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物質システム科学専攻 高見澤聡研究室が分子の流れを精密にコントロールする新しい機構を開発!

2015.11.17
  • プレスリリース
  • 研究

物質システム科学専攻 高見澤聡研究室が分子の流れを精密にコントロールする新しい機構を開発!

ナノサイズのバルブ開発を可能に

平成27年11月16日
研究推進課

横浜市立大学生命ナノシステム科学研究科 博士後期課程 高崎祐一氏が同大学 高見澤聡教授と共同で、分子流体制御の原理的最小サイズである1ナノメートル(10-9m)を下回る空間を、任意の時間に、かつ任意の位置で能動的に制御する機構を開発し、ガス流体操作の実証に成功しました。
この研究成果は、分子流を微小かつ厳密に切り換えるナノサイズのバルブ開発を可能とするもので、今後、ミクロ流体制御素子の開発を促進し、マイクロ流体チップや医療機器などミクロ流体制御関連技術への貢献が期待できます。
 
本研究成果の詳細「Active porous transition towards spatiotemporal control of molecular flow in a crystal membrane」は英国の総合科学誌 Nature Communicationsに掲載されます(11月16日オンライン掲載)。

研究成果のポイント

○ 細孔要素(ポロン(Poron)(※1))凝集状態の転移で細孔構造をスイッチする新概念の提唱。

○ 迅速かつ可逆的なガス透過方向および流量の新しい制御手法の実験的実証に成功。

○ 微小な精密流体制御素子(ナノバルブ)への応用が期待できる。

○ ナノ流体制御関連技術への貢献が期待できる。

研究の概要と成果

流体の量や方向を制御するバルブ機能は、スケールの大小に依らず様々な流体制御において根幹をなす機構です。従来のバルブは、流体の経路を物理的に遮断もしくは歪ませる機構です。ミクロ流体制御に必要となる装置の微小化と精密な微量流量制御を従来のバルブで実現するには、技術的な限界があります。
今回、応力誘起マルテンサイト変態(※2)を利用し、応力によって多孔質結晶を転移させる機構を開発しました。この機構により、数百ミクロンサイズの微結晶中の任意の場所で、分子サイズの孔を持つ結晶領域を可逆的に方位変換させ、迅速かつ可逆的なガス分子流の制御が可能であることを、単結晶ガス透過膜測定によって実証しました(図1)。
この新しいバルブ機構は、超精密流体制御素子(ナノバルブ)への応用が可能であり、かつ今後のミクロ流体制御素子の開発を促進するものと考えられます。

研究内容の詳細

これまでに、安息香酸銅(II)ピラジン付加物は分子性の多孔質単結晶を生成し、また水素ガスおよび二酸化炭素ガスに対する高い選択透過性を示すことを明らかにしてきました [参考文献1、2]。本研究では、この多孔質結晶中の物質に囲まれた細孔を空孔単位(“ポロン”)の凝集体とみなし、ポロン凝集状態の能動的制御によりガス透過機能をスイッチさせる新しい機構原理の提唱と実験的実証を目的に研究を行いました。その結果、機械的負荷による応力誘起マルテンサイト変態によって一次元細孔の方位変換が誘起され、結晶中のガス透過流路を可逆的にスイッチすることに成功しました(図2)。透過方向のスイッチは、結晶の任意の位置およびタイミングで繰返し誘起できます。また、除荷すると細孔方位が元に戻る有機超弾性(※3)、[参考文献3]の特性により操作簡便性を有していることも明らかになりました。これは、金属錯体結晶および多孔質結晶における初めての超弾性の例となり、有機超弾性による機能複合化で新機能材料を創出する有効性を示すものでもあります。ガス分子サイズと同程度である内径0.8 nmの空孔単位(ポロン)を可逆的に再配向する本機構は、原理上、最小の流体制御手法であり、固体中の分子流を制御する超精密流体制御素子(ナノバルブ)開発の新しい指針となります。
図2. 応力誘起マルテンサイト変態によるガス分子流制御の概念図:

応力負荷/除荷による構造転移(青→赤/赤→青)で細孔方位が変換する様子

今後の展開

従来の微小流体制御は、本質的に経路を歪ませて流量を制御するものであり、ミクロ素子化と流量の精密制御を同時に実現するのは困難でした。一方、本研究成果は、ポロン凝集状態の転移による再配向領域(図2赤領域)の増減により、均質なガス分子経路数(細孔数)を厳密に制御できるため、各細孔からの分子流の積算により極微量の流束でも線形的に制御できる新しい機構原理です。ナノメートルスケールの精密な流体制御(Nanofluidics)能をもつミクロ素子としての利用と今後のミクロ流体制御関連技術への貢献が期待できます。

論文著者ならびにタイトルなど

<タイトル>
Active porous transition towards spatiotemporal control of molecular flow in a crystal membrane.
<著者名>
Yuichi Takasaki & Satoshi Takamizawa*
<雑誌>
Nature Communications
<DOI>
doi:10.1038/NCOMMS9934
<URL>
http://www.nature.com/ncomms/2015/151116/ncomms9934/full/ncomms9934.html

※本研究は民間助成金(泉科学技術振興財団、スズキ財団、池谷科学技術振興財団)ならびに横浜市立大学戦略的研究推進費(G2503)「水素エネルギー有効利用に向けた基盤技術の構築」(研究代表:橘勝教授)の支援を受けて行われました。

お問い合わせ先

本資料の内容に関するお問合せ

公立大学法人横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科
教授 高見澤 聡
Tel:045-787-2187
E-mail:

取材対応窓口、資料請求など

公立大学法人横浜市立大学 研究推進課長 竹内 紀充  
Tel 045-787-2019
E-mail:

参考文献

[1]Y. Takasaki, S. Takamizawa, Gas permeation in a molecular crystal and space expansion, J. Am. Chem. Soc., 136 (19), 6806-6809 (2014).
[2]S. Takamizawa, Y. Takasaki, R. Miyake, Single crystal membrane for anisotropic and efficient gas permeation, J. Am. Chem. Soc., 132 (9), 2862-2863 (2010).
[3]S. Takamizawa, Y. Miyamoto, Superelastic organic crystals, Angew. Chem. Int. Ed., 53, 6970-6973 (2014).

用語説明

(※1)ポロン(Poron)
結晶中の物質に囲まれた真空空間であるサブナノスケールの細孔(pore)を擬粒子(poron)として扱う新概念。細孔構造変化を空孔単位の凝集状態変換として捉える。
(※2)応力誘起マルテンサイト変態
応力の負荷により生じる不拡散型の塑性変形。
(※3)有機超弾性
有機物固体の超弾性現象。昨年(2014年)に初めての報告がなされた[参考文献3](参考情報:平成26年5月19日 本学プレスリリース)。応力誘起マルテンサイト変態によって変形した固体が、除荷後に自発的に形状復元する物理特性。超弾性は1932年の金-カドミウム合金での報告が端緒とされる。有機超弾性の発見がなされるまでは特殊な合金でみられる特異な物理現象と考えられてきた。
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