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連携NEWS「糖尿病の診断と治療」

2022年1月28日公開

横浜市立大学附属市民総合医療センター
内分泌・糖尿病内科 准教授 山川 正 部長

内分泌・糖尿病内科 准教授 山川 正 部長の写真内分泌・糖尿病内科 准教授 山川 正 部長の写真
略歴
1987年 横浜市立大学医学部病院  
1994年 横浜市立大学医学部附属病院  
1996年 米国Vanderbilt大学医学部
2000年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 

専門医資格・委員
日本内科学会総合内科専門医・指導医/ 日本糖尿病学会評議員・専門医・研修指導医
日本内分泌学会代議員・専門医・指導医/ 日本臨床栄養学会評議員・認定臨床栄養指導医
日本動脈硬化学会評議員・専門医/ 日本糖尿病医療学学会 評議員/ 神奈川医学会誌編集委員・評議員

糖尿病の診断

初回検査で下記、いずれか1つを認めた場合糖尿病型と判定します。
  1. 空腹時血糖≧126mg/dl
  2. 75gOGTT2時間値≧200㎎/dl
  3. 随時血糖200以上
  4. HbA1c 6.5%以上

別の日に行った検査で糖尿病型が再確認できれば糖尿病と診断できる。ただし、初回検査と再検査の少なくとも一方で、必ず血糖値の基準を満たしていることが必要で、HbA1cによる反復検査による診断は不可です。血糖値とHbA1cを同時に測定し、ともに糖尿病型であることを確認されれば、初回検査のみで糖尿病と診断できます。

糖尿病の治療

糖尿病の治療は生活習慣の改善が第一となり、特に、食事療法、運動療法が重要です。
食事療法については従来厳格のエネルギー制限が行われてきました。しかし、超高齢化社会の進行にともない、フレイル、サルコペニアなどの懸念が増加し、特に高齢者の場合には制限のし過ぎが問題となっています。そこで2019年にガイドラインが改訂となり、患者個々に応じたエネルギー設定が求められています。最も大きな改訂ポイントはエネルギー摂取量の算出方法です。

食事療法

治療開始時の目安となるエネルギー摂取量の算出方法
エネルギー摂取量(kcal/日) =目標体重(kg)×エネルギー係数

標体重の目安

総死亡が最も低いBMIは年齢によって異なり、一定の幅があることを考慮し,以下の式から算出します。

年齢 計算式
65歳未満 [身長(m)] 2×22
65歳から74歳 [身長(m)] 2×22~25
75歳以上※ [身長(m)] 2×22~25

※75歳以上の後期高齢者では現体重に基づきフレイル、(基本的)ADL低下、併発症、体組成、身長の短縮、摂食状況や代謝状態の評価を踏まえ適宜判断します

エネルギー係数※

身体活動レベル エネルギー係数
軽い労作(大部分が座位の静的活動) 25~30kcal/kg
普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む) 30~35kcal/kg
重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある) 35~kcal/kg

※肥満のある場合は25~30kcal/kg、高齢者のフレイル予防のためには30~35としてエネルギー摂取量の維持に配慮します。
その後、体重の増減、血糖コントロールを勘案して設定を見直すことが重要です。

運動療法

運動療法には様々な利点があります。
  1. 血糖低下作用
  2. インスリン抵抗性の改善
  3. 減量効果
  4. 筋力低下予防、骨粗鬆症の予防
  5. 高血圧や脂質異常症の改善
  6. 心肺機能をよくする
  7. 運動能力の向上
  8. 日常生活のQOLを高める など

運動の種類には有酸素運動とレジスタンス運動に分類されます。前者は酸素の供給に見合った強度の運動で、継続して行うことによりインスリン感受性が増大するします。歩行、ジョギング、水泳などの全身運動が該当し、心肺機能を高める効果があります。一方、レジスタンス運動とは、おもりや抵抗負荷に対して動作を行う運動で、強い負荷強度で行えば無酸素運動に分類されますが、筋肉量を増加し、筋力を増強する効果が期待できます。水中歩行は有酸素運動とレジスタンス運動がミックスされた運動であり、膝にかかる負担が少なく、肥満糖尿病患者に安全かつ有効です。高齢者においては、バランス能力を向上させるバランス運動は生活機能の維持・向上に有用です。

