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生命医科学研究科 浦澤貴哉さんらの論文が、Journal of Proteome Researchに掲載

2023.06.13
  • TOPICS
  • 学生の活躍
  • 研究
  • 理学部

iPS細胞由来製品の開発と製造の効率化に向けて、プロテオミクスを用いた新しいアプローチを示す。

生命医科学研究科 創薬再生研究室 博士後期課程2年の浦澤貴哉さんらの研究グループは、iPS細胞由来製品の効率的な開発と製造にプロテオミクスのアプローチが有用であることを示しました。その論文が、American Chemical Society(米国化学会)が出版している「Journal of Proteome Research」誌に掲載されました。
また、この研究が掲載号の表紙に採用されました。
 論文著者
  大学院生命医科学研究科 博士後期課程2年
  創薬再生研究室所属
  浦澤    うらさわ 貴哉  たかやさん

 指導教員
  大学院生命医科学研究科
  創薬再生科学研究室 川崎ナナ教授 

 掲載雑誌
       Journal of Proteome Research 
論文タイトル
Quantitative Proteomics for the Development and Manufacturing of Human-Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Neural Stem Cells Using Data-Independent Acquisition Mass Spectrometry

(訳)データ非依存的取得法質量分析を用いたヒト人工多能性幹細胞由来神経幹細胞の開発・製造のための定量プロテオミクス


—今回の研究内容について浦澤さんに解説していただきました。
ヒト人工多能性幹細胞 (iPS細胞) 由来神経細胞は、再生医療や創薬研究などへの応用が期待されていますが、これらの実用化のためには適切な製造工程や品質評価法の開発が不可欠です。そのためには、細胞の特性を理解する必要があります。タンパク質は細胞の様々な機能を支える重要な物質であるため、細胞の特性を理解するためには、タンパク質集団の理解が重要になります。一般に、タンパク質の網羅的解析には質量分析法が適しています。近年、新たな質量分析法としてデータ非依存的取得法質量分析 (DIA-MS)という手法が注目されています。この方法は従来の方法と比較して、精度や網羅性に優れています。
そこで、本研究では、DIA-MSを用いた定量プロテオミクスにより、iPS細胞の神経分化の初期段階である神経幹細胞への分化過程におけるタンパク質集団の変動を解析し、分化に重要なタンパク質の同定を目指しました。各分化段階にある細胞を回収し、DIA-MSにより分析を行い、得られたデータを基に統計解析等を行うことで候補になるタンパク質を抽出し、機能解析による検証を行うことで、神経幹細胞の分化を制御していると考えられるタンパク質を同定しました (図1) 。今回同定されたタンパク質は、神経幹細胞の品質評価や製造工程のモニタリングの指標としての応用が期待されます。今後は心筋細胞など他の分化系統へと応用することで、iPS細胞の分化についてさらに理解を深め、iPS細胞由来細胞等製品の実用化に貢献していきたいと思います。
図 プロテオミクスによるiPS細胞由来製品の工程内管理指標の探索(出典:Urasawa T, et al. Journal of Proteome Research, 2023)
iPS細胞を7日間かけて神経幹細胞へと分化させた(図左)。各細胞からタンパク質を回収し、一般的な方法であるデータ依存的取得法質量分析(DDA-MS)によりプロテオームデータを取得し、スペクトルライブラリを作成した。つぎに、網羅性と定量性に優れたデータ非依存的取得法質量分析(DIA-MS)によりプロテオームデータを取得し、スペクトルライブラリを参照しながら定量解析を行った(図中央)。神経幹細胞への分化に伴い変動するタンパク質を調べることで、分化工程の管理に適したタンパク質を絞り込んだ(図右)。 

本研究は、横浜市立大学第5期戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」(学長裁量事業)及び神奈川県異分野融合研究事業のご支援を受けて実施されました。

浦澤さんのコメント
本研究は、近年定量プロテオミクスの分野で注目されてきているDIA-MSという手法をiPS細胞の分化研究に用いて、iPS細胞の分化に重要なタンパク質を同定することで、細胞製品の品質管理への応用を目指した研究です。膨大なデータの解析方法など研究を進めるうえで多くの困難に直面しましたが、一つ一つ解決していくことで論文にまとめることが出来ました。さらに、Journal Coverにも採択され、嬉しく思います。
指導教員の川崎先生をはじめ、共著者の先輩方、国立医薬品食品衛生研究所の佐藤先生、黒田先生、大阪医療センターの金村先生に感謝申し上げると共に、今後も学位取得に向けて研究に取り組んでいきたいと思います。

指導教員:川崎ナナ教授のコメント
浦澤さん、論文掲載おめでとうございます!
本研究は、研究室に在籍されていた小泉匠さんが立ち上げ、COVID‑19で一時中断されたものの、浦澤さんが引き継いで修士論文としてまとめ、さらに博士後期課程でも実験を追加して、原著論文としてまとめられたものです。膨大なデータの解析や分子生物学的な検証実験を一人で成し遂げ、再生医療等製品の品質研究分野に、プロテオミクスを用いた新しいアプローチを提示しました。
学位取得に向けて、研究のさらなる発展に期待しています。

掲載論文
doi: https://doi.org/10.1021/acs.jproteome.2c00841
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