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神経再生促進物質LOTUSが脊髄損傷や視神経障害に効果 ~再生医療技術への臨床応用に期待~

2017.09.22
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神経再生促進物質LOTUSが脊髄損傷や視神経障害に効果 ~再生医療技術への臨床応用に期待~

~英科学誌『Scientific Reports』に掲載~

横浜市立大学 大学院生命医科学研究科 竹居光太郎教授と米国エール大学医学部神経学 Strittmatter教授を主体とする研究グループは、中枢神経系の再生を阻む主要因に挙げられるNogo受容体-1(以後、NgR1)の機能を制御する神経回路形成因子LOTUSが、脊髄損傷や視神経障害の動物モデルにおいて神経再生を顕著に促進することを発見しました。

研究成果のポイント

○神経回路形成因子LOTUSを過剰発現させると、脊髄損傷や視神経障害による障害後の神経再生が促進されることが明らかになった。

研究の背景

損傷や疾患で破壊された神経回路の再生には、胎生期からの一連の過程を再現する必要があります。しかし、一旦成熟した神経回路が置かれている環境では、胎生期とは大きく異なって軸索再生阻害因子が多量に存在するため、その再生は極めて困難であることがよく知られています。
軸索再生阻害因子はNogoを含め複数あり、いずれも神経細胞に発現するNgR1に共通に結合して軸索伸長を著しく阻害するため、神経再生を困難にする主要因としてよく知られています。そのため、これらの阻害因子自体やその受容体であるNgR1を創薬標的として世界中で研究がすすめられてきましたが、それらを有効に制御する物質は未だ見いだされていません。
本研究グループの竹居教授らは、嗅覚情報を伝える2次伝導路である「嗅索」と呼ばれる神経回路の形成に重要な分子として神経回路形成因子LOTUSを2011年に発見しました。そして、このLOTUSは強力なNgR1拮抗物質としてNogoをはじめ軸索再生阻害因子とNgR1の相互作用をさえぎることで、NgR1との結合を介して起こる軸索伸長阻害を遮断することを明らかにしました。
さらに、LOTUSは健常な成体脳に豊富に存在するにも関わらず、神経障害を受けた脳や脊髄では激減することが判明しました。即ち、損傷した脳や脊髄では神経再生能を有するLOTUSが減少し、そのために神経再生能を失うと考えられます。そこで本研究では、この考えを検証するため、減少したLOTUSを遺伝子操作でLOTUSを過剰発現させ、その神経再生に対する効果をみる実験を行いました。

研究の内容

マウスなどの齧歯類では、脊髄損傷後の短い期間(約1週間)に自発的な神経再生が起こり、ある程度の運動機能回復が見られる事が知られています。この自発的回復へのLOTUSの影響をみるため、我々はLOTUSを欠損(LOTUS-KO)させたマウスで脊髄損傷モデル動物を作製し、損傷後の自発的再生状態を調べました。その結果、野生型マウスに比して顕著に自発的機能回復が減少していることが判明しました(図)。このことは、マウスの自発的神経再生能にLOTUSが大きく寄与することを示し、LOTUSは神経再生を促進する物質であることが示唆されます。
次に、野生型マウスが自発的神経再生を示す期間とその後で損傷患部周辺部のLOTUSの発現量を調べました。すると、自発的神経再生を示す期間はLOTUS発現量が維持されているのに対し、自発的神経再生が見られなくなる損傷後7日目以降ではLOTUSが半減することが判明し、LOTUSの発現量と自発的再生能に正の相関があることが分かりました。そこで、LOTUSが神経細胞特異的に過剰発現するトランスジェニックマウスを用いて脊髄損傷モデル動物を作製し、損傷後の運動機能回復を検討したところ、野生型に比して発現量依存的に運動機能回復が有意に増加することが分かりました(図)。
これらの結果から、LOTUS過剰発現はLOTUS欠損とは全く逆の現象を誘起したことになり、遺伝的背景の違いによって神経再生能の有無が逆転することから、LOTUSは神経再生促進物質であることが証明されました。更に、LOTUSの神経再生促進作用を検証するため、視神経損傷モデル動物においてLOTUSをウイルスベクターで遺伝子導入してその効果を検討しました。LOTUSの遺伝子導入による強制発現は、予想通りに視神経の再生を促進しました。以上から、LOTUSの人為的補填で神経再生が促進されることが明らかになり、今後の神経再生医療技術に応用する科学的基盤が確立しました。

今後の展開

本研究によって、LOTUSは神経再生促進物質として脊髄損傷や視神経損傷において有効であることが判明しました。この知見は今後、LOTUSの生理機能を利用した神経再生医療技術の開発に直接的に繋がります。近い将来、外から精製LOTUSタンパク質を投与する薬物治療や、LOTUSを遺伝子導入する遺伝子治療などの神経再生医療技術が確立し、臨床応用へと展開することが強く期待されます。

論文情報

※本研究成果は英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。(英国9月21日オンライン)
Regulation of axonal regeneration by the level of function of the endogenous Nogo receptor antagonist LOTUS
Tomoko Hirokawa, Yixiao Zou, Yuji Kurihara, Zhaoxin Jiang, Yusuke Sakakibara, Hiromu Ito, Kengo Funakoshi, Nobutaka Kawahara, Yoshio Goshima, Stephen M. Strittmatter & Kohtaro Takei.
Scientific Reports, www.nature.com/articles/s41598-017-12449-6

研究費情報

※この研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(B)、および横浜総合医学財団 研究助成、ブレインサイエンス財団 研究助成、武田科学振興財団 生命科学研究助成、上原記念生命科学財団 研究助成、米国Falk Medical Research Trustにより行われました。本学においては「学長裁量事業(第2期戦略的研究推進事業)」および先端医科学研究センターの研究開発プロジェクトの研究成果です。

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
大学院生命医科学研究科 生体機能医科学 教授 竹居 光太郎
TEL:045-508-7240, 7628/045-787-2781, 2769
E-mail:kohtaro@yokohama-cu.ac.jp 

(取材対応窓口、資料請求など)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510
E-mail:sentan@yokohama-cu.ac.jp

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