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【活躍する市大生】国際会議「32nd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics」でベストポスター賞を受賞した増子さん

2016.07.11
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国際会議「32nd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics」でベストポスター賞を受賞した増子さん

2016年6月、埼玉県で開催された国際会議「32nd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics」で、物質システム科学専攻の増子 貴子さんがベストポスター賞を受賞しました。増子さんに、今回の受賞について伺いました。

今回の32nd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamicsでは、どのような内容をポスター発表されたのでしょうか?また、どのような点が今回の受賞につながったのでしょうか?

生体内では有機分子などが主に非共有結合で自己集合し、タンパク質、酵素、細胞や細胞膜などの機能を持った秩序構造を正確に形成することが知られています。生成物を間違えずに形成するためには、溶媒効果や置換基効果が重要であると言われていますが、その自己集合の「機構」は未だ充分に解明されていません。生体分子の自己集合の一つのモデルとして、近年、東京大学の平岡秀一教授らが実験的に見出した「歯車状両親媒性分子」の自己集合が注目を集めています。この分子は、溶媒条件や置換基条件の違いにより自己集合の有無が全く異なることも実験的に見出されています。この自己集合機構を分子論的に解明することにより、生体分子の秩序構造の形成の理解につながります。
最近我々は、分子シミュレーションを用いた詳細な解析を行うことで、この歯車状両親媒性分子によるナノキューブの安定性を理論的に解明することができました。特に今回の国際会議のポスター発表では、混合溶媒の溶媒効果に着目した発表を行いました。実験では25%含水メタノール溶媒にてナノキューブが観測されることが分かっています。また100%メタノール溶媒では、ナノキューブを生じないことも知られています。我々の解析により、メタノール溶媒の疎水基側が歯車状両親媒性分子の疎水面に配位し、ミセルのような溶媒和構造を取ることが分かりました(図1)。図1で示すような溶媒和構造を取るために、メタノール分子の水酸基が水分子と水素結合を形成することが可能です。つまり、もともと水に溶けづらかった歯車状両親媒性分子は、メタノール溶媒が配位することで溶媒に溶けることができるということが理論的に分かりました。
さて、本国際会議である32nd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamicsでは、日本化学会と異なり、より近い専門性を持った研究者が集まり、質疑応答の内容が大変専門的なものとなってきます。さらには質問者の研究に対するアドバイスを求められ、様々な質問に対応する力が必要です。自分が持っている知識や情報から、適切な回答をすることができた点が、今回の受賞につながったのではないかと考えております。 

「Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics」はどのような会なのでしょうか?

討論の主題は、化学分野の中でも、特に気相・凝縮相・表面・界面における化学反応の速度論、および動力学に関する実験研究と理論研究についてです。その中には、私の研究のような分子動力学計算も含まれるだけでなく、励起状態の生成と緩和などのトピックも含まれます。本討論会では、これらの主題を研究している国内外の研究者が一同に介する国際会議で、今年で32回目となりました。 

今回の討論会に参加することになった経緯や、参加された際の感想、エピソード等あれば、お聞かせください。

私が所属している分子科学会が協賛している国際会議であり、自分の興味ある研究が多く発表されるため、この国際会議での発表を決めました。
この討論会では自分と専門性や興味が非常に近い人達が集まります。様々な学会発表でお会いしたことがある諸先生方や学生達が参加しており、より詳細な議論を行うことができました。これまで指導教官のご厚意で、国際学会を11件発表させて頂く機会を頂き、多くの経験を積んで参りました。これまでの口頭発表を聴いてくださった方々や、学会の懇親会でお会いした方々が、有り難いことに私の講演を覚えていてくださり、わざわざ足を運んでくださりました。その当時の感想なども頂き、新たな交流も結ぶことができ、これまでどの発表も一生懸命果敢に取り組んできたことは無駄ではなかったと実感しました。今までの経験は研究だけでなく人脈の拡大にもつながったと感じ、積極的に海外に出ることを勧めてくださった指導教官の立川先生に、大変感謝しております。
受賞はシンポジウムの懇親会の場で発表され、お世話になった多くの先生方、学生方に祝福していただくことが出来ました。今でも、壇上に立った時の会場の皆様の笑顔が忘れられません。本当にありがとうございました。 

参加するに当たって、事前準備など特に意識した点や工夫した点、苦労した点があれば、お聞かせください。

 平岡先生が発見されたこの研究題材は非常に面白く、修士課程だけでこのテーマに関する研究を終わらせてしまうのは後悔すると思い、博士課程に進学して研究を続けた次第です。私の発表を聞きに来て下さる全ての方々に、この研究の面白さや楽しさを知ってもらえるように話しました。また、ポスター発表では時間が長く取れるため、詳細な議論をすることができます。お越し下さる方々の研究のバックグラウンドを聞き、その方に合わせて説明の言葉を変えるようにするなど、とにかく誠実に質疑応答できるよう心がけました。このように相手に合わせながら研究発表するという誠実な姿勢は立川先生が普段なされていることであり、長年、傍で見させていただきながら、授業やご講演を聞いて勉強させて頂きました。

受賞された際の研究室の皆さんの反応はどうでしたか?

