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メディアの「多様性」の歴史と現在を知り、これからのあり方を考える

2023.09.27
  • TOPICS
  • 国際教養学部

渡會ゼミ(社会理論演習)活動報告

社会学を専門とする渡會知子准教授(国際教養学部/都市社会文化研究科)のゼミでは、毎年七夕の季節に、現役のゼミ生と卒業生が集うイベントを企画しています。今年は、ニュースパーク(日本新聞博物館)で開催されている企画展「多様性 メディアが変えたもの メディアを変えたもの」に約30名のゼミ生と卒業生らが集まり、メディアの視点を軸に現代社会の多様性を考えました。

渡會ゼミ(社会理論演習)には、アイデンティティ、コミュニティ、文化、ジェンダーなど、現代社会のさまざまなテーマに興味をもった学生が集まってきます。人との出会い、つながりを大切に、ゼミ活動を実施していて、年に一度、七夕の機会には卒業生にも声をかけて、交流の機会をつくっています。

今回、現役のゼミ生と卒業生がこの企画展で感じたことを紹介します。


情報発信とメディアの役割

現代はデジタル化によって、簡単に情報を入手し発信することができます。そのため、情報を受け取る側、発信する側の多様な価値観を理解する力が求められます。正解はひとつだと決めつけるのではなく、「多様性」をキーワードにして、ひとりひとりの価値観を大切にする社会の実現が望まれています。

技術革新が進むこれからの社会における情報発信とメディアの役割など、日本新聞博物館の尾高 泉館長に展示内容を解説いただきました。尾高館長は、昨年の夏から日本新聞協会に加盟する全国の新聞社・通信社・放送局にヒアリングを行い、全国のメディア関係者からたくさんの記事や事例を集め、この企画展を開催しました。

情報発信とメディアの役割1
尾高館長がゼミ生に、近代日本の貴重な新聞史料(左)や、男女雇用機会均等法以降のメディア内部の多様性に着目したコーナー(右)などの資料を解説


情報発信とメディアの役割2
第4章『いま、メディアが伝える「多様性」』の展示コーナーでは、共同通信社がWEBサイトで公表している都道府県版ジェンダー・ギャップ指数が紹介されています。(URL:https://digital.kyodonews.jp/gender2023/

「地元の寛容度が低いと、若者、特に女性が地元から離れていくという調査結果があります。これからの社会を担う若い世代にとって、進学や就職といった人生の選択に『多様性』の視点は重要な柱となっていくでしょう。地方創生においても注目すべき観点だと思います」と渡會准教授がコメントされました。

また、今の高校生が学ぶ国語や社会の教科書は、2022年度までに小中高で新学習指導要領実施となり、SDGsやジェンダー平等、社会的包摂等の多様性を重視した視点で作られています。賛否が分かれる現代社会の課題をテーマに、新聞記事を読んで「多様性」について考える授業の実践例が、この企画展の資料として紹介されています。

尾高館長によると、いつもの企画展の来場者は年齢層が高めの方が多いが、この企画展にはアーティストやライターなどのクリエイティブな職業の方や、普段から「多様性」に注目している若い方が多く訪れており、資料をじっくり読みこまれている方もいるとのこと。ちょうど同じ日に、女性活躍を推進する団体の方が訪れており、ゼミ生と共に尾高館長の解説に聞き入っていました。一方で、昭和の同調圧力の強い社会を生きてきた世代の男性にとって「多様性」を理解することはハードルが高いようで、来場者は女性の方が多いそうです。ゼミ生から「さまざまな世代の方に足を運んでもらいやすくする工夫ができるといいですね」と話すと、尾高館長は「メッセージが直球すぎたかもしれませんね、次回に向けて参考にしたいと思います」とあたたかく受け止めてくださいました。

ゼミ生の感想

この企画展に参加したゼミ生に印象に残った展示や感想などを聞きました。

  • 共同通信社の「記者ハンドブック第14版」は2022年に6年ぶりに改訂され「ジェンダー平等への配慮」の項目が新設されたと尾高館長からの説明を聞き、興味をもった。アイデンティティ、特に言葉の与え方に関心がある。メディアが発信して広まった言葉ですっきりする人がいる一方で、その言葉の枠にはめられてしまう人もいるので、全員が必要なわけではないと思っている。
  • たった一人の人をずっと取材し続けている記者がいることを初めて知った。被害者の手記を読んで、声を出せない人に寄り添い、支え続けている記者の熱量が伝わってきた。人とのつながりや対人関係についてより関心が深まった。
  • ハンセン病については歴史の教科書でしか学んだことがなかった。その時点の視点で書かれている新聞記事を読んで、今の視点から振り返っている教科書との違いを感じた。
  • 尾高館長から「この企画展に来たら、感情がモヤモヤする人が多い」と聞いたが、自分も言語化して伝えることが課題だと思っている。「多様性」をキーワードにして、自分とは違う新しい価値観に対する見方や考え方などを学んでいきたい。
 
