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HOME > 教員からのメッセージ − At the Heart of YCU > 地球規模の問題をどうすれば解決できるかを研究しています - 上村雄彦教授

地球規模の問題をどうすれば解決できるかを研究しています - 上村雄彦教授

従来の発想を超えた革新的な考え方が問題解決の糸口に

環境破壊、貧困、格差、紛争、感染症など、さまざまな地球規模の問題。これらの問題は、そう遠くはない将来「人類が生き残れるかどうか」という究極の岐路を突きつけています。どうすればこれらの諸問題を解決して、持続可能な地球社会を創ることができるか―これが教育・研究のテーマです。

実は地球問題を解決するためのアイデア、プログラム、プロジェクトはすでに多数存在しています。しかし、それらを実施するために必要なお金が圧倒的に不足しています。その額は一年間でおよそ30兆円。他方、現在世界中のODAをあわせても10兆円程度と、たとえ倍にしてもまだ大幅に足りません。これが問題を解決できない一つ目の要因です。

上村雄彦(うえむら・たけひこ)
国際総合科学群 教授
(学部)国際総合科学部国際都市学系グローバル協力コース 
(大学院)都市社会文化研究科 
国際都市学系グローバル協力コース長。横浜市立大学が事務局となって設立したアカデミックコンソーシアムの活動を推進するグローバル都市協力研究センター長でもある。
研究者情報   授業シラバス 

     

二つ目の要因は、世界経済が以前と変わってしまったことです。本来の経済、いわゆる実体経済は、モノやサービスの対価としてお金を支払うというものです。しかし現在は、大金を株、債権、デリバディブなどに投資して利ざやで儲けるマネーゲーム、つまり実体のない投機的なギャンブル経済が膨張しています。その規模は実に実体経済の13倍以上。これが世界経済を動かしているのです。とりわけ、リーマンショック以降の金融危機で明らかになったように、実体経済に悪影響を与えています。したがって、マネーゲーム経済を適切な方法でコントロールし、正常な状態に戻す必要があります。そのコントロールする仕組みを、統治とかガバナンスと呼んでいます。

ところが、このガバナンスそのものに問題があります。ルールの決め方もお金の流れも不透明で、少数の強者や強国が大多数の弱者と小国を犠牲にし、自分たちの都合のいいルールで自分たちが儲かる統治をしているのが現状です。これが問題を解決できない三つ目の要因です。
少なくともこの3つを変えなければ、地球に明るい未来はありません。

グローバルタックス(国際連帯税)で透明性が高く公平なガバナンスを実現

ということは、現在採られている政策を多少改善しても、問題解決にはとうてい至らない。今こそ、従来の発想を超えた革新的な考え方、構想、政策が必要です。

その一つが、グローバル・タックス(国際連帯税)です。これは、グローバルな経済活動に課税し、税収をグローバルに再分配するという構想で、通貨取引や金融取引にも課税されます。投機で儲けようとする人は短時間のうちに頻繁に取引をしますから、どんどん税金がかかります。一方、投資によって企業を育て長期的に利益を得ようという株主は株を長く保有しますから、あまり影響を受けません。つまり通常の投資には影響が少なく、投機のようなマネーゲームに対しては抑止効果が期待できるのです。さらにグローバル・タックスを実施すれば、貧困や環境等さまざまな地球規模の問題を解決するのに十分な資金を生み出すことができます。

グローバル・タックスの納税者は非常に多数で、多様になります。したがって、グローバル・タックスを管理する機関では、従来の国際機関のように、政府の代表者だけで理事会を構成し、物事を決めていくことはできません。政府だけでなく、市民社会、業界、国際機関など、さまざまなステークホルダー(利害関係者)が理事会を構成し、多様な視点から意思決定をしていく。これこそが、ガバナンスの透明性、民主性、公平性を高めるものとなるでしょう。また、既存の国家に依存しない独自財源を持てるようになれば、大国に縛られない新たなグローバル・ガバナンス(地球的統治)が実現する可能性もあるのです。

これからの世界経済は、若い世代が鍵となる

地球規模の問題を解決していく鍵となるのが、若い世代の教育です。これらの問題に取り組みたいという強い志と知識を持ち、将来、国連や国際機関、世界を舞台に働きたい、と願う学生を育てていきたいです。

最近は、社会的起業など、ビジネスを通じて社会貢献する生き方がよく話題になりますし、適正な利益や収入を得ながら社会貢献ができる仕組みに学生は興味持っています。一例ですが、ワクチン債といって開発途上国の子どもたちにワクチンを提供する資金となる債権もあります。投資によって利益を得ながら問題解決への資金集めに協力できる仕組みで、関心のある学生も多いです。

また、「Goods減税・Bads課税」という政策も大切です。たとえば、炭素排出削減や持続可能性に配慮した生産や流通、貧困撲滅プログラムへの投資など社会や環境に貢献をする経済活動には減税、免税、補助金で得をし、環境に負荷をかける開発やギャンブル的な投機などマイナスになる活動には重い課税をされて損をする仕組みです。社会や環境をよくするためには、意識を高めるだけではなくて、社会の仕組みそのものを変えることが要諦だと考えます。

いかに学生が主役である授業を行うか

授業の模様は、NHKの「白熱教室JAPAN」でも放送されましたが、一番重点を置いているのは、いかに学生を主役にするかということです。知識を与えるだけでは意欲や情熱はわかず、真の教育とは言えません。学生自らが考え、発言し、発表し、ディスカッションすることで、初めて学んだことが自分のものになるのです。

さまざまな問題を一人で調べても限界があります。三人寄れば文殊の知恵で、皆で知恵を合わせれば多様なアイデアが浮かんでくる。そのためには、対話型、参加型授業が不可欠です。まず与えられた課題について一人で考える時間、隣の人とペアになって話し合う時間、少人数のグループで考える時間、グループで発表してそれをクラス全体で共有する時間をそれぞれとって段階的に対話を進め、ディスカッションの経験の少ない学生でも無理なく意見を交換し、考えを共有して深めていくことができるように工夫しています。ここで学んだことは、社会に出てからも大いに役立つと確信しています。

ゼミは完全に学生主体で、司会もコメントも学生たちが行っています。4年生は最高の卒業論文が書けるようになるための卒論演習、2年生、3年生は合同でゼミをやっています。合同でやることで、2年生は目標ができ、3年生は後輩を持つことで伸びていける。毎回、とても90分では終わらず、2時半にスタートした授業が6時半まで終わらない、ということも。まさに白熱教室ですね。ゼミを通じてしっかりと知識と議論の仕方を身につけ、世界を、日本を変えていきたいという強い情熱をもった学生を育てていきたいです。

今やっていることは、「地球市民の育成」といえるかもしれません。一人ひとりがこの地球に生きている市民として、問題を理解して解決のために声を上げていき、諸問題に関わっていくことが大事。深刻かつ複雑な諸問題に覆われている現在、学問のための学問ではなく、現実に世界や社会をよくすることに貢献できる研究や教育こそが求められているのではないでしょうか。


(2012.7.20更新)

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