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光センサータンパク質によるcAMP生成の仕組みを解明 ~再生医療や新薬開発への貢献に期待~

2017.07.25
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光センサータンパク質によるcAMP生成の仕組みを解明 ~再生医療や新薬開発への貢献に期待~ 

米国科学アカデミー紀要『PNAS』に掲載

横浜市立大学 生命医科学研究科 大木規央特任助教(朴三用教授研究グループ)は、東邦大学薬学部(伊関峰生教授)、浜松ホトニクス(株)中央研究所(松永茂博士)、自治医科大学(富田文菜助教、柴山修哉教授)との共同研究により、光センサータンパク質が生体内の情報伝達物質である環状アデノシン一リン酸(cAMP)を生成する仕組みを世界で初めて解明しました。この知見は、光を使って細胞機能を操作する光遺伝学(optogenetics)のツール開発につながるため、今後、新しい再生医療や新薬開発の基礎的研究への貢献が期待されます。
本研究成果は、アメリカ合衆国の学術雑誌『PNAS』(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)(米国科学アカデミー紀要)(日本時間 平成29年7月25日付)にオンライン掲載されました。

 
研究成果のポイント
○光活性化アデニル酸シクラーゼがcAMPを生成する仕組を原子レベルで解明
○光を使って細胞機能を操作するツールとして、医療分野への貢献に期待

研究の背景

cAMPは、アデニル酸シクラーゼの活性化によりATPから合成され、ホルモンや匂い刺激の細胞内への伝達や、学習・記憶等の神経活動にも関わる重要な情報伝達物質です。ミドリムシから発見された光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)は、光を感知するとcAMPを生成する光センサータンパク質で、その生産量は光で制御できます。そのためPACは、生体内情報伝達の光スイッチとして医学的な応用が期待されています。発表者はこれまでの研究で、藍藻由来のPACタンパク質(OaPAC)分子全体の構造解明を行い報告しました(Ohki M et al., PNAS, 2016)が、OaPACが光で活性化されcAMPを生成する機構の解明には至っていませんでした。

研究の内容と成果

本研究では、OaPACの結晶を暗所で作製し、光活性化に伴う吸収スペクトルの変化を調べたところ、青色光受容体BLUFドメインの特徴である長波長シフト(445 nm)が観測されました(図左)。また、結晶中での光活性化スペクトルの酵素反応速度を測定し、青色光の20秒照射で活性化状態になることを初めて特定するとともに、光活性化時のOaPACの構造変化を明らかにしました。その構造変化は、まず光受容分子であるフラビン色素(FMN)が分子外側へシフトし(図中)、その周辺のアミノ酸Gln48の水素結合の変化によって、長く伸びたOaPACのα3ヘリックスが変化する、という形で伝わっていくことがわかりました。このことから、この長いα3ヘリックスはフラビン色素からシクラーゼの活性中心であるACドメインに至る光シグナルの伝搬路としての役割を担うことが分かりました。このように、OaPACの活性調節ではBLUFドメインの極めて小さな変化が活性中心の構造変化を誘導し、活性化ACドメインへ伝わって情報伝達物質cAMPを合成するメカニズムであることを解明しました(図右)。本研究の論文では、その分子メカニズムは青色光受容体BLUFドメインからcoiled-coil構造を呈する2本のα3へリックスが生みだすアロステリック効果でACドメインが開き、ドメイン間の連動により、cAMP生成が導かれることを提案しました。
図. OaPACの光活性化に伴う吸収スペクトル変化、明状態でのFMN周辺の構造を示す

今回の展開

今回得られた光活性化アデニル酸シクラーゼの光活性化メカニズムを基に、PACを活性化する刺激光の波長感受性の変換(マルチカラーツール化)や、cAMPと共に細胞内信号伝達のメッセンジャー分子として使われるcGMPの光制御ツールの開発、さらには環状ヌクレオチドを分解する光操作ツールの開発など、バイオエンジニアリング分野での応用を目指します。また、細胞内部の特定の機能を持つ構造体(オルガネラ)単位での高精度な光操作法の開発や、トランスジェニック体を用いた生体での光操作など、より広範な光操作技術の確立にも努め、医療分野での新たな定番技術にしたいと考えています。

用語解説

〈光遺伝学(optogenetics)〉: 光感受性のイオンチャネル・酵素等を細胞や生体内に発現させて、それらの機能や形態形成等を光でコントロールする技術のこと。微生物型ロドプシン類による神経細胞の活動電位制御など。
〈光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)〉: BLUFドメインを持ち、光で酵素活性をコントロールできるシクラーゼ。代表的な二次情報伝達物質であるcAMP生成の光操作に適用できることから注目される分子。最初にミドリムシの運動に関する光センサーとしてヘテロ4量体分子が見出され、その後、ほぼ同等な機能を有するホモ2量体のホモログが複数の原核生物から見つかっている。
〈アロステリック効果〉: 酵素において活性部位以外の別の場所に特異的に物質を結合する機能を持ち、この部位に物質の結合が行われると構造変化が起こって機能が変化する現象。

論文情報

※本研究は、文部科学省及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)(朴三用教授)および、科研費(若手研究B)、光科学技術研究振興財団の支援を受けて遂行しました(大木規央特任助教)。

※論文著者、ならびにタイトル
Molecular mechanism of photoactivation of a light-regulated adenylate cyclase.
Mio Ohki, Ayana Sato-Tomita, Shigeru Matsunaga, Mineo Iseki, Jeremy R. H. Tame, Naoya Shibayama, and Sam-Yong Park.
Proc Natl Acad Sci U S A. published ahead of print July 24, 2017, DOI: 10.1073/pnas.1704391114
(本資料の内容に関するお問い合わせ)
大学院生命医科学研究科  教授 朴 三用
横浜市鶴見区末広町1−7−29
TEL:045-508-7229 
E-mail:park@tsurumi.yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510 
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