渡會知子准教授(左)と尾高館長(右)
尾高館長からのメッセージ

若い皆さんには社会に希望をもって出ていってほしいと願っていますが、子育てや介護は女性がするものだと考える世代の同調圧力はまだあります。黙っていると何となく女性の方に寄ってきてしまいます。明治の時代の新聞社では、女性は校正係からスタートした人もいます。記者として記事を書く人もいましたが女性や子供向けの記事が担当で、結婚したらやめなさい、と言われてきました。男女雇用機会均等法が成立してから37年が経過し、その間に奮闘してきた女性記者や男女問わず若い世代によって、情報を発信するメディアの組織内に「多様性」の視点が根付いてきました。朝日新聞社は「ジェンダー平等宣言」を発表し、女性のいない会議をつくらないなど、具体的な数値目標を設定しています。多様性を重視するバトンを皆さんが受け継いでいってほしいと思います。

そして、スマホですぐに答えが見つけられる情報社会になっていますが、正しいと思うことは人それぞれ。自分の興味のある情報だけしか見えなくなるフィルターバブルに陥いると、多様性を認め合う前提となる対話もできません。そうならないように、さまざまなメディア、中でも確かな情報源である新聞に興味をもってほしいです。


渡會知子准教授からのメッセージ

社会理論演習では、社会の中に引かれた境界線を問うことをテーマに、さまざまな活動を行ってきました。私たちの日常はたくさんの境界線で溢れています。「正常/異常」「健常/障害」「男/女」「美/醜」「陽キャ/陰キャ」など。しかしそれらは、本来は複雑でわりきれないはずの(グラデーショナルな)世界を、無理やり二つに分けてしまう単純化の暴力を含んでいます。その線引きはどうやって作られてきたのか?これからも必要なのか?誰かが犠牲になっていないか?別のやり方はないのか?さまざまな問い直しが必要です。

そうした反省的な学びは、「学びほぐし(アンラーニング)」と呼ばれます。既にあるものを学ぶことは、実はひとりでも不可能ではありません。しかし学びほぐしには「他者」が必要です。できるだけたくさんの人と出会い、話し、教室の内外で考え、問い直すこと。そうすることではじめて、広い視野と、さまざまな角度から考え抜かれた足場が得られます。

今回の展覧会訪問は、学生の自主企画として立ち上がりました。そして日本新聞博物館の多大なご協力のもと、貴重な学びと学びほぐしの場が実現しました。AIは、既存の現実をベースに「ありそうな未来」を示してくれますが、「ありたい未来」や「あるべき未来」を語ることができるのは人間だけです。300点もの新聞記事などによる記者の奮闘の軌跡は、そのことをあらためて実感させてくれました。私たちも既成概念に囚われることなく、ありたい未来に向けて、これからも現代社会を探究していきたいと思います。
七夕イベントに集合したゼミ生と卒業生
当日にオリジナル新聞を発行いただきました。
ニュースパーク(日本新聞博物館)企画展
「多様性 メディアが変えたもの メディアを変えたもの」
https://newspark.jp/exhibition/ex000318.html
 
期間 2023年04月22日(土)から
   2023年08月20日(日)まで
会場 ニュースパーク(日本新聞博物館)
   2階企画展示室
主催 ニュースパーク(日本新聞博物館)
後援 神奈川県教育委員会
   横浜市教育委員会、川崎市教育委員会

ダイバーシティ推進

https://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/corp/other/2023diversity.html
横浜市立大学では、本学で働く教職員、学生のすべてが多様性を認め合い、あらゆる場で活躍できる組織を目指しています。
 

日本新聞協会

https://www.pressnet.or.jp/
戦後間もない1946年7月23日に創立された全国の新聞社・通信社・放送局が倫理の向上を目指す自主的な組織です。(事務局:東京都千代田区内幸町)
横浜情報文化センター(神奈川県横浜市中区日本大通)内で「ニュースパーク(日本新聞博物館)」の運営やNIE(教育に新聞を)を推進しています。
 

ニュースパーク(日本新聞博物館)

https://newspark.jp/
新聞文化の継承と発展を目的に、2000年に日刊新聞発祥の地・横浜に開館。「情報と新聞の博物館」として、SNS時代のデジタル社会における情報リテラシーの大切さや、新聞・ジャーナリズムの歴史と役割を伝えています。
 
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