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雑穀シコクビエのゲノムを高精度で解読  食料安全保障と健康食品開発への貢献に期待

2017.09.06
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雑穀シコクビエのゲノムを高精度で解読 食料安全保障と健康食品開発への貢献に期待

~『DNA Research』に掲載~

横浜市立大学 木原生物学研究所の清水健太郎客員教授のグループは、新型のDNA解析装置を開発したアメリカ・バイオナノ ゲノミクス社、およびスイス・チューリッヒ大学、インド・バンガロール農業大学との共同研究により、複数のDNAシークエンサー*1のデータを組み合わせてゲノム配列を再構成するコンピュータ解析技術を採用し、複雑なDNAゲノムを持つ雑穀シコクビエゲノムを高い精度で解読することに成功しました。
研究成果のポイント 

○イネゲノムより複雑な構造の雑穀シコクビエのゲノムを高精度で解読
○環境変動耐性や栄養価を高める品種改良に期待
シコクビエは異なる二倍体の親種のゲノムが組み合わさって遺伝子が倍増した倍数体*2であり、この複雑性のためにイネなどの主要穀物に比べDNAゲノム配列解析が困難でした。そのため、栄養価や環境耐性の高さといった重要な性質を有するにもかかわらず、解析対象から外された「孤児作物」「無視・低利用作物」と呼ばれてきました。通常、倍数体のような複雑なゲノムはDNAシークエンサーで読み取った断片的な塩基配列をつなぎ合わせてゲノムを再構成することが非常に困難なのですが、今回得られたゲノム配列は、全ゲノムの半分以上が250万塩基以上につながった精度の高いものであり、長年停滞していたシコクビエの研究・育種の加速が期待されます。すでに、インド・バンガロール農業大学のグループと共同で、インドやアフリカでの干ばつによる不作や栄養欠乏を解決するためのシコクビエの育種を進めています。さらに、本研究で用いたコンピュータ解析技術は、より複雑なDNAゲノムを持つコムギなどの他の生物への応用が期待されます。
本研究成果は、日本の国際学術雑誌 『DNA Research』(日本時間 平成29年9月5日付)にオンライン掲載されました。

研究の背景

雑穀であるシコクビエは、日本でもコメの広まる以前から広く栽培されていたと考えられており、石川県や四国では現在でも栽培が続いています。最近では、栄養価の高さからスーパーフードとして注目を浴びる健康食品としても見直されています。また、高い環境耐性を持つため、インドやアフリカでは貧困層の主要な食料源ともなっています。シコクビエは、雑草オヒシバと未知の種が融合して生まれた倍数体種を起源に持つ異質倍数体であり、遺伝子の数が倍増したことよって高い環境耐性を得た可能性があります。また、世界各地の品種の多様性が高く(写真1)、育種によって生産性や栄養価をさらに高められる可能性を秘めています。一方で、シコクビエは「孤児作物orphan crop」「無視・低利用作物neglected and underutilized crop」と呼ばれており、ゲノムサイズが大きいこと、倍数体であることが障壁となり、イネやトウモロコシなど他の穀物と比較してゲノム解析などの分子的な研究が進んでいませんでした。
写真1(上): シコクビエの様々な品種の穂。形態からもその多様さが見て取れる。 写真2(下):インドでの試験栽培の様子。 (写真提供:バンガロール農業大学・チューリッヒ大学 Mathi Thumilan Balachadran博士)
図1. アセンブリされた配列の系統関係を示す。