指導教官である立川先生はもちろん、同じグループの北先生にも本当に喜んで頂くことができました。お二人には私が学部2年生の頃からお世話になっており、立川研究室の研究室体験に参加した時には、当時ポスドクだった北先生から直接ご指導頂きました。それほど長い間見守ってきてくださったお二人に今回の受賞を報告することが出来て、嬉しかったです。お二人のもとで研究をすることができたからこそ、研究の面白さを知ることができ、自分が一番納得できる道を進むことが出来たのだと思います。
また、ご指導いただいた、当時ポスドクで研究室にいらした山田健太先生や、修士まで一緒に頑張ってきた同期を始め、卒業した先輩達や後輩達にも、まるで自分のことのように喜んで頂けました。
また現在現役の後輩からもお祝いの言葉と拍手を頂きました。今いる学生では私が最年長なので、良いお手本になるよう更に精進してまいります。次は彼らの番です。今回の受賞が少しでも研究室全体の刺激となり、続々と研究で活躍できる人材が排出できることを切に願っています。 

今の研究室の後輩や、これから物質システム科学専攻を目指す学生にメッセージをお願いします。

研究は思い通りにいかないことばかりですし、私も自分の実力不足を日々感じています。しかし、最後まで諦めなかったら必ず形になります。中途半端にせず、決めたら最後までやりぬいてください。私は立川先生に後悔をしない道を選びなさいと言われてきました。常に一番面白いと思える道を楽しんで進んでいけたらいいのかなと思います。皆様の成長を楽しみに待っております。
ところで、私は中学生の頃から途上国援助に携わることが夢でした。当初、医療職を目指していましたが、高校生の時に横浜市立大学の橘研究室と高山研究室で研究体験をさせてもらい、今まで知らなかった物理化学の面白さに触れ、材料科学に非常に興味を持ちました。大学入学後はリベラルアーツを駆使し、国際社会論やJICA横浜との連携授業でJICA横浜での実習に参加したり、マレーシアでのJICAマレーシアやマレーシア科学大学、海外青年協力隊隊員訪問といった実習を受けたりと、一般の理系大学では経験できないような幅広い分野の勉強をすることができました。このとき、JICA横浜の山田保先生から「貢献とは何か」ということを親身に教えて頂きました。そして、一時的な援助をするのではなく、自分が死んでも半永久的に人の為に役に立ち続けるものを残すようなことがしたいと強く思うようになり、研究者になろうと決めました。そして、将来的には、少しでも人の生活をより良くする、誰かの為になるような製品を残し、人類の発展や繁栄に貢献していく人材となってまいります。

立川先生から今回の増子さんの受賞についてコメントをお願いします。

増子貴子さんは、2016年6月に開催された国際会議「32nd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics」でポスター賞を受賞いたしました。3月に開催された「日本化学会第96春季年会」学生講演賞受賞に続き立て続けの受賞、指導教員として、大変嬉しく思っています。研究室を代表して、心から、お祝い申し上げます。

増子さんは、実験だけでは解明することが大変困難な「有機分子の自己組織化機構」をターゲットに、計算科学シミュレーションによる研究に挑戦しています。今回の国際会議では、混合溶媒の溶質分子への影響に焦点を絞って発表を行いました。混合溶媒と簡単にいっても、実際は何万個もの溶媒分子を計算機の中で発生させ、数多くの大規模シミュレーションを実施する必要があります。そして、このような膨大なビッグデータの中から化学の本質を抽出することが、我々の研究の醍醐味でもあります。増子さんは大変緻密かつ大変丁寧に、このような解析をやり遂げることができました。

我々の量子計算科学の分野では、数学、情報を基盤とし、計算機を用いて、物理、化学、生物といった分野の研究を行っております。まさに本学理学系の特色である、学際・融合分野といっても過言ではありません。さらに増子さんは、学部の授業でこのような理学系の科目をバランスよく履修しただけでなく、多くの人文・社会科学系の科目も履修したとも聞いております。そのせいか、常に海外に目を向けており、国際会議での発表に大変積極的で、非常に頼もしく感じておりました。今回の国際会議での受賞も、このような増子さんの背景が強く関係したのかもしれません。

また増子さんは、研究だけでなく、コミュニケーション能力にも大変秀でています。その能力のおかげで、私が参画している科研費新学術領域研究の幹事校の先生から、増子さんを若手の会の幹事に直接指名いただいたこともありました。また私が所属する学会の主催で、中学・高校生向けに化学結合のお話しをする機会があったのですが、同じく増子さんにお願いされ、当日はいつになく、大変好評だったと聞いています。

このように、研究能力、コミュニケーション能力に大変優れた増子さんの、今後の展開を大変楽しみにしています。今回の受賞をステップにして、より素晴らしい研究を行うことを大いに期待しています。 
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