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神経の再生を阻害する悪玉タンパク質の善玉的生理機能を発見~再生医療技術への応用に期待~

2017.01.11
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神経の再生を阻害する悪玉タンパク質の善玉的生理機能を発見~再生医療技術への応用に期待~

英科学誌Natureの姉妹誌『Scientific Reports』に掲載

横浜市立大学大学院生命医科学研究科 生体機能医科学 竹居光太郎教授、医学研究科 脳神経外科学 川原信隆教授(研究当時)、同研究科 分子薬理神経生物学 五嶋良郎教授、および米国エール大学医学部神経学 Strittmatter教授らの研究グループは、中枢神経系の再生を阻む主要因の一つに挙げられるNogoタンパク質(以後、Nogo)とその受容体であるNogo受容体-1(以後、NgR1)との結合が、発生期の神経回路形成において重要な生理機能を有することを発見しました。
Nogoは、その受容体と結合すると神経細胞の軸索伸長を著しく損なうため、神経再生の阻害物質としてよく知られていました。生体で有害にしか機能しない分子が存在しつづけることは進化生物学上不思議なことです。これまで、記憶や学習に関連する神経可塑性の調節などへのNogoの関連は報告されていましたが、神経回路形成における機能は不明でした。今回、Nogoとその受容体との結合によって「嗅索」という嗅覚情報の2次伝導路の軸索側枝形成が誘発されることが明らかになり、Nogoの神経回路形成における有益な生理機能とその存在意義が判明しました。この生理機能は神経再生においても重要であると考えられるため、神経再生医療技術に必要な新たな考え方の提唱に繋がると期待されます。 

研究の内容

神経回路形成は、発生期(胎生期)における神経細胞の新生と分化・成熟、神経突起伸長(軸索や樹状突起の成長や軸索側枝形成)、回路を形成する結合相手の細胞(標的細胞)を見いだす軸索誘導現象、そして標的細胞との結合(シナプス形成)といった一連の過程からなります。成体脳が損傷や疾患で破壊された時の神経回路を修復する(再生させる)ために必要な過程もこれと同様です。したがって、神経回路形成の分子機序の詳しい解明は神経再生の機序を明らかにすることに該当します。しかしながら、損傷を受けた軸索の再生の場合、発生期の神経回路形成の素過程を成体で再現する必要があります。脳内環境は神経回路が形成される胎生期と成体とでは大きく異なり、また、損傷や変性を伴う脳内には軸索再生阻害因子が多量に存在するため、中枢神経系の再生は困難であることが知られています。
軸索再生阻害因子の一つであるNogoは、神経細胞に発現するNgR1と結合して軸索伸長を阻害する、神経再生を困難にする要因としてよく知られています。ところが、発生期の神経回路形成時においてもNogoやNgR1は発現しており、それにも関わらずNogoによる軸索伸長阻害が起こらずに神経回路が形成される仕組みは長年不明でした。
2011年に本研究グループの竹居教授らは神経回路形成因子LOTUSを発見し、その謎を解きました。LOTUSは嗅覚情報を伝える2次伝導路である「嗅索」と呼ばれる神経投射路に多く発現し、同領域に発現するNogoとNgR1の相互作用をさえぎることで嗅索の神経束形成に寄与することが明らかになりました。しかし、そもそも何故、拮抗させなくてはならないような阻害分子が神経回路形成時の生体に存在しているのか、という基本的な疑問が生じ、Nogoとその受容体による何らかの有益な生理機能を解明するため、本研究を行いました。

今後の展開

本研究によって、神経再生阻害因子として知られるNogoタンパク質の神経回路形成時における生理機能の一端が明らかにされました。この知見は今後、神経再生医療技術の開発でNogoタンパク質に対する対処法の考案に応用されることが期待されます。またNogoやNogo受容体が関連する病態の解明も期待されます。 
※本研究成果は英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。(英国12月21日オンライン)
Axonal branching in lateral olfactory tract is promoted by Nogo signaling
Masumi Iketani, Takaakira Yokoyama, Yuji Kurihara, Stephen M. Strittmatter, Yoshio Goshima, Nobutaka Kawahara & Kohtaro Takei
Scientific Reports 6, Article number: 39586 (2016) doi:10.1038/srep39586

※この研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(B)により行われました。本学においては「学長裁量事業(第2期戦略的研究推進事業)」および先端医科学研究センターの研究開発プロジェクトの研究成果です。

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
横浜市立大学 大学院生命医科学研究科生体機能医科学
教授 竹居 光太郎
TEL:045-508-7240, 7628  FAX:045-508-7370
E-mail:
(取材対応窓口、資料請求など)
横浜市立大学 研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
Tel:045-787-2510 FAX:045-787-2509
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