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Jeremy R.H.Tame教授のグループが、遺伝子制御マシンの具体的メカニズムを解明

2009.01.23
  • プレスリリース
  • 研究

国際総合科学研究科Jeremy R.H.Tame教授のグループの研究成果が米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS』オンライン版に掲載されました

遺伝子制御マシンの具体的メカニズムを解明!-ナノスケールデバイス開発に応用可能-

 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科の博士後期課程3年生渡邊真宏氏とJeremy R.H. Tame教授らは、TRAPとanti-TRAPと呼ばれる遺伝子発現制御タンパク質同士が互いに結合した様子の立体構造を世界で初めて原子レベルで解明しました。この研究は、東京工業大学グローバルエッジ研究院・Jonathan G. Heddle特任助教との共同研究*1による成果です。

研究概要

 TRAP(トリプトファン合成制御因子)とanti-TRAP(TRAP抑制因子)は、いずれもバクテリアのトリプトファン合成システム遺伝子の制御に関わっているタンパク質です。TRAPは直径8ナノメートル程度(ナノは「10億分の1」の意味)のドーナッツのような形を持ち、遺伝物質メッセンジャーRNA分子を周囲に巻き取ることによって遺伝子発現を抑えています。一方、anti-TRAPは一辺の長さが4ナノメートル程度の三角形をしており、名前の通りTRAPの活動を抑えて遺伝子発現を促進します。いずれのタンパク質も、人間が作るどのようなデバイスよりも桁違いに小さな「遺伝子制御マシン」と呼べます。

 anti-TRAPがどのようにTRAPの活動を抑えるのか、具体的なメカニズムはわかっていませんでした。共同研究グループはTRAPとanti-TRAPを共結晶化することによって、互いに結合している具体的な立体構造を決定することに成功しました。anti-TRAPは、ドーナッツ型TRAPの周囲に並ぶように結合していたのです。この構造から、anti-TRAPはTRAPのメッセンジャーRNA分子巻き取りを「競合阻害」しているというメカニズムが明らかになりました。
 また注目すべき点は、TRAPとanti-TRAPの非常に対称性の高い整然とした構造です。生体物質は時折このような造形美を見せてくれますが、この構造を利用した「ナノスケールデバイス開発」が期待されています。ドーナッツ型TRAPは、その中央の穴に金属ナノスケール粒子を固定できます。数千個のTRAPを整然と並べることができれば、金属ナノチューブや、単電子トランジスタの基礎となる量子ドット配列などを作成できます。TRAPとanti-TRAPの結合様式が明確になった今回の研究結果は、ナノスケールデバイスの「パーツ」と「接着剤」への応用に道を開いた画期的な成果です。

※本研究結果は、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS」オンライン版で2009年1月22日(日本時間 1月23日)発表されました。また「PNAS」冊子版にも掲載されます。
*1 今回の共同研究チーム
本研究は以下の研究者の共同研究による。
横浜市立大学大学院国際総合科学研究科生体超分子科学専攻設計科学研究室・Jeremy R.H. Tame教授、渡邊真宏氏(大学院生)、朴三用准教授、明石知子准教授、雲財 悟助教、菊池賢一氏(大学院生)
東京工業大学グローバルエッジ研究院・Jonathan G. Heddle特任助教
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