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高山光男教授が質量分析学会賞を受賞しました!

2016.06.27
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高山光男教授が質量分析学会賞を受賞しました!

概要

第64回質量分析総合討論会において、学会賞(MSSJ Award for Distinguished Contribution in MS)を受賞しました。日本質量分析学会(1953年発足)主催の上記年会が2016年5月18-20日、大阪・ホテル阪急エキスポパークで開催され、5月19日16:50より表彰式と受賞講演が行われました(写真1)。本学会賞は、質量分析学の発展に関し顕著な功績のあったものに授与され、 今回の受賞は15人目。受賞題目は、「MALDIインソース分解の機構 モデル構築と応用に関する研究」で、主要対象論文は以下の単著原著論文です。 M. Takayama, N-Cα bond cleavage of the peptide backbone via hydrogen abstraction, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 12, 1044-1049 (2001). 本論文は、後にベルギー・リエージュ大学の研究グループによって Takayama’s Model と名付けられ、現在のトップダウンプロテオミクス技術の基盤をなす成果です。

現日本質量分析学会会長・和田芳直氏と並ぶ高山光男教授。

研究の概要

本研究は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI MS)によるタンパク質のアミノ酸配列解析の基礎となる分解反応の機構を解明し、モデル化したものです。タンパク質は、-CH(Xn)-CO-NH-CH(Xn+1)-の繰り返し構造でできており、側鎖Xnをもつアミノ酸が数100結合してできています。このアミノ酸の配列順序は最も重要で基本的な構造情報ですが、多数のアミノ酸配列を迅速に決定するのは技術的に難しく、1995年にMALDI MSによって配列解析を可能にする現象であるインソース分解(In-source decay, ISD)が発見されました。その反応機構は未解明でしたが、高山教授は2001年に、マトリックスのX線結晶構造解析データと原子間力顕微鏡像、および重水素化ペプチドを用い(図1)、紫外レーザー光を吸収するマトリックス結晶表面とタンパク質主鎖の水素結合を仮定することにより、分子間水素移動反応の機構を発表しました(図2)。それによれば、紫外レーザー光を吸収した安息香酸系のマトリックス結晶表面からは多量の水素原子が発生し、その際、結晶表面に載せたタンパク質の主鎖上のカルボニル酸素に特異的に結合し、タンパク質ラジカルが生成します(図3 中間)。タンパク質ラジカルは不安定であり、主鎖上のNH-CH(Xn)結合だけが特異的に切断し、その分解物であるc-ionを質量分析計で測るとタンパク質のアミノ酸配列が50残基以上も決定できます。この研究は、特に多くの海外研究者に取り上げられ、2007年には“Takayama’s Model”と名付けられ、現在ではイノベーションシステム整備事業で応用展開することで、さらなる成果として、翻訳後修飾タンパク質のアミノ酸配列解析、翻訳後修飾部位解析、柔軟性アミノ酸予測解析にも利用できるモデルであることが分かっています。
水素移動反応の水素原子の起源を明らかにするために主鎖α炭素部位のグリシン水素 CH2 と側鎖β炭素部位のアラニン水素 CH3 を重水素化したモデルペプチド(上図)。これにより両部位からの分子内水素移動が否定された。
モデル構築に利用したマトリックス分子2,5-dihydroxybenzoic acid(2,5-DHB)のX線結晶構造(ドイツ・ミュンスター大学グループの1997年の研究より一部転載)。2,5-DHBのカルボキシル基とフェノール性水酸基が水素結合ネットワークによって疎水性平面(011面)を形成、その平面のスタッキングによって結晶成長が起こり針状結晶が形成される。針状結晶の表面(100面)からは多数のフェノール性水酸基が突出する。2,5-DHBに1万分の1程度の微量タンパク質を混入して結晶成長させると、100結晶表面にタンパク質分子が乗った、図に示すような構造となる。この描像はミュンスター大学グループの解析から高山が推察したもの(下図・左)。上の描像を確認するため、2,5-DHB結晶をペプチド分子有り無しで成長させ、その表面を観察した原子間力顕微鏡像。矢印は成長方向を示す。ペプチド無し(a)ではステップ構造が観られるが、有り(b)ではステップ構造が消失しスムースな面になる(下図・右)。以上の結果から、2,5-DHB結晶の100面から突出したフェノール性水酸基の水素原子が、タンパク質またはペプチド主鎖のアミド領域のカルボニル酸素と水素結合をしている描像をモデルとして提出した(図2)。
2,5-DHB結晶にタンパク質が乗ったとき、タンパク質分子の表面から露出したヘアピン構造をもつカルボニル酸素は2,5-DHBのフェノール性水酸基と水素結合を形成する(下図・右)。ここに外部から紫外レーザー光を照射すると2,5-DHB結晶が光子を吸収し、2,5-DHB分子から水素原子が放出されてタンパク質主鎖のカルボニル酸素に移動する。
図1と図2より、タンパク質主鎖の N-Cα 結合が特異的かつ迅速(数十ns以内)に切断して cイオンが生成する過程を説明できる。結晶状態で予め水素結合を形成しているところに紫外レーザー光を照射し(左)、水素原子が効率的にカルボニル酸素に移動し不対電子をもったタンパク質ラジカルが生成(中間)。片矢印で示したラジカル開裂反応によって二つの分解物 c と z. が生成、これらをイオン化することで質量分析装置によって検出するとアミノ酸配列情報が得られる。

研究の概要(英文)

A prompt fragmentation named “in-source decay (ISD)” in matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry (MALDI MS) of proteins was discovered by Brown and Lennon 1995, in the course of development of a time-of-flight mass spectrometer with delayed extraction device. Most significant character of MALDI-ISD of proteins is to give preferential fragment c-ions reflecting amino acid sequence at amino (N)-terminal side. The c-ions can be assigned by the N-C bond cleavage of peptide backbone with hydrogen transfer from any source of hydrogen atoms. To construct a model for MALDI-ISD, it is so important to know the origin of hydrogen atoms to generate c-ions. It was confirmed using an isotope-labelled peptide that the hydrogen atoms were from the matrix molecules. The appearance of c-ions is strongly dependent upon matrix materials used, and its structural character is to have hydrogen atom releasing groups such as phenolic and anilinic active-hydrogens (Ph-OH and Ph-NH2). An intermolecular hydrogen-transfer model for MALDI-ISD was constructed by using 2,5-dihydroxybenzoic acid (2,5-DHB) matrix, scanning probe microscopy (SPM) and X-ray crystallography data of 2,5-DHB. The constructed model has successfully rationalized the formation of c-ions, and the model was called as “Takayama’s model for MALDI-ISD” named by De Pauw’s group of Liege University.
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