横浜市立大学 第二外科 講師
2005年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器消化器病センター 外科 准教授
2008年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター 外科 教授
2015年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 副病院長
2020年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 外科系経営参与

勉強会のご案内

肥満症治療関連地域医療連携研修会

日時:2022年10月6日(木) 18:50~20:00
開催方法:Web配信(Zoom)

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