糖尿病の注意点・フォローについて

糖尿病診療の目的は糖尿病に伴う長年の高血糖によって起こる慢性合併症の発症予防と進展阻止です。慢性合併症には網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳卒中、抹消動脈疾患(PAD)、足病変が含まれます。したがって、外来診療で注意すべき点は血糖コントロールのみに注目するのではなく、それぞれの合併症に応じた管理が必要です。特に忘れがちなのが、網膜症のフォローであり、患者に眼科への定期通院を勧めることは必須です。また、腎症においては微量アルブミン尿の定期的な測定も役立ちます。その他に併存疾患の管理が必要です。糖尿病の併存疾患としては骨病変、手の病変、歯周病、認知症、癌があげられます。いずれの管理も重要ですが、特に癌を見逃さないことが肝要です。初診の糖尿病の場合や、急速な血糖コントロールの悪化の場合には癌の合併を疑って全身の精査を行うことをお勧めします。そのような場合には、当院にご紹介いただくとスムーズな検査を行うことができます。

紹介基準5項目について

当院(糖尿病学会専門医)への紹介基準は以下、5項目で構成されています。

血糖コントロール改善・治療調整

  1. 薬剤を使用しても十分な血糖コントロールが得られない場合や次第に血糖コントロール状態が悪化した場合、血糖コントロール目標が達成できない状態が3カ月以上続く場合
  2. 血糖降下薬の選択などの新たな治療の導入に悩む場合
  3. 1型糖尿病など内因性インスリン分泌が高度に枯渇している場合
  4. 低血糖発作を頻回に繰り返す場合
  5. 妊婦へのインスリン療法を検討する場合
  6. 感染症を合併している場合

教育入院

食事・運動療法、服薬、インスリン注射、血糖自己測定など、外来で十分に指導ができない場合、特に診断直後の患者や、教育入院経験のない患者で、その可能性を考慮するよう促しています。

慢性合併症

慢性合併症(網膜症、腎症、神経障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患など)発症のハイリスク者(血糖・血圧・脂質・体重などの難治例)である場合や、これらの糖尿病合併症の発症、進展が認められる場合に紹介を考慮する必要があります。

急性合併症

  1. 糖尿病ケトアシドーシスの場合
  2. ケトン体陰性でも高血糖(300mg/dL以上)、高齢者などで脱水徴候が著しい場合 など
  3. 1の場合は、直ちに初期治療を開始すると同時に緊急移送を行う。2の場合は、高血糖高浸透圧症候群の可能性があるため、速やかに紹介することが望ましいとされています。

手術

糖尿病患者紹介フローシート糖尿病患者紹介フローシート

逆紹介後のフォローアップで気を付けて欲しいこと

当院から処方された薬を患者の状態に応じて変更されることは問題ありませんが、その際になるべく低血糖を起こしやすい薬(SU薬など)は避ける、または高容量にしないようにする、内服薬の5種類以上の併用を避けるようお願いいたします。インスリン投与患者では、血糖コントロールが悪化しても、過度なインスリンの増量の前に生活習慣の改善を優先してください。HbA1c8~9%以上が持続するようでしたら、再度当院へのご紹介を考慮してください。

診療科からのメッセージ

当院では糖尿病発症早期においては食事療法などの教育を行い、進行した症例ではインスリンやGLP-1などの注射製剤の導入、インスリン分泌低下例ではインスリンポンプ療法など様々の治療を行っています。また、各種検査機器が充実しており、全身の合併症の精査などを行うことが可能です。糖尿病発症早期、血糖コントロールが改善しない、インスリン導入が必要、慢性合併症が進行しているなど様々なケースに対応可能ですので、迷ったら一度ご相談ください。

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