研究の内容と成果

横浜市立大学木原生物学研究所では、木原均教授以来のコムギなどの倍数体生物研究の伝統を生かし、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)などの支援を受けて倍数体穀物の研究に取り組んできました。本研究では、その倍数体穀物研究の知見を活かし、複数のDNAシークエンサーのデータを組み合わせてゲノム配列を再構成するハイブリッドゲノムアセンブリ手法を採用し、これまで難しいとされた倍数体のゲノム解読に取り組みました。その結果、ゲノムの半分以上が250万塩基以上のつながりとして解読でき、解読されたゲノム上に62,348個の遺伝子を発見しました。そのほとんどが二つの親種ゲノムに由来する相同性*3 の高いホメオログ*4 であることが確認されました。
従来のゲノムアセンブリ*5 手法では、シコクビエのように二つの親種ゲノムに由来するホメオログが多数存在する倍数体ゲノムをここまで再構成することは、高い相同性を有する部分の識別が非常に難しいため、通常はホメオログの部分でゲノム再構成に失敗してしまいます。正しくゲノムが再構成されない場合、遺伝子も数万個のオーダーで誤って「発見」してしまう可能性がありました。
図1は今回発見された遺伝子のうち特定の遺伝子に基づいて近縁種間の系統関係を推定したものです。図1-AはPepc4 (phosphoenolpyruvate carboxylase 4) と呼ばれる遺伝子、図1-Bはwaxy (granule-bound starch synthase I-like) と呼ばれる遺伝子の配列に基づいた系統樹になります。
図中、PR202 Super-Scaffoldと書かれているのが今回アセンブリされたゲノム上で発見された遺伝子です。それぞれの遺伝子で非常に相同性の高い遺伝子が二つずつ、ゲノム上の別々の場所に見つかり、推定された系統樹からその二つが別々の親ゲノム由来であることがわかりました。このことは、非常に相同性の高い遺伝子があっても区別して、それぞれ正しく解読できたことを示します。

今後の展開

今回得られたゲノムデータを参照配列として用いれば、様々な条件下における遺伝子発現の解析、100種類以上の異なる株からの一塩基多型*6 情報データベースが可能になります。さらにそれを利用したゲノムワイド関連解析*7を通して、農業に有用な様々な形質に関連する遺伝子の特定が進むと期待されます。

用語解説

*1 DNAシークエンサー:
DNA分子の塩基配列を読み取る機械。数百塩基の長さに断片化して高精度に大量に読み取る次世代(第二世代)シークエンサーと、読み取り精度は落ちるものの数千塩基程度の長さで塩基配列を読める第三世代シークエンサーが主流。

*2 倍数体:
二組以上の染色体をもつ個体。シコクビエはそれぞれ異なる二倍体である両親から生まれた異質四倍体である。

*3 相同性:
塩基配列がよく似ていること。一個体内で遺伝子重複によって生じるパラログと同じ種を起源に持つことで遺伝子配列が似ているオーソログがある。

*4 ホメオログ:
異なる親種に由来するオーソログがゲノム重複によって一個体内に取り込まれたもの。

*5ゲノムアセンブリ:
DNAシークエンサーで読み取られた断片化された塩基配列をつなぎ合わせて元のゲノム配列を復元する計算。

*6 一塩基多型:
生物種集団で1%以上の頻度で見られる一塩基の変異。

*7 ゲノムワイド関連解析:
一塩基多型と形質との関連を統計的に調べる手法。

 
文:畠山剛臣(チューリッヒ大学・チューリッヒ機能ゲノミクスセンター・博士研究員)
  清水(稲継)理恵(チューリッヒ大学・グループリーダー)
  清水健太郎(横浜市立大学客員教授・チューリッヒ大学教授)

研究費情報

※本研究は、科学技術振興機構(JST)CREST「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」、文部科学省科研費 新学術領域研究「植物新種誕生の原理」、ISCB( Indo-Swiss Collaboration in Biotechnology )の支援を受けて遂行しました 。

論文情報

Multiple hybrid de novo genome assembly of finger millet, an orphan allotetraploid crop.
Masaomi Hatakeyama, Sirisha Aluri, Mathi Thumilan Balachadran1, Sajeevan Radha Sivarajan, Andrea Patrignani, Simon Grüter, Lucy Pove
da, Rie Shimizu-Inatsugi1, John Baeten , Kees-Jan Francoijs, Karaba N. Nataraja, Yellodu A. Nanja Reddy , Shamprasad Phadnis, Ramapura L. Ravikumar , Ralph Schlapbach, Sheshshayee M. Sreeman and Kentaro K. Shimizu
DNA Research. DOI: 10.1093/dnares/dsx036
(本資料の内容に関するお問い合わせ)
木原生物学研究所 客員教授・清水 健太郎
(スイス・チューリッヒ大学 進化生物・環境学研究所 兼任)
横浜市戸塚区舞岡町641-12
TEL:+41 44 63 56740(チューリッヒ大学)
TEL:045-820-2429(木原生物学研究所)
E-mail:kentaro.shimizu@ieu.uzh.ch

(取材対応窓口、資料請求など)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510
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