ナビゲーションをスキップして本文へ
  • English
  • 通常版
  • テキスト版
  • 交通・キャンパス案内
  • サイトマップ
  • 大学トップ

研究者検索


ここから本文

HOME  > 研究者情報  > 研究成果コンテンツ  > 生命ナノシステム科学研究科 足立典隆教授らの研究グループが、低線量の放射線で切断されたDNAを直す仕組みを解明!〜 新規抗がん治療法開発への応用に期待 〜

生命ナノシステム科学研究科 足立典隆教授らの研究グループが、低線量の放射線で切断されたDNAを直す仕組みを解明!〜 新規抗がん治療法開発への応用に期待 〜

 横浜市立大学 大学院生命ナノシステム科学研究科の足立典隆教授らの研究グループは、独自の手法で構築した特殊なヒト細胞を利用して、低線量の放射線によって傷つけられた細胞DNAがどのような仕組みで元通りに修復されるのか、そのメカニズムの一端を明らかにしました。
 本研究成果は米国の科学雑誌『PLOS ONE』(平成25年8月14日;日本時間:平成25年8月15日)に掲載されます。

ポイント

・放射線が誘発する有害なDNAの傷である二本鎖切断は、相同組換えまたは非相同末端連結(NHEJ)とよばれる機構によって修復されるが、NHEJが優先的に利用される。
・ある種の抗がん剤によって生じるDNAの傷に対しても、NHEJが優先的に修復を行っている。
・NHEJ反応ではたらく酵素である「DNAリガーゼ4」と「アルテミス」は、別の修復機構である相同組換えを抑制している。

研究の背景

 私たち人間の細胞は、核の中に遺伝情報であるDNAをもっています。DNAは常に安定した状態で存在しているわけではなく、活性酸素などの内的な要因、あるいは放射線や紫外線、抗がん剤、喫煙(一次、二次、三次喫煙)などの外的な要因によって頻繁に傷つけられています。傷の種類はさまざまですが、二本鎖DNAの切断は「最も深い傷」、つまり直されなければ細胞が死に至る(あるいはがん化する)傷であり、X線などの電離放射線だけでなく、種々の抗がん剤(ブレオマイシン、イリノテカン、エトポシド等)によっても誘発されます。二本鎖DNA切断を修復する機構には大きく2つの種類があることがわかっています。一つが相同組換え、もう一つが非相同末端連結(NHEJ)です。しかし、この2つの機構が細胞の中でどう使い分けられているのか、あるいは低線量の放射線を浴びたヒトの細胞がどちらを優先的に使っているのかについてはあまりよくわかっていませんでした。

研究の内容と成果

 本研究では、遺伝子ターゲティングと呼ばれる特殊な手法を使い、相同組換えとNHEJの一方、または両方を欠損したヒト遺伝子改変細胞を世界で初めて人為的に作製しました。こうした変異株細胞に放射線を照射し、生き残ってくる細胞集団(コロニー)の数を調べることで、どのような遺伝子が二本鎖DNA切断の修復に重要なのか、その必要性や重要度を知ることができます(図1)。

図1

 すると、強い放射線を照射した場合は相同組換えによる修復が重要であるのに対し、低い線量(1グレイ以下)の放射線の場合はNHEJへの依存度が高いことがわかりました。つまり、NHEJを欠損した細胞は、放射線に対して高い感受性を示す(死滅しやすい)ことがわかったわけです。さらに解析を進めた結果、NHEJではたらく酵素である「DNAリガーゼ4」や「アルテミス」を失った細胞では、相同組換えの頻度が上昇していることも明らかとなりました。以上のことから、細胞に二本鎖切断が生じるとまずNHEJによる修復が試みられ、これに失敗すると相同組換えに切り替えられている可能性が強く示唆されました。
 足立教授らはさらに、ネオカルチノスタチン、ブレオマイシン、イリノテカン、エトポシド等の抗がん剤によってDNAが切断された際にもNHEJによる修復が優先的に行われており、アルテミスがこの機構に関わっていることを突き止めました。切れたDNAの端っこを整える酵素と考えられてきたアルテミスが、NHEJから相同組換えへの切り替えにも関わっているというのは予想外の発見でした(図2)。

図2

今後の展開

 今回の発見は、人為的に作製したヒト遺伝子改変細胞の研究ツールとしての威力をあらためて実証したものといえます。横浜市立大学には、英国ベンチャーにヒト遺伝子改変細胞の独占販売権を付与したという実績があります(http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/pr/press/110806.html)。
 ヒト細胞に生じた二本鎖DNA切断が修復される仕組みの詳細が明らかになれば、放射線治療や抗がん剤治療の技術向上、すなわち、より効果的で副作用の少ない治療法の開発に役立ちます。また近年、「合成致死」を利用した抗がん剤開発が注目を浴びていますが、遺伝子ターゲティング技術を使って作製した、特定の一遺伝子だけを失ったヒト遺伝子改変細胞をうまく活用していくことで、こうした開発研究に弾みがつくことが期待されます。

用語解説

NHEJ(エヌ・エイチ・イー・ジェイ):非相同末端連結(英語表記したときの頭文字を並べるとNHEJ)。DNAの相同性とは無関係に起こる組換えであり、切断されたDNA末端を効率良く連結できるが、修復後に欠失などの変異が導入されてしまうことが多く、誤りがちな修復である。Ku70、Ku80、Artemis(アルテミス)、Xrcc4、DNA ligase IV(DNAリガーゼ4)など複数のタンパク質が関与している。抗体やT細胞受容体の多様性を生み出すためにも必須の機構であり、この機構を欠損すると免疫不全となる。
相同組換え:DNAの相同性を利用して起こる正確な組換え。生殖細胞の多様性を生み出すのに必須の機構である。一般に、体細胞における相同組換えは姉妹染色分体を利用するため、細胞周期のS/G2期でしか起こらない。
遺伝子ターゲティング:標的遺伝子破壊とも呼ばれる。細胞の核の中で起こる相同組換え反応を利用して、ゲノム上の特定の遺伝子を改変(破壊または修正)する手法のこと。これまで、ES細胞を用いた遺伝子ターゲティングにより、世界中で多種多様なノックアウトマウスが作製されてきた。目的の遺伝子以外には傷をつけない理想的な遺伝子治療法としても期待されている。
遺伝子改変細胞:遺伝子ターゲティング等の手法によって、特定の遺伝子のみを人為的に改変した細胞のこと。
グレイ:放射線の強さを表す単位の一つ(J/kg)。1 kgの物質に1 Jのエネルギーが吸収されたときの吸収線量。細胞に1グレイの放射線を照射すると30〜50個の二本鎖切断が生じるといわれている(0.1グレイならその10分の1の数)。
三次喫煙:タバコを消した後の残留物から生じる有害物質の吸入。残留受動喫煙ともいう。二次喫煙(受動喫煙)が終わった後も表面上に残っている有害物質を吸入していることが以前から問題視されていたが、今年7月、こうした有害物質がDNAに重篤な傷を与えることが遺伝学的に証明された。
http://mutage.oxfordjournals.org/content/28/4/381
合成致死:一つの遺伝子を失っても致死とはならないが、2つ(またはそれ以上)の遺伝子の機能を失うと致死となること。たとえば、ヒトのBRCA2とPARP1がこのような関係にある。一部の乳がん細胞はBRCA2遺伝子を欠損しているため、PARP阻害剤に対して著しく高い感受性を示す。

※ 本研究は、文科省科研費、横浜市立大学戦略的研究推進費などの助成により行われました。また、横浜市立大学先端医科学研究センターが推進している「研究開発プロジェクト」の成果のひとつです。