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HOME > 教員からのメッセージ − At the Heart of YCU > 看護の本質は生命力を高めること。人間性豊かな看護師を育てたい - 野村 明美 准教授

看護の本質は生命力を高めること。人間性豊かな看護師を育てたい - 野村 明美 准教授

患者さんとのコミュニケーションが看護の基礎

看護師の仕事は、採血や注射などを行う「診療の補助」と、食事や入浴の援助などを行う「療養上の世話」です(保健師助産師看護師法)。

現在、大学病院の入院期間は約2週間程です。この期間は治療に専念する時間であり、看護師の仕事は診療補助業務が中心となりつつあります。しかし、患者さんにとっては、治療しながら生活する期間であり、より専門的な日常生活援助技術が求められます。病気をして治療を受けながらも、食べること、排泄すること、眠ること、体を清潔にすることなどが、できるだけ入院前と同じように保たれるように支援する技術です。このような日常生活援助を行っている時、患者さんはいろいろなことをお話しになります。そこから、患者さんの心理状態を把握できるのです。さらに、会話から生まれる精神面のケアは、患者さんの生命力を高めることにつながります。これは在宅看護に移行してからも基本となる看護です。

患者さんとコミュニケーションを図りながら支援していくことが、看護の基礎になります。


野村 明美(のむら・あけみ)
医学群 准教授 基礎看護学
(学部)医学部看護学科 
(大学院)医学研究科看護学専攻 
研究者データベース 

コミュニケーションは「診療補助業務」においても重要です。たとえば、患者さんの採血をする場合、決められた時間の中で血管を逃さないようにしっかりと針を刺す技術が必要です。技術を習得するためには「腕モデル」を使って練習しますが、実際の採血の場合とは大きく異なります。それは、模擬の腕ではなく相手が人間だからです。

患者さんに声をかけて安心していただき、信頼関係の中で行わなければスムーズな採血はできません。このようなコミュニケーション能力はあらゆる看護場面に求められるものです。私は、そのことを学生に伝えていくことを念頭に置きながら、基礎看護学の授業を担当していますCLOSE UP 1

看護の本質を理解した2年目の体験

私自身、臨床に9年間携わっていました。その中で、私の看護に対する考えが生まれたきっかけがあります。看護師2年目の時です。

2年目に配属された耳鼻科で、上顎洞がんという眼窩(目のくぼみ)の下にある空洞に悪性腫瘍ができた患者さんの看護に携わる機会がありました。上顎洞がんの場合、当時命を守るために、上顎洞の腫瘍をできるだけ大きく切除しなければなりませんでした。口の中から手術を行っていくのですが、その際、当時の看護師長が医師に「ここと、ここの歯を残して」と指示されたのです。

何をするのか、私はそのとき分からなかったのですが、手術後、看護師長の指示で、患者さんに歯のカバーをして、口から水を飲んでいただきました。すると患者さんが「おいしい!生き返った。」と本当に嬉しそうにおっしゃったのです。その歯のカバーは、シリコン製で手術の前に看護師長自ら作成したものでした。看護師長は、そのカバーを固定するために残して欲しい歯の指示を医師にしていたのです。

通常は、手術した創が飲食物で汚染するのを防ぐために安全策として鼻から胃までチューブを通して、直接胃に水分を入れるのですが、それでは水を飲むという感覚が生まれません。口から水を飲む、その行為が患者さんの生命力につながることを体験しました。また、医学的にも、水を飲む際に咽頭をつかうことで痰が出やすくなり、肺炎など肺の合併症予防などにも効果的です。患者さんの生命力を高めた看護師長の判断と行動に、看護の本質を実感した瞬間でした。

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あらゆる看護に通じる力を身につける基礎看護学

看護学は、成人看護学、老年看護学、母性看護学、小児看護学、精神看護学、地域看護学などさまざまな専門領域に分けることができます。その出発点となるのが、基礎看護学です。どの専門領域にも通じる「看護の基盤となる学問」です。つまり看護を実践するうえでの土台となる概念、方法論を探求する学問です。
基礎理論を学ぶだけでなく、健康への意識や患者さんの理解など看護職に必要なものの見方や考え方を身に付けるため、臨床現場での実習が重要です。2病院を有する横浜市立大学では、病院と連携しながら、実習を通して看護の学習が行われています。さらに4年間を通して横浜市立の病院や保健所、福祉施設など多くの施設の協力で看護実習ができ、大変恵まれた学習環境にあります。

