先端医科学研究センター先端医科学研究センター

ロボット工学技術により細胞から血管創出に成功 ~再生医療実用化が加速~

2017.03.13
  • TOPICS
  • 研究
  • 医療

ロボット工学技術により細胞から血管創出に成功 ~再生医療実用化が加速~

英科学誌Nature の姉妹誌『Scientific Reports』に掲載

横浜市立大学 学術院医学群 循環制御医学 横山詩子准教授、石川義弘教授は、大阪大学大学院工学研究科 機械工学専攻 金子真教授らと共同で、分離された血管平滑筋細胞の周期加圧による、血管組織の創生技術を開発しました。作製された血管組織片は、パッチ(継当て)あるいは血管チューブとしてラット大動脈への移植が成功しています。
iPS 細胞や幹細胞を用いた臓器再生技術の革新には目を見張るものがありますが、各種臓器の再生で最も遅れているのが、意外なことに血管です。血管は、血液を通す単なる「筒」でなく、血圧変動を調節して血流を途絶えさせない機能をもちます。これを可能にするのがいわゆる血管弾性、つまり、「しなやかさ」です。弾性が無ければ、血管は単なる鉄管となり、例えば拡張期に血流が途絶えてしまいます。血管は収縮期に血圧が上がると弾性があるため拡張し、拡張期に血圧が下がるともとの径に戻ります。このため、収縮期に血液が血管内に蓄えられ、それが拡張期に末梢側に放出されます。このように血液が心臓から出てこない拡張期にも、弾性による「しなやかさ」があるおかげで、体中に血液がいきわたるのです。今回の発見では、医工連携によりロボット工学を血管再生技術に応用しました。血管の構成細胞を培養する際に、工学的な手法で周期的に圧力を加えることで、生体移植可能な、高い弾性を持つ人工血管の合成に成功しました。本技術はJST の支援を得てPCT 出願され、指定国移行を予定しております。

研究の背景

「人の老化は血管の老化」(ウイリアム・オスラー)と言われ、これは動脈硬化による大動脈瘤や、腎不全あるいは心筋梗塞の主要な原因となっています。急激な人口の高齢化を迎えた我が国など世界の先進国では、いわば血管の老化が大きな問題となっているわけです。
我が国では毎年4万人が腎不全から人工透析に移行し、自己血管を吻合して人工透析用ができるような血管を作製します。ところが1割弱の患者は動脈硬化が進行しており自己血管が使用できず、人工血管を使用します。テフロンやウレタンを用いた人工血管が使用されますが、小口径のために血栓形成や屈曲閉塞などの問題を抱えています。また人工血管と静脈との吻合部は狭窄を起こしやすいため、透析が長期化するにつれ大きな問題となります。年間6万人におよぶ心臓バイパス手術、患者数は300万人といわれる閉塞性動脈硬化症に対する下肢血管のバイパス術など、我が国の症例数と人工血管需要は増え続け、人工血管の置換術は外科手技としては確立されましたが、人工血管自体の生体適合性の問題は未解決です。
このような問題解決のために、多数の研究開発が行われてきました。ウレタンを多層構造化した素材、ポリエステルを三層化して使用した血管、さらにはテフロンに人工ヘパリンを付着させたものが開発され、最近では、生体素材を活用する目的で、骨髄幹細胞を人工血管に注入したものや、動物細胞を化学処理したものも開発されました。近年ではダチョウの頚動脈を加工処理した人工血管作成や、シリコン製剤を体内に埋め込んで器質化させる技術が注目を集めています。いずれの技術も、人工血管をどれだけ生体血管に近づけるかが最大の目標となっています。これに対して、生体細胞のみからなる人工血管の開発は遅れています。これは血管平滑筋細胞の重層化と弾性線維の形成が容易でない為です。

研究の内容

我々は、血管より分離した平滑筋細胞に周期変動する静水圧を加えることにより、細胞を効率的に重層培養できることと、その培養細胞の層に弾性構造が完成され、生体血管に近い弾性強度が達成できることを見出しました。使用材料は、加圧装置を除けば通常の細胞培地のみです。
我々はラット大動脈平滑筋細胞の層を重ねる度に一定時間の極長周期加圧(0.002Hz,110-180kPa)を加えました。こうして重層>加圧>重層>加圧を繰り返すことにより、30層以上に及ぶ血管平滑筋細胞の立体シートが完成します。この血管細胞シートには、生体とおなじ弾性線維の層状構造が形成され、ストレスファイバーの重合やフィブリノネクチンの形成がみられました。合成された血管細胞シートの強度は生体血管に匹敵する物であり、損傷させたラット大動脈にパッチ状に生体移植した結果、良好な接着と長期生存が確認されました。

今後の展開

生体適合性向上の観点からは、生体血管に勝るものはありません。かつてヒト臍帯血管がそのまま使用されましたが、個別の患者に応じて口径を調整することが難しく、普及には至りませんでした。生体組織材料を合成した人工血管も作製されていますが、製造工程が複雑であり、医療材料としての製造管理やコストが問題となっています。
我々は、培養細胞だけから、人工血管を簡便に短期間で作製する技術を開発しました。従来の技術では、培養平滑筋細胞で血管弾性成分を合成することは困難でした。我々は培養血管平滑筋細胞に、静水圧を負荷することにより(加圧)、細胞の重層化と弾性形成を促進する画期的な装置を開発しました。本製造法は廉価であり迅速に人工血管合成が可能です。
わが国では年間に7万本の人工血管が消費され、市場規模は80億円に上りますが、そのほとんどが輸入品です。またテフロンなど人工素材であるため、生体適合性が問題となっています。我々は、今後この試作装置を空圧装置会社と共同で改良し、短時間で大量の人工血管を作製できる設備装置を開発して、わが国の小口径血管の需要をまかなえるシステム、さらに、作製したヒト細胞由来の血管細胞シートやiPS細胞を用いた人工血管製造を検討し、安全かつ安心な製品として再生医療の臨床現場で使いやすい製品をめざします。これらをわが国の人工血管市場に供給するだけでなく、広く海外に輸出できる革新的な国産技術としての開発を将来的な目標としています。
※本研究成果は英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。(英国3月10日オンライン)
Arterial graft with elastic layer structure grown from cells
Utako Yokoyama, MD, PhD, Yuta Tonooka, MA, Ryoma Koretake, MA, Taisuke Akimoto, MD, Yuki Gonda, Junichi Saito,MD, Masanari Umemura, MD, PhD, Takayuki Fujita, MD, PhD, Shinya Sakuma, PhD, Fumihito Arai, PhD, MakotoKaneko, PhD, and Yoshihiro Ishikawa, MD, PhD

※この研究は、文部科学省 科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究・基盤研究(B)、および文部科学省「イノベーションシステム整備事業 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」の一環として行われました。

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
学術院医学群 循環制御医学教授 石川義弘
TEL:045-787-2575
E-mail:yishikaw@med.yokohama-cu.ac.jp
(取材対応窓口、資料請求など)
横浜市立大学 研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
Tel:045-787-2510 FAX:045-787-2509
E-mail:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加