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木原生物学研究所の木下哲教授のグループが、DNAの脱メチル化制御因子を植物から特定!エピゲノム情報操作による有用植物の開発に期待

2014.09.03
  • プレスリリース
  • 研究

木原生物学研究所の木下哲教授のグループが、DNAの脱メチル化制御因子を植物から特定!エピゲノム情報操作による有用植物の開発に期待

平成26年9月2日
横浜市立大学研究推進課
 
~米国科学アカデミー雑誌『PNAS』に掲載~
(米国東部時間9月1日午後3時:日本時間9月2日午前4時以降1週間以内に電子版に掲載)


横浜市立大学木原生物学研究所のDiana Buzas 特任助教と木下 哲(てつ)教授は、DNAの脱メチル化に必要な因子としてシロイヌナズナよりDRE2を同定しました。DRE2タンパク質は、植物はもちろん酵母からヒトまで保存されているため、今後DNA脱メチル化の普遍的な分子機構が明らかになることが期待されます。
本研究成果は、米国科学アカデミー雑誌『PNAS』(日本時間9月2日午前4時以降1週間以内)にオンライン掲載されます。
ポイント
・DNAのシトシン残基は、メチル基と呼ばれる化学修飾が加えられる場合があります。1)DNAメチル化は、2)エピジェネティックな遺伝情報として生命現象の様々な局面で重要な働きを担っています。
・DRE2は酵母からヒトまで保存されたタンパク質であり、アポトーシスの抑制、Fe-Sクラスターの生合成に関わることが知られていました。DRE2タンパク質の新しい機能として、DNA脱メチル化に関与することを植物のシロイヌナズナを用いて明らかにしました。

研究の内容と成果

DNAのシトシン残基のメチル化は、エピジェネティックな遺伝情報を担い、遺伝子発現に重要な役割を持ちます。また、そのDNAの脱メチル化はエピジェネティックなリプログラミングに必須なプロセスであり、動・植物の3)ゲノムインプリンティングや発生プログラムの初期化、組織・器官分化過程などに重要な働きをしています。本研究では、シロイヌナズナのDNA脱メチル化により活性化されるインプリント遺伝子FWAを指標にして、DNA脱メチル化に酵母からヒトまで保存されたDRE2が必要であることを明らかにしました。

DRE2はこれまでに、アポトーシスの抑制、Fe-Sクラスターの生合成に関与することなどが酵母やマウス、ヒトの研究から明らかとなっていました。また、タンパク質のN末端にメチル基転移酵素に共通して存在する4)S-アデノシルメチオニン結合部位に類似の配列が存在することから、エピジェネティックな機能が予想されていましたが、実験的確証は得られていませんでした。

今回、シロイヌナズナのインプリント遺伝子FWAが活性化されない突然変異体の解析からAtDRE2(Arabidopsis thaliana DRE2遺伝子)がDNA脱メチル化(エピジェネティック制御)に必要であることを証明しました。AtDRE2遺伝子が機能しなくなった突然変異体では、インプリント遺伝子FWAの活性化が起こらなくなっていました。また、複数の遺伝子のDNA脱メチル化が起こらなくなっていることも突き止めました。

今後の展開

今後は、本研究成果が広くヒトや哺乳動物にまで保存されているかどうか検証されることが必要です。また、植物におけるゲノムインプリンティングは、種子の大きさや、種間の交雑の適合性を決定しているため、本知見をイネや小麦に応用展開することが求められます。

※本研究は、文科省科学研究費補助金、新学術領域「ゲノム・遺伝子相関:〜新しい遺伝学分野の創成~」、基盤研究(B)「DNA脱メチル化機構の包括的理解と生物・非生物ストレス応答への新展開」などの助成により、奈良先端科学技術大学院大学、長浜バイオ大学、横浜市大・木原生物学研究所において行われました。

用語解説

1)DNAメチル化
エピジェネティクスを担う代表的な因子。動植物ではシトシンの5位炭素にメチル基が付加される。
2)エピジェネティクス
DNAの塩基配列に変化を起こすことなく、遺伝子の働きを規定し、その働きがDNA複製・細胞分裂を通じて伝達される情報や学問領域
3)ゲノムインプリンティング
エピジェネティクスにより制御される遺伝子発現の典型例。オス親、メス親からもたらされる対立遺伝子にDNAメチル化等のエピジェネティックな情報の違いが存在し、その情報に基づいて片親由来の遺伝子のみ発現する遺伝現象。
4)S-アデノシルメチオニン
生体内物質の一つ。メチル基を供与する。

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
○横浜市立大学 木原生物学研究所 植物エビゲノム科学部門 教授 木下 哲
 横浜市戸塚区舞岡町641-12
 TEL:045-820-2428
 E-mail:
 URL:http://tetsu-kinoshita.jp/(木下研究室)
    http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/genetics/(「ゲノム・遺伝子相関」新学術領域研究)

(取材対応窓口、詳細の資料請求など)
○公立大学法人横浜市立大学 研究推進課長 嶋崎 孝浩 
 TEL:045-787-2019
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