看護職は一生をかけて成長ができる仕事

技術の進歩に応じて変わっている看護の現状

現在、看護師の業務は医療技術の進歩とともに、常に新しい知識や技術が求められ、いっそう複雑化しています。加えて、医療技術の進歩はスピード化にもつながり、大学病院の入院期間は約2週間が平均です。患者さんの入退院が激しく多忙です。そういった中で、業務についていけない、じっくりと患者さんと関われる時間がもてない、などの理由から、退職する看護師もいます。

大学で学ぶ期間は4年にすぎません。看護職としての知識・技術を全て修得するには短かすぎます。大学では看護学の基礎を学びます。当然ですが、看護の専門的な部分までは深く学習することはできないのです。それを身につけるには時間が必要です。働きながら時間が経てば、周りに仲間がいて、自分の居場所ができます。仲間同士、助け合いながら成長していける環境を徐々に自ら整えることが出来るようになるのです。そして何よりも患者さんとの関わりは、人生において大切なことは何かを教えてくれます。

看護職は一生成長していける職業です。そして、その経験を自分の人生に反映できる仕事です。将来訪れるであろう育児や親の看護という場面でも、自分自身のケアにも、看護の経験は必ず役に立ちます。命と関わる場面で自分の力が発揮できる、やりがいのある仕事ですので、ぜひ続けてほしいですね。

自分の生活を見直すことが看護師の素養を磨くことに

看護師は、他者の健康を支える仕事です。そのためには、まず自分を見つめることから始まると思います。その一つは、自らの生活を知ることです。私の授業では、まず学生に一週間分の生活記録をつけてもらうことから始めています。手洗いなどの衛生管理や、食生活などの日々の行動を知り、その改善の必要性をしっかりと理解することから、健康に関しての学びが始まるからです。

これは、看護学生だけでなく、すべての人にも通じることだと思います。看護学科では、小さい頃から自分の体と向き合う習慣をつけることが重要だとの考えから、横浜市内の小学校への出張授業を行っています。オリジナルで開発したテキスト教材を用いて、命の大切さについての授業を実施しました。また、子どもは病院に対して怖い場所という印象を持ちがちですが、病院の正しい知識を伝えることによって、必要なときには活用して欲しいと教えています。予防していくことは大事ですが、病気になった時には、適切な医療を受けることが必要だからです。この授業は科学研究費の助成を受けて実施しました。

人工皮膚・人工血管装着モデルもオリジナルで開発

野村明美准教授を中心に開発した教材の一つが、採血の練習に使う通称腕モデルと呼ばれる「人工皮膚・人工血管装着モデル」。市販されているものは、10万円以上する高価なものですが、多くは人間のものより皮膚が硬く、血管が太く設計されています。これでは有益な練習ができないとのことから、学生たちとの話し合いを通して、できるだけ実際の腕に近いモデルをオリジナルで制作。この教材は、特許を取得するまでの成果を生み出しました。

看護は、命のバトンを次世代につなぐ支援

豊かな人間性や感性を育むために、書物は重要

学生には、立派な看護師になるために、まずは立派な市民になって欲しいと伝えています。

患者さんは市井の人です。市中に住み生活する人々の気持ちがわかることから、看護ははじまります。豊かな人間形成のためには、さまざまな経験をする必要がありますが、私たちが人生において経験することは、ほんの一部でしかありません。ですから、先人の知恵を学ぶことが大切ですが、その方法の一つに書物があります。

私の研究室では看護の書物以外のものも多数備えています。多くは独文学者、横浜市立大学名誉教授藤川芳朗先生から寄贈されたものですが、学生は繰り返し、研究室を訪れ借りていきます。本を読むことも立派な看護師になるための素養です。

 自分自身が、長く受け継がれてきた命の過程にいる自覚を

最後に少し次元の異なる話になりますが、「現在私たちが生きている」ということは今まで生物がつないできた命のリレーの過程にいるのです。脊椎動物の骨格を見ていくと分かるのですが、脊椎動物はほぼ同じような骨格をしています。人間もまた、大きな生命の系譜を受け継いでいるその一部なのです。そして、私たちはその命を次世代へしっかりとつなげていかなければなりません。そのことを自覚して、一人ひとりかけがえのない自分、私の命、他者の命を大事にしてほしいと思います。その上で、看護という仕事は、その命をつなぐ支援ができる立場にあり、とてもやりがいのある仕事だと思います。

(2013.2.22 広報担当)

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