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新型コロナ禍による10-24歳の自殺増加は女児・女性のみ顕著であることを確認

2023.06.22
  • プレスリリース
  • 研究

-10年分の自殺者データを解析-

横浜市立大学附属病院 化学療法センター 堀田信之センター長と慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 森口翔共同研究員の共同研究グループは、厚生労働省の死亡統計データ*1を用いて2012年7月より10年間の自殺データに関して解析を行い、10-24歳の女児・女性に関して顕著に自殺数が増加していることを確認しました。
本研究成果は、英文医学誌「Lancet Psychiatry」に掲載されました。(日本時間:2023年6月22日(木)オンライン)
 
研究成果のポイント

  • 2012年7月から2022年6月までの10年間の自殺データを解析した。
  • 10-14、15-19、20-24歳のいずれの年齢階層でも女性のみ顕著に自殺が増加した。
  • 非雇用年齢の10代前半でも女性のみ自殺が増加しており、本人の就労経済状況以外の要因が想定される。
図1 2012年7月から2022年6月までの自殺者数の推移(左:男児・男性/右:女児・女性) 黒いグラフは新型コロナ禍の間の自殺者数の推移

研究背景
2020年に新型コロナ禍が始まり、女性や若者の自殺者数が増加傾向にあることが社会的に懸念されています。本研究グループでは、2022年3月に、新型コロナ禍による自殺の増加について若年女性で特に顕著であるという研究結果の論文*2を発表しました。その要因として、20代~30代の女性で顕著に自殺が増加しているのは、社会的基盤が弱い20代~30代女性が失業等による経済的影響を受けやすいためではないかと推察していました。

研究内容
本研究グループでは、日本の厚生労働省から提供された死因別死亡数のデータを使用し、2012年7月から2022年6月までの10年間のデータを解析しました。これは死亡診断書に基づくデータベースで、日本国内の全ての死亡者をカバーしています。男女別に10〜14歳、15〜19歳、20〜24歳の3つの年齢カテゴリーごとに、6か月ごとの自殺者数をカウントしました。パンデミック期(新型コロナ禍)と非パンデミック期(新型コロナ禍以前)を比較するためにMann-Whitney検定*3によるBonferroni補正後のP値*4 0.05で統計的有意性を判断しました。
対象期間の10年間で、男児・男性9,428人、女児・女性3,835人の死因が自殺と報告されています。男性においては、パンデミック前後で有意な変化は観察されませんでした(図1左)。しかし、女性における自殺死亡はパンデミック時代に増加し(図1右)、すべての年齢カテゴリーで統計的有意性(P<0.05)が観察されました。
本研究において、就業年齢以下である10代前半でも女児・女性において自殺が増加していることが確認できたことから、女児・女性の自殺増加は、本人の失業以外の理由によることが想定されます。一般に女性は自殺企図(完遂しない自殺)が多く、男性は(完遂した)自殺が女性の2倍多いなど、自殺に関連する男女差が知られていますが、周囲の人との関係性を重んじる女児・女性の方が、コロナ禍により他人との接触が減少したことにより精神的影響を受けている可能性があると推察されます。また、女児・女性は家庭内暴力・虐待の対象になりやすいことも指摘されており、新型コロナ禍では自宅の滞在期間が長くなったことなどにより、その影響が顕在化した可能性が考えられます。

今後の展開
近年の自殺者数の増加は社会全体での問題となっており、早急な対策が必要です。10代、20代の若者における自殺を予防するためには、感染対策や経済政策などだけではなく、男女で異なるアプローチが新たに必要ではないかと考えられます。

論文情報
タイトル: COVID-19, young people, and suicidal behaviour.
著者: N Horita (堀田信之), Sho Moriguchi.
掲載雑誌: Lancet Psychiatry
DOI:https://doi.org/10.1016/S2215-0366(23)00159-1

用語説明
*1 厚生労働省の死亡統計データ:
出典 厚生労働統計「人口動態調査」
https://www.e-stat.go.jp/

*2 研究成果「新型コロナ禍による自殺の増加を確認」:
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2021/20220330horitanobuyuki.html
JAMA Netw Open. 2022 Mar 1;5(3):e224739.

*3 Mann-Whitney検定:
統計的検討手法の一つ。独立2群の差を検定する手法。

*4 P値:
帰無仮説が正しいと仮定した時に、実際に観測されたデータ以上に極端なデータが生じる確率の数値。

横浜市立大学 広報